(朝日が登っても)
全然眠れなかった。朝日が差し始めた空を、カーテンの隙間から覗いたコルは、しばしばした目を瞬いた。
一晩中悩み、弱気になって涙が溢れ、それを耐え、現状の整理とこれからを考えて夜が明けた。
当たり前ながら、解決方法は見つからない。
唯一答えらしいものを導けたのは、記憶喪失の原因くらいだ。
家に帰ったサレナさんはなんらかの原因で倒れた。
顔的に、それなりに苦しんだりしたに違いない。
…さて、秘匿という能力を持つ彼は、日々膨大な“記録”蓄えている。
忘れられることのない情報。忘れたくても捨てられないもの。
そんなたくさんの記録を持つ彼は、多分きっと、これに苦しんでいた。
多分きっとな理由は、サレナがコルに弱音を吐いたことがないから、コルの予想になる。
夜中、魘されるサレナの声を何度も聞いたことがある。
朝は基本的に、地獄のように機嫌が悪い。
脳は記憶の整理を寝ているときに行うというが、きっと彼の睡眠は睡眠にはなっていないのだろう。
サレナは、怒ることもなければ、嫌うこともない。
それは表面上だけの話であり、彼すら気づかないどこかが、キャパシティを越えたのなら?
(秘匿の能力が、暴走した?それで、深層心理的な何かが働いて、防衛装置が作動した、とか)
正直“秘匿”がどう言ったものなのか、コルは詳しくは知らない。
ただサレナさんの“記録”に、鍵をかけたり、開けたりすることが可能だと言うくらい。
「……実は、なーんもしらねぇんすよね、オレ」
大の字になったベッドの上で、朧げに天井を見上げながら溢す。
かれこれ数年、ともにいるがサレナ自身のことでコルが知っていることは少ない。
何もかもを忘れたかったのかもしれない。
自分の知らないどこかで、一人苦しんでいたのかもしれない。
何もかもを忘れるほど、この人は苦しんでたのだろうか。
自分は、そばに居ながらも、それに気づくことはできなかったのだろうか。
過去の己を悔いることしかできず、オレはただ、この人に幸せになってもらいたかったのだと、コルは心の中で叫ぶ。
あの人は今、オレのことを覚えていない。
元来コルは後ろ向きになりやすい。
学生時代、紆余曲折あって自分へ自信を持ったのだが、今回の事件は大いにコルを過去へと戻す。
サレナの記憶に、一欠片も残っていないのが相当ショックであった。
いやでも、とコルは手を握る。
そうだ、そういえば過去、サレナは記憶の鍵で遊んでいた。
適当な寮長や副寮長に関する記憶に1日鍵をかける遊び。
今回はそれの大袈裟版なのかもしれない。
朝ひょっこり起きてくると、やあおはようだなんて、呑気に言ってくるかもしれない。
そう、そうだ、そうだといい。そうであってくれ。
そんなことを願いながら、サレナが起きてリビングの方に出てきた気配を感じた。
重い体をのそりとコルもあげ、リビングへと続く扉を開ける。
だからどうか、「おはよう、コル」って、言ってくれないだろうか。
「あ、おはよう。レギュラスくん」
「……っす。おはようございます」
あぁ、現実はなんて、無常なんだろう。
「眠れました?朝ごはん用意しますね」
「ありがとう。手伝うよ?」
そんな会話すらも、コルの胸を締め付けた。
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