(急転直下)

ピンポーンと家のチャイムがなる。
琴平宮は、はーいと答えながら、パタパタと玄関に向かった。
そうして躊躇なく、玄関の戸を開ける。誰ともわからない来客を、確認もせずに開けるなんて不用心な。と黒いマスクをした友人が言いそうだが、宮はこの来客が誰かわかっていた。

「いらっしゃいませレギュラスさん!
突然泊めてくれなんて珍しいじゃあないですか!ハリナさんはどうs…」

いつも通りの高めのテンションで、友人…コル・レオニス・レギュラスの名前を呼ぶ。
そのまま言葉を続けようとしたが、友人の姿を見とめたところで、宮は言葉を失った。
言うなれば、oh…だ。

元々コルのテンションが高くないのは、宮は重々承知している。
学生時代からそうだった。
けれども、それを遥かに越えそうなレベルに、やばい雰囲気を携えた友人がそこにはいた。

成長した宮にならわかる。これは“悲壮”。
とんでもない顔をしたコルと、宮は対面した。

「……え〜と、とりあえず今日は夕飯食べ……四川風麻婆豆腐、すごく辛いんですが、大丈夫ですか?」
「…………」
「あっプリンも作ってあります」
「…………」
「ほよよ…」

尋ねども、コルは答えない。
流石の宮も困惑した。いつもなら勝手に話を進めんな!とお怒りが飛んできているはずだ。

「……レギュラスさ〜ん……?」

伺うように顔を見ても、ピクリとも目元の表情は変わらない。
えいっと黒いマスクを取ってみても、反応はなかった。

「とりあえずですねっ!玄関もなんですし、入ってください。さあさあっ」

ぱちんと手を叩いた後、宮はコルの手を引いて部屋へと招き入れる。
もう片方の手は、自身のスマホを操っていた。

【レギュラスさんが大変です!集合してください!場所は俺の家で!!】

宮が投下したのは、かつての同級生がいるLINEグループであった。

適任なのはこのライングループにいる一人が浮かぶが、ひとまずはそう、こういう時は美味しいものを……と宮は考えるのであった。


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「………お前ん家は1日1人、人が増える仕組みなのか?」
「え???なんて言いました今???」
「……いやいいわ…」

宮の家へとコルがやってきて、しばらくが経った。
弱った獅子がいると聞いて!!!!と手始めにアルナスルがやってきてからというものの、昔の同級生たちが続々と集まってきた。
今では全員が揃ってワイワイと食事の準備をしているところだ。

「みなさんが一堂に会しましたので!タコパ始めますよ〜!」

ニコニコと笑いながら言った宮の言葉を皮切りに、たこ焼きパーティーが開始されたのだ。

「で、結局コルはどうしたって?」
「それが全然教えてくださらなくて〜毎日ぼんやりしてらっしゃいますし」
「コルクン大体ぼんやりしてなかったっけ?学生時代」
「琴平やヌンキに怒らないのは珍しいと思うが……」
「たしかに…普段であれば怒るタイミングがちらほらありましたが…」
「…うん。静か…だったな…」
「張り合いがないやつですね」

上から、シャロレー、宮、フラッド、フォンス、ナバリ、リシュー、アルナスルである。
好き勝手言われるそんな中でも、うるせーっすよ、という声は飛んで来ず、
コルはちまちまとたこ焼きを焼いていた。

「………………」

全員静かにじっと、そんなコルを見つめる。
そうして、一つだけ思い当たる節はあるのだ。
コルがこうなっている原因というものが。

集まって代わる代わる話をする中、コルと関連づけてたまにサレナの名前が飛び出すことがあった。
その度にコルはびくと震えた後固まるのだ。

これはサレナさん関連で何かあったに違いない!!!

皆の考えはそれで一致した。

(けど何かって何ですかね〜?)
(喧嘩?でもそんなことするようには全然…)
(見えない……よな)
(うーん…)
(たこ焼き焼けましたよ)
(アルクン呑気だね)

皆アイコンタクトで意思疎通をはかるが、原因の人物は分かれども、理由は点で思いつかない。
学生時代においても、卒業してからにしても、あの2人が剣呑だったのを見たことがないからだ。

「………ハリナさんと喧嘩でもしたんですか?ジメジメといい加減鬱陶しいんですが」
「アルナスル!?!?」
「切り込みますね!?」

そんな状況を動かしたのは、アルナスルであった。
彼は昔の一件から、コルには遠慮がない。
そも、ここに訪ねてきた時も第一声が弱っていると聞いて!!!だ。
果たして心配が含まれていたのか、面白がっているのかは、本人しかわかるまい。

「……あー………」

そうしてここでも、本来なら「あ?」とでも低い声で返してそうなコルは、ぼんやりと声を発するだけだった。

「はっきりしてくださいよ。皆、気にしてるんですから」
「ちょ、ちょちょちょアルナスル…!」
「一度待て、ステイステイ」

尚もズイズイと進むアルナスルを幾人かが止める。
でも内心、アルナスルナイス!と思わなくもなくはない。

「………実は、」

わあわあとしていた空間が、ピタッと止まり静かになる。
一度目線を伏せたコルは、そのままことの流れを話したのだった。


--------------


「きおく、」
「喪失……???」

あのサレナに無縁そうな言葉が出てきたことにより、話を聞いた皆は目を丸くしたり、首をかしげたり。各々反応を示した。
まさかだ。あの生きるデータバンクが?そんなバカな。と言うことである。

そしてこの後ろ向きも完全に消えてはなかったんだな………と同時に誰かは思った。

「……えっと、」
「うーーん……??」
「あのサレナさんが………???」

あまりにも未知な状況に、コルにかける言葉が見つからないとは、まさにこのことだ。

「…同級生の力添えというのも限界がありますし、先輩方のお言葉をいただくのも良いのでは?」
「あっそれいい案だな!!!」

そんな提案をした宮に同意したのはシャロレーだ。

「そうですね…あ、ウォルド寮…先輩方とか」
「ちょっと待て」

そしてそれに待てをかけたのがコルである。
別に、先輩方に助言を、ということはよかった。どうでもよかった。
だがレオンに電話をかけるとなると話は別だ。
一方的に頼み事をして、一方的に全ての連絡を経っている今、あの人に電話をされるのはまずい。

「あ、そう言ってたらヴォルド寮長から電話が来ましたね!ナイスタイミングです!!」
「いや出るな」
「もしもし」
「人の話聞かねーな相変わらず」
「ヴォルド寮長お久しぶりd『おいッそこにコルいねぇかッ!』わお」

コルの話も聞かず、電話に出た宮のスマホから聞こえてきたのは、爆音のレオンの声だった。

「はい、いますよ〜変わりますね!」
「変わるな変わるな」

どうぞと手渡されるスマホを受け取り拒否するようにコルは手を振ったが、宮はそう言わずに、と押し付けようとする。
遠慮してるんだ察しろ!!!とコルは言いたくなったが、誰かがスピーカーモードにしたことによりそれは言えずじまいとなる。

『おいテメェコル!!!!お前何また前連絡ぶッちぎッてんだよふざけんな!
わけわかんねェ連絡寄越してきたと思ったら、全部拒否ッてどんな了見だアァ!?!?』

耳が痛くなるくらいの爆音で、レオンは怒鳴る。
怒るのも無理はないだろう。それだけの失礼をコルはレオンにしてるのだ。

『大体テメェはいッつも唐突なんだよ!一言くらい断りを入れてからモノを頼めや!!!』
「すみませんがってつけました」
『屁理屈こねてんじャねーぞ!!!!』

ぶすくれた顔で受け答えをするコルと、それに怒鳴り返すレオンという状況に、周りは懐かしいモノを見てるなぁと感じる。

『ッじャねェ!山ほど文句はあるがそれどころじャねェんだよ。
サレナが、』
「サレナさんになんかあったんすか!?!?」

珍しくやや焦った声でサレナの名を出したレオンに、コルは秒速で食いつく。
これほどまでに気にかけているのに、よく離れる決断ができたものだなぁと誰かは思ったが、だからこそあんな死んだ顔になっていたんだろうな、とも思い至った。

『さッき電話してたんだが、物音とともに切れた。
騒音的にありャ外でも歩いてんだろ。切れる間際に連れてけッつッて声が……』
「は!?何すかそれ!!!」

がっと宮のスマホを掴み、コルは叫ぶ。
それにレオンはうるせェ喚くな、と苛立たしげに返した。

『掛け直しても出やしねェ。お前のとこになんか…』

連絡は、というところで、

「コルクン、サレナさんから電話来てるよ」

フラッドがそんなことを言った。
机の端に置かれたコルのスマホが着信を告げているのが目に入ったからだ。
ディスプレイには、サレナさんと表示されている。

瞬く間に携帯を取ったコルは、慌てたように電話口でサレナの名を呼ぶ。

「今アンタどこに……」
『お前がパンジーだな?』
「あ????????」

思っていた声とは違う声と、第一声の内容で今世紀最大の低い声が、コルから漏れ出た。

パンジーだなってなんだ。
ていうかこいつ誰だ。
サレナさんは?

そんなことがコルの頭で瞬く間に巡ったが、

『サレナ・ハリナは預かった。返してほしくば指定場所に金を持ってこい。
来ないなら売り飛ばす』
「アァ!?!??」

次に続いた相手方の言葉で、その考えていたことは吹き飛んだ。
そうして一方的に電話は切られ、次にSMSメールが受信を告げる。
載っていたのは、場所と、金額だ。

「ど、どうしたコル?」
「………サレナさんが拐われました」
『チッやッぱそういう事か』

少しの間だけスマホを見つめたコルは、尋ねてきたシャロレーに短く返す。
周りはそれにざわつき、電話向こうのレオンも舌を打った。

すくりと立ち上がったコルはスタスタと玄関に行き、そして靴を持ちベランダへと戻る。

『おいコル、ひとまずお前な』
「レギュラスさん何をしようとしてるんですか…?」
「窓開けてどうすんだ?おい、おいおい!」

無言でベランダで靴を履き、柵に足をかけたコルにそれを見た皆が緊張を走らせる。

「レオンさん。メール転送しました。サレナさん連れ戻します」
『、おい早く止めろッ!!1人でいかすんじャねェ!!』
「我らが太陽をここに(アイ ウィル クリエイト)」

能力名を呟いたかと思うと、コルはベランダから飛び降りる。

「コル!?!??」

寸前のところで伸ばされた手は、コルを止めることは叶わず宙をかいた。
次に瞬間には炎の鳥に乗り、空を滑空していくコルの背が見えたのだ。

突然の奇行に驚き、怪我がなかったことに安堵すればいいのか、どうしたらいいのか。

「ど、どどっどうしよう!?!?!」
「、ん…」
『俺も行く。テメェら早くあいつ捕まえろ。いいな?』

ぶつりとレオンは電話を切った。
残された7人は、どうする、とお互いを見つめる。

「……コルクン、一応情報共有するっていう理性は残ってたようで何よりだね」

そう言って、己のスマホから視線を上げたのがフラッドだ。

「俺のところにも来てる。………二手に別れよう。ひとまず、俺とアルくんとシャロレークン……それから怪我の時のためにフォンスクン。索敵にナバリクン。
リシュークンと宮クンはここで待機」

テキパキとフラッドは人員分けを行う。
能力的にも、これが妥当なところだろう。

「宮クンたちは他に協力仰げそうな人がいたら連絡とっててくれる?」
「!お任せください!」
「わかった」

バタバタと最低限の荷物を持ち、外へ出る組は靴を履いた。

「まったく、1人で先走るんですから…」
「メール転送しただけまあまだいいんじゃないかな…」
「頼むから危ないことを1人でしてくれるなよ…」
「早く追いかけましょう」
「待てよコルーーー!!!!」





急転直下
(サレナさん、サレナさん…!!!どうか、無事で…!!!)

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