(きおくの目覚め)
人は等しく得意ではない。交流を重ねるうえで例外が発生しようとも、あの日以来警戒する癖がついてしまったのは、仕方のない話である。
だから、この感情は初めてだったのだ。幸せを願うことはあれども、幸せにしたいと、隣にいるのは自分がいいと。人に固執したのが。
だから彼は恐れる。突き放されることを。拒絶されることを。逃げ出されることを。
だから自分から動く。自分が深くいかなければ突き放されることはなく。自分が嫌がることをしなければ拒絶されることはなく。自分から離れれば、逃げ出されることはないと。
だから、逃げたのだ。
忘れたい記憶だから失った。鍵をかけたい存在だったから記憶を閉じた。そんなことを、告げられるのが恐ろしい。
いや、現に突き付けられたのだ。遠回しの拒絶を。
傷の浅いうちに逃げ出すことを決めた彼は、ありもしない設定をぶち立て、虚言を並べ、先輩に後のことを押し付けた。
もう二度と関わらないつもりで、会わないつもりで。
でも、その体は当たり前のように動く。あの人の危機に動揺し、怒りに震え、無意識に動く。あの人を助けるために。
――つまる話、この二人は自分に自信がないあまり、壊滅的にコミュニケーションが行えていなかった、と思うのだがいかがだろうか。諸君。
不死鳥の彼に至っては、「お前二度目だろうが学習しろ」と、黒獅子の彼に言われることだろう。
そこからは結構な大騒動だった。
一人先行したコルは炎で相手を死ぬほど威嚇し、ひるんだ相手に現着した黒獅子、レオンが飛びついたところで大混乱。そこに遅れながらやってきたフラッドが相手を信者化してみんなでとっ捕まえて……。
なんやかんやあったが、サレナは無事だった。
誘拐事件を企てた馬鹿どもは警察に突き出し、「こんなことがあった中一人にしてやんな。うちは定員オーバーだ。あとちゃんと話せ」とレオンに言われ、宮に「あなたの寝床はありませんから!」といわれたコルは、サレナとともに懐かしきシェアハウスへと舞い戻ってきた。
どうにも気まずい思いを抱きながら――コルにとってサレナの気持ちは不明だが――、コルはサレナに風呂に入るように促し、ソファに沈んでいた。
久々にあそこまでの能力を使ったためか、沈めた体が重くなる。瞼が寝てしまえと閉じ始める。
――あぁ、けど。サレナさんがちゃんと眠れるのを、確認しなくちゃ……。
そう思いながらも、うとうとと。コルは眠りの底へと落ちていった。
◇
これは夢だ。どこかふわふわとした感覚で、あたりを見渡したコルは思った。
あまたの星がまるで落ちてくるように流れる夜空を見ながら、夜風を浴びる。その星たちが突如、ある一点をめがけて落ちていったなら、驚くほかないだろう。
ざくざくと立っていた草原を歩き、星の落ちたところを目指す。そこは湖畔のほとり。一人の男がうずくまっていた。
なんとかかんとか。サレナさんとの本心の会話?をしたいけどサレナさんの本心とは(by白藤)
さあ、カギを開けて。あたたかな炎は冷えた蠍に宿り、その記憶の扉を開くだろう。
蠍の彼はにこりと微笑みだけ返し、宿った炎がうねりを上げてあたりを包んだところで、夢から覚めるのだ。
◇
「……」
カーテンの隙間から太陽の光が差し込んで眩しさにコルは瞬く。
なにかよくわからない夢を見ていた気がするな、とコルは目をこすりながら体を起こそうと思った…が、重い。
自分の体に何か重みのあるものが乗っていることに気づき、なんだなんだとブランケット――掛けた覚えはない。多分風呂上がりのサレナが掛けたのだろう――をめくった。
「な、」
めくった先に見えたものに、コルは驚きを禁じ得なかった。
そこにいたのは、コルを枕にして眠るサレナだ。
驚きの声はとっさに抑えられたものの、びくりと体が動いたことによる振動がサレナに伝わったのだろう。
ゆっくりと彼の眼が開けられる。
コルは、はあ、と息をついたところで、今までの通りの言葉を発する。
「びっくりしたじゃねーですか…。おはようございます、サレナさん」
そうして、記憶を失ってからは聞きなれた言葉がきっと返ってくるはずだ。
――おはよう、レギュラス君
「おはよう、コル君」
にこりと、蠍は微笑む。
「はい、朝飯なんか食います、か…、…?」
寝ぼけた頭だったため、違和感に気づくのに一拍遅れた。
その違和感がほどかれていくとともに、コルの頭は覚醒したことだろう。
「もしかして、記憶……もどりました…?」
「ぐにゃんから本船ギアで精製だね」
「……一緒にいても良いんですか」
宮の家にある荷物を回収してきてね。
そうサレナは言った。
そんな言葉に驚いたように目を瞬いたのは、コルだ。
だって、忘れたいほど嫌われたんだと思ったから。
「?うん」
サレナはというと、キョトンとした顔をしたあと、頷いてにっこり笑った。
「…はは、なんだ」
本当にすれ違いだったわけ?
コルはヘナヘナと力が抜け、安堵したように息を吐いた。
我らが元寮長の言う通りだったのだ。
ちゃんと話せ。テメェら絶対誤解がある。
つーかテメェが先走りすぎ。
全くもって、その通りだったと言うわけだ。
「はー……わかりました。回収してきます。
それで、話をしましょう。サレナさん」
深くを触れたがらない2人で、今度こそ勘違いしないようにしっかりと。
まさか、サレナが記憶を失った理由が、
寮長と副寮長、という立場なく出会っていたとしたら。
どんな印象になるのか知りたかったなどと…コルは思いもしないだろう。
きおくの目覚め
(『コル君!?!?記憶喪失のサレくん置いていくってどういうつもり!?!??』)
(す、すみません…)
(『サレくんもコル君もコミュニケーションが足りないんだよ!!!』)
(おっしゃる通りです…………)
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