(雪の降る聖夜)

12月某日

伊能は佐原の街を歩いていた。今回の目的はズバリ、さんたくろーすなるものになるためのプレゼント探しだ。
外国にはさんたくろーすという赤いヒゲのおじさんが子供達が欲しいプレゼントを与えているという事をモーツァルトから伊能は聞いた。
さんたくろーすをイマイチよく理解できていない伊能はとりあえず自分より年下のやつに何か与えるか。と考えたのであった。
ここで普段貯めている伊能の貯金が火を吹くのである。

とは言ったものの、皆がなにを欲しがるのか伊能は考えかねていた。
坂元はどうとでもなるが年の離れた若い者たちは今時なにを欲しがるのか。
悩みどころである。

(坂元、聖、守孝、ガリレオ、それから征にダルク、幸村、あぁチャップリンも来るとか言っていたな。あとは同盟先の女王とサミュエルに贈るか)

くりすますぱーてぃーとやらを伊能家でやるらしく、とりあえず参加者全員と普段世話になっている同盟先の二人を思い浮かべプレゼントを考える。

若いな…と同時に思った。

(さてどうするか)

道端で足を止めて首を捻る。

「征は…まぁ畳か。相変わらずうちに来てはゴロゴロゴロゴロ…あいつは自分の領土に居なくていいのか…。
坂元は…酒か。酒でいいか」

ここら辺はすぐに思いついた。

再び足を進めていると、民たちから様々に声をかけられる。

「伊能さん!美味しい蟹いかがですか!海老とか肉とかもうまいの仕入れてますよ!」

食べ物で浮かんだのは幸村である。
そうだそれにしよう。と伊能は手を叩き、蟹や肉などを詰めてもらう。
でも今は持ち帰れないので、取り置きを頼んでおいた。他の買い物が終わったら取りに来ることにする。

(守孝とガリレオには珍しい本を見つけたからそれを、ダルクには万年筆をやろう。この前壊したと嘆いていた。サミュエルは日本の物語の本とかどうだろうか)

男性陣への贈り物が続々と決まり買っていく中、一番頭を悩ませるところがやってくる。

女性陣だ。それも若い。

「今時の女はなにが好みなんだ……」

全然わからん、と小物屋の前で顔をしかめていると、伊能さん聖ちゃんに贈り物ですか?と店員に聞かれる。

「あぁ、さんたくろーすとやらになろうかと…」
「あら伊能さん流石家族想い。
実はですね、聖ちゃん前にこの髪飾りを物欲しげ〜に見てたことがありましたよ。お金たりませんから…って言って、結局帰っちゃったんだけれども」

そうして店員は一つの髪飾りを指差す。
聖に似合いそうな髪飾りだ、と伊能は見た。

「じゃあそれを包んでくれるか」
「かしこまりました〜」
「あと、女王とチャップリンになにかいいものはないか」

あそこらへん特になにが欲しくてなにが気に入るかわからん。といえば、伊能さんらしいですねぇと店員は笑った。

「エリザベス様とシャーロット様ですか。そうですねぇ…エリザベス様には簪をお勧めしておきます。松嶋屋へ行かれては?
長い綺麗な御髪だったと思われるので、きっとお似合いかと」

なるほど、と思い伊能は松嶋屋へと移動する。
松嶋屋の女将には伊能さんまめねぇと言われつつオススメを聞いた。
デザインは自分で決めて下さいね、と言われて、うっとなりながらも、エリザベスの姿を浮かべつつ選ぶ。

「シャーロット様は…白木屋で以前お着物を買われたんですよね?
巾着袋とかいいのがあるんじゃあないですか?」

ははぁそういえばそれはつけなかったなぁ、と思い、簪の包みを受け取ると白木屋へと向かった。
この時点で伊能の荷物はたくさんで、伊能さん大荷物ですね〜とすれ違う民に口々に言われた。

どうか坂元達には会いませんように。と祈りながら移動したのである。
さぷらいずとは存外楽しいものであると伊能は知った。

「あら景敬くん大荷物」

いつもの微笑みを見せる白木屋の女将にまぁ…と伊能は薄く笑った。

端の方に荷物を置かせてもらって、店の中を見る。
チャップリンに前やったのは綺麗な青い着物、と思い出しながら巾着袋を見た。

「明日のさんたくろーすですか?伊能さん」
「まあな」

くすくすと微笑ましそうに笑いながら言う女将に伊能は頷く。沢山買ってお金は大丈夫?と言われて、伊達に稼いで貯金してないんでな。とニヤリと笑ってやった。流石だわぁ。と返される。

「これを包んでくれ」

悩んで決めて、女将に包装をお願いする。
包装を待っている間着物を新調しようかどうしようかとりあえず見ておくか、と思いながら着物を見ていると、紺色の着物が目に入ると同時に、野菜嫌いの大きな子どもを思い出した。

(そういえば、着物が気になるとかいつか言っていたか)

サイズはなんとなくだが大体わかる。
ふむ、と考えるように伊能は顎に手をあてた。

「女将」
「はぁい」
「この着物も包装してくれ、その後輸送に出して欲しいんだがーー…」

ここは歳上の財力の見せ所か。
まぁ前回会った時、少し野菜を食べたからその褒美とでもしよう。と思いながら、その着物の宛先をアーカム、ハワードの家を指定したのであった。



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くりすますぱーてぃーも終わり、泊まりの子ども達を寝かしつけ、その後の坂元との晩酌も終え、寝静まった伊能家。

日付を超え、12月24日から25日へとなった。

一人まだ起きていた伊能は押入れの中からこの前買ったものを取り出す。

さてさてここからいかにばれずに置くか。
坂元は酒を盛りに盛ったので早々起きまい、と思い居間に寝落ちている坂元のそばに酒を置く。

「メリークリスマス。良き1日を。親愛なる親友よ。これからも息災で」

幸せそうな顔をして寝ているなこいつ、と持っていた筆を動かした。

次に佐江とガリレオと幸村が寝る離れの一室へと向かう。
珍しくガリレオが寝ているなぁと思いながら、大方佐江と幸村に振り回されて疲れたか?とまくら投げをしたであろう跡を見ながら、それぞれの近くへと贈り物を置いていく。

「メリークリスマス、守孝。いつもそばで支えてくれてありがとう。
メリークリスマス、ガリレオ。正しい生活習慣を送ってくれよ。体に悪いぞ。
メリークリスマス、幸村。いつでも佐原に来い。ここは君の家だ。元気に暮らせ」

すよすよと(うちガリレオは少ししかめっ面で)眠る三人の頭を撫でながら伊能は言葉を紡ぐ。

次は佐江達の隣の部屋、なぜこの部屋割りになったのか、ダルクと征。
心の壁が見えるな…とギリギリにまで端に寄って寝ているダルクとまるでなにも気にせずど真ん中で寝ている征に伊能は少し笑った。

(征のプレゼントは直に向こうに送ったが…起きて自分だけなかったら拗ねそうだしな)

別に買った和菓子を征の枕元に置く。

「メリークリスマス、征。聖を追いかけ回すのはいいが、別のこともきちんとしろよ。…うちに遊びにくるのも、構わないが、あまり側近達を振り回してやるな」

聖ィッと唐突に叫んだ征に、寝言か…と苦笑いをしつつ布団を掛け直す。

端の方に寄っているダルクの方へ行き、同じように枕元のそばへと置く。

「メリークリスマス、ダルク。君はいつも努力家で負けず嫌いで、とても優しい子だ。困ったことがあれば迷わず頼れ。君に幸多き事を」

しかし美少年だな、とめったに見ない寝顔を見つめ、伊能は離れを出た。

最後は二階、元聖の部屋。

女の子達が寝ている部屋に忍び込むのはどうかと言われそうだが、この際多めに見て欲しい。
と思いながらそっと襖を開ける。

「メリークリスマス、聖。君の成長は早いな。もう少し私を頼っててもよかったんだぞ。…君がこれから先、もっと幸せになりますように」

微笑み、今までと同じように頭を撫でる。

「メリークリスマス、チャップリン。
幼いながらもきちんと領主をやっていて、君はすごいな。尊敬するよ。でも、あまり無理はしすぎるなよ」

あどけなく眠る少女が、領主と言う命を背をっていることに伊能は少しばかり心配になる。
そんな柔な人物ではないということはわかっているが、それでも。
するりと頭を撫でて、伊能は部屋を出た。

「さむ…」

ひんやりとした寒さに思わず声が出る。
ふと外を見ると、白いものがちらついていた。

「雪か…どうりで…」

ホワイトクリスマスと言うんだったか、と思いながら夜空を見上げる。

「…メリークリスマス。佐原」


朝になれば、向こうの方も荷物が着いている頃だろう。
風邪をひかないうちに部屋へ戻ろう。と伊能は歩を進めた。


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朝、それぞれの地に佐原からの荷物が届く。

エリザベスの元には、簪。

『メリークリスマス。エリザベス女王よ。
日頃の感謝を込めて、些細であるが受け取ってくれ』



サミュエルの元には日本語の本。

『メリークリスマス。サミュエル。
また佐原に立ち寄って、色んな話を聞かせてくれ。
日頃の感謝を込めて。大した物ではないが、受け取ってくれると嬉しい』




ハワードの元には着物。

『メリークリスマス。ハワード。
この前野菜を食べた褒美だ。
あの調子で少しずつ克服しよう。
風邪には気をつけろ』



そうして、伊能の家では子ども達プラス大きな子ども2名のテンションの高い声が響くのであった。




メリークリスマス!
(ぶっやはり傑作だな。我ながら筆の扱いはうまい)
(なんだ景敬!俺の顔を見るなり笑って!)
(坂元よ…貴様一度鏡を見て来い。なかなか滑稽ぞ)
(?)
(墨で落書きされてますよ〜)
(!???景敬ァ!???)

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