(落としたのだあれ)

※pkg注意



津波から自身のサーカスをよければ見に来てくれないかと言われたのは数日前のことだ。

大体断ったり断らなかったりバラバラだったスウェイだったが、今回は特に用事もないし、またあの素晴らしい時間をくれるサーカスを見たいと思ったため、頷いておいた。

いつもなら何も持たずに手ぶらで行くスウェイだったが、今回はなんとなく、いつもの感謝も込めて花束を買って行った。
公演が終わった後にでも楽屋に持って行こう。そう思いながら、こんな自分でも構ってくれる彼のことを思い浮かべながら、彼に似合いそうな花を選んだ。

彼は、津波は、普段雪山や、街中で会う時と、ステージの上で立っている時だと随分と雰囲気が違う。
出会った当初はお調子者でふざけているやつ、というなんとも微妙な印象だった。
ヘラヘラと笑う姿に何回か苛立ちを覚えたこともある。

初めてサーカスを観に来るように誘われて、渋々行った。
そこでやっと、彼は団長だったのかと認識した。
普段とは違う雰囲気に飲み込まれて、柄にもなくかっこいいなどと思いドキドキしていた。
もちろん他の団員たちが織りなす舞台も目を見張るばかりで、あっという間に時間は過ぎていった。

そこからである。少し自分がおかしくなったのは。
彼が笑うと動悸が激しくなるし、彼が自分の名前を呼んでくれると顔が茹だったように暑くなる。
目の前がキラキラチカチカして、不思議な心地にもなった。

ここ数ヶ月、スウェイはまだ知らぬ恋というものに振り回されていた。


(今回のも、すごかったヨ…)


はぁ〜っとまだ夢心地なスウェイは息を吐く。

(あれは練習すればワタシにもできるのカ…今度津波に聞いてみるネ)

団員たちの大技を思い出しながら、自分がもしもできたら、と想像してふふっと笑った。

「そういえば、津波どこにいるんダロ…」

やっぱり楽屋かな、と津波経由で知り合った団員に声をかけ通してもらう。

(津波、お疲れ。今日の公演もよかったヨ。か、かっこ、よか、よかったよ。津波、お疲れ。今日の公演も……)

部外者が長居してはダメだと思い、ぱっと渡してパッと帰ろう。と思い、渡すためのセリフを頭の中で繰り返す。

その時津波の声が聞こえてスウェイはバッと顔を上げる。
少し遠いけど、多分こっちからだ。と角を曲がったところでスウェイはピタリと足を止めた。

津波が多分団員であろう女の人と仲よさげに笑って、話していたところを目撃したからだ。

スウェイはその場から凍りついたように動けない。
その間津波と女の人は軽いボディタッチをしながら話を続ける。
いつもの笑顔だ。

その時ズキっとスウェイの胸が痛んだ。

「…っまた、」

バサリとその場に花束を落としたまま、スウェイはその場から立ち去ったのであった。



「うん、今日はお疲れよく休んで」

津波は話していた団員と別れ、先ほどまでスウェイがいた方へと向かう。

「ん?」

角を曲がったところで足元に花が転げていることに気づき、首を傾げながらその花束を拾い上げた。

「花束…?誰かの落し物かな」


自分の髪と同じ水色の花束を津波は不思議そうに見つめるだけだった。





落としたのだあれ
(なん、なんダロ…また、痛いヨ…)
(ワタシ、何か良くない病気カ…!??)

(まーとりあえずどこかに飾っておこうか)

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