(輪廻転生、命は巡る)
すうっと目がさめる。いつも通りの朝、いつも通りの時間。
起き上がってまだうす暗い空を見上げる。
今日は5月17日。
マエの俺が死んだ日。
と言っても、この世界に転生した偉人の中では自分は天寿を全うした方だ。方だというか、絶対全うしただろ。
壮絶な最後を迎えたわけでもないし、大往生だったなぁとしみじみする。
唯一心残りだったのは地図の完成まで見れなかったことか。
まあ優秀な弟子たちがきちんと完成させてくれたので、そこまで気にすることではない。
「しかしなんだ、不思議な心地だな」
空を見上げたまま、一人呟く。
「自分の命日を迎えれるなんてな。これで、何度目か」
記憶が戻ってから、何度も5月17日を迎えた。
もう一度生を受けるだなんて、あの時の自分は思ってもみなかっただろう。
「でも、ここにこれてよかったよ」
様々な奴らに出会った。
あの時とは違う、外国の文化にも触れれた。新たな出会いと、新たな知識を得れた。
「あーおはようーございます〜いのーさん」
「おはよう、佐江」
新たな大切なものができた。
「今日シャーロットさんくるんでしたっけぇ」
「あぁ、そうだな」
「じゃあ美味しいもの作りますね〜」
「ありがとう。頼む」
そう言って佐江はのぼのぼと台所の方へと向かう。
私は寝巻きからいつもの服に着替え、佐原の街へと繰り出す。
港街へ着き、朝一番についた船を見上げる。
船から人が降りてくるのを私は見つめ、目当ての人物を探した。
一人の女と目があうと、そいつはぱあっと花が咲いたように笑う。
釣られて私も笑った。
「景敬さん!」
「シャーロット。よく来たな」
「へへ、朝一で来ちゃったよ!」
「仕事終わってすぐ飛び乗ったのか。少し休んでから来ればよかったのに」
「景敬さんに早く会いたかったからね!」
ぎゅっと飛び付いてくるシャーロットを私は優しく抱き返した。
「5月17日だね、景敬さん」
「そうだな。と言っても、本当、坂元たちと比べて、命日ってこと以外にこれといってないんだがな」
「それでも、重要な日さ」
シャーロットの言葉にそうか、と私は言う。
確かに重要では、ある。この日がなければ俺は、生まれ変わることはなかっただろう。
シャーロットという愛しい存在と巡り会うことも、なかっただろうな。
「この運命に感謝、だな」
生まれ変わったことで全てが良かったことばかりではない。家族は失った。守れない歯がゆさを知った。
でも、今までの人生があったからこそ、今の俺がいるのに変わりはない。
安らかに眠れ、前の俺。
悔いのないように生きよう、今の俺。
輪廻天性、命は巡る
(佐江が今日の晩御飯奮発するって)
(わあ本当かい!?)
(エビの天ぷらとかも作るとさ)
(やった!)
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