(ずっとずっと)
海兵師団に入る日、入団式に行く前に日課となっているユリアンの所へ訪れる。師団に入ったら任務で前みたいに頻繁に来れないかもしれない。まぁ私が行かなくても彼はどうでもいいだろうけど。
カランと扉についた鐘が鳴る。中に入るといつもの位置に彼がいる。
おはよう、と声をかけて少し散らかってしまっているものを仕舞っていく。
前の俺が言うとおり、彼は片付けが本当に苦手らしい。散らかるのが早い。
そもそも散らかったことのない私は散らかる理由がわからなくて、少しため息をつきながら物を回収していく。
すると「おい」と低めの声が私の背に投げられる。
「なにかしら?」
触ってはいけないものだったかしら、と思いながら私は小首を傾げた。
すると彼は「来い」と短く言う。
断る理由もないため、不思議に思いながらも彼のそばへと移動した。
「で、そのままじっとしてろ」
そばに行ったと思うとそう告げられたので、大人しくしておく。
すると彼は私の耳についていたピアスを外し、何か別の…新しいピアス、かしら。それを無骨な手には似合わぬような優しい手つきでつけてくれた。
「ピアス…?」
「あぁ」
そっと耳で揺れる物を触ってみる。
とことこと鏡の前へ移動して、つけられたものを確認した。
これ、私知ってる。
一目見て、すぐわかった。
俺がいつもつけていたあれと、同じ素材。
そして、俺と私と変わらぬ淡いエメラルド色の瞳の色の石。
なるほど。彼はまだ、前の俺を思ってくれているのか。
自分のことのように、というかある意味自分のことなのだが、自分であって自分ではない昔の俺を思ってくれる彼の優しさが自分のことのように嬉しかった。
クスクスと笑いながら髪をかきあげて彼に見せる。
「ふふ、ありがとうユリアン。似合うかしら?」
貴方が私を見てるようでたまに俺を見ていることは知ってる。
少し切なそうになるのも、知ってる。
ごめんなさいね。前の俺が貴方のそばが居心地良かったように、私も貴方のそばが居心地良いの。
だから私は貴方の優しさに漬け込むわ。
「あぁ、よく似合ってる」
貴方は自分が無力と思うかしら。
私はそうは思わないけれど。
ずっとずっと
(不器用で優しい人)
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