(あいつ、とは)
あいつが私たちの前から消えて17年この千年町に来て17年
あいつを嫌いになって13年
母さんが死んで5年
「俺だって男なんすよ、市子さん」
そして、
「好きです、市子さん」
28年生きてて、こんなに迫られたのは、初めて。
この子に告白されたのは、2回、らしい。
鐘崎おくる。郵便局の配達員、19歳。ゆかりべの常連で、口数は少ないけどいい子。弟みたいな。
それが私の認識。
最初は冗談か、拗ねてるんだと思った。
俺だってもう男、こどもあつかいするんじゃないやい、という感じの。
でもどうやら当の本人は、別のことで意地になっていたみたいで。
さて、そんな彼の気持ちに全く気づいていなかった私だが、なぜ、二度目の告白あんなにも頬が熱くて、汗が出てたかというと、二度目の告白だから気づいたのでは、ない。
というか多分、何も知らなかった私だったら、あの二度目の告白さえも冗談だと思っていただろう。
我ながら呆れるぐらい、自分に関しては疎い。何故だかは、よくわからないが。
気づいた理由は常連のおやじさん達の言葉。
は?と首をかしげた時はなぁんだ気づいてないのか!って大爆笑されて少し苛立ったのは秘密である。お客様大事。
「彼は市子ちゃんのことが大好きらしい」
「いやぁモテるねぇ市子ちゃん」
「いや、なんの話だかさっぱり…」
「おやあれだけあからさまだというのに!」
「よおく考えてみなよ、あの子の行動の理由とかさ〜」
最初は何言ってんだこの酔っ払いども、とか思いながらまさかな、と考えていた。
あえて私をその、男女的なあれで好きになることはないだろうと思っていたからだ。
…で、その常連のお言葉のおかげで、必要以上におくるを意識するようになってしまったわけだが。
今思い出しただけでも心臓に悪い。恋愛に慣れてない私にとって、彼の行動は熱烈すぎた。
最初はどうにかありがとう、と笑って流せていたが、あそこまで迫られたのなら、もう勘違いだとして処理するには、難しすぎた。
最終的にはすぐ赤くなる始末だ。いい歳して慣れてないのかって?あぁ、慣れてへんってさっき言ったやろ!!!!
年の近い奴らになら何度か酒の席で言われたことはあれども、あんなに真剣に言われたことはな……
…彼もまさか……いいや、なんでもない気のせいだな。だって彼の中で一番はきっとあの聡い少年だ。
で、大胆に色々と好きを伝えてくれたわけだが…
二度目の告白。これを冗談と受け取るには、私は彼の気持ちを知りすぎたらしい。
ぐるぐる回った働かない頭で出した言葉は、「か、考えさせてくれ!!」と、まぁ、期待を持たせるような返事。
付き合う気がないのなら、断ればよかったとあの後後悔したのである。
早く私以外のいい人を見つけて、あの子は幸せになるべきだ。
私以上にいい人は沢山いる。…あのこの歳に近い子も。
身支度が終わり、ちゃんと綺麗に着れているか鏡を見る。
そうして私は鏡にうつる自分の姿に顔をしかめる。
窓から入ってくる太陽の光に照らされて、髪の毛が青くキラキラとひかり風になびく。
ほのかに瞳も、黄水晶の色が覗く。
「…ちっ」
小さく舌を打ち、鏡から目をそらす。
そうして店の開店をするために準備をしに、部屋を出た。
きっと何時迄も足踏みしているのは、あいつのせい。
あいつ、とは
(思い出したくもない、奴)
(そして、自分の姿を見るたびに思い出す、奴)
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