(そうしてまた)

苦しいよ、苦しいよ。どうしておいて行ったのお父さん。
私が嫌いになったの。お母さんが嫌いになったの?
いやだ、置いていかないで。愛して、お母さん、いつも、泣いてたよ。
お父さんのこと、大好きなんだよ。
私も、お父さんのこと………

ねえ、どうしてなの。



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「本当に、私でいいのか?」

昔を思い出すのは今でも辛い。
過去は私に苦しい思いばかりさせる。
時の流れは、私から両親を奪った。

じっとおくるを見つめた。

「…それでも」

少し黙ったおくるだったが、椅子から立ち上がり私の方へ近寄ってくる。

「それでもいいです。
市子さんが、ここからどこかに行きたいというのなら俺は市子さんの行くところについて行きたいし、何かをしたいというのなら、それを応援したいっす。
第一、もし市子さんが俺の申し入れを受け入れてくれるのなら、市子さんを放す気はないす」

何かを抑えるように少し顔を歪めながら、おくるは私の手を力強く握りしめた。

おくるの言葉で私の今までの話で緩んでいた涙腺が崩壊し、ぽろぽろと涙が溢れ出す。

「そうか」

俯いて、柔らかにおくるの手を握り返す。

「そうか…」

そう言ってそっとおくるの肩に顔を寄せ、静かに涙を流す。
そうするとおくるは背中に手を回してくれ、柔く抱きしめてくれた。
そうして背中を撫でたりしてくれる。

その気遣いでさらに涙がこみ上げ嗚咽が漏れる。
何かが零れ落ちていく感覚がした。今までの溜めてきて、我慢してきた、悲しい気持ち。

「う…っあぁ…」

行って欲しくなかった。私たちを選んで欲しかった。
何よりも大事だと、愛していると。

でないとあの気持ちは、私の、母さんの、あなたを愛していたという気持ちをどこにやればよかったというの。
母さんはあんたを待ち続けて待ち続けて、あんたの名前を呟いて死んでいった。

どうしてよ、お父さん。

「うわあぁぁぁああ…っ」

ぎゅっとおくるの服を握りしめる。
母さんの葬儀の日でさえ、こんなに泣かなかったと思う。あの時は、縋れる人がいなかったから。

私はずるい女だ。
まだ返事もしていない、はっきりとしないまま、おくるの気持ちを利用して縋っている。

私はやっぱり、嫌な女だ。

おくるは私が落ち着くまで抱きしめてくれていた。




そうしてまた
(…ずっ。あり、がとうおくる)
(もう、大丈夫)

(やはりまだ怖くて返事が出来ず)
(彼の思いを踏みいじるのだ)

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