(最後まで貴方を愛してた)

「guten Morgen!!…じゃない、コンニチハ、千鶴子お嬢さん!」
「あらあらフォーゲルさん。またいらしたの」

「やだなあ弥太郎と呼んでよ、ね!」
「フォーゲルさん今日はどんなご用事で?」
「ちぇっつれないですネーお嬢さんは。
今日はですね〜デートのお誘いに!!」





雨が静かに降る外を千鶴子は眺めた。

「貴方が結婚を申し込んできた日も、こんな優しい雨の日でしたねえ」

帰りを待っている想い人は、結局自分の元に帰ってくることはなかった。
彼が旅立ったから、これが希望だ願掛けだ、とずっとつけていた彼からの贈り物だった簪を千鶴子は撫でる。

「ずぶ濡れで慌ててきて、結婚してください、なんて。ふふ、今思い出しただけでも笑えるわねぇ」

くすくすと千鶴子は笑っていたが、顔は悲しきに染まり、一筋の涙が流れる。

「…帰ってくるの、待ってたのよ。
待ってたの。貴方のことだからきっと、なにか考える事が、あったのよね。それとも、本当に捨てられたのかしら。
…私、もう待てないみたいなの」

日々衰弱していく体に、自分の死を悟る。
一人娘の市子を置いていくのがとても心残りだ。
二人でこの町に戻ってきて、あの子はよく気を使ってくれた。
一人にしてしまうことを、許してね市子。
大丈夫よ、貴女なら。いい子だもの、この町の人たちも良くしてくれるはず。照秋くんも、いるものね。

「弥太郎、さん」

長らく呼んでいなかった彼の名を口に出す。

「愛しているわ」

ずっと、ずっと。
許してね。貴方が夢を追うことを最後まで応援できなかった私を。
許してね。貴方の帰りを待てなかったことを。
許してね。最後にもう一度、貴方に会いたかったわ。


数瞬間後、紫部千鶴子はしとしとと雨の降る中、その生涯に幕を閉じたのであった。




最後まで貴方を愛してた
(千鶴子、市子、待ってて。僕、あともう少しだから…!)
(時間、かかっちゃったな、待ってて、くれる、かな…)

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