(Silent Story)

数週間後

あの日以来、京子はシロヤの事ばかり考えていた。

(私はもう一度、シロヤに会う資格なんてないのかもしれない。
それでも、まだ私になにかできることがあるはずだ…)

京子はそう思い立ち、帝国軍の上層部に所属しているある人物を訪ねた。

それは少し変わった人物だった。

「失礼します。暗殺部隊所属、3年の八千代京子です」

「…八千代くんか。噂には聞いているよ。なんの用かね?」
「先日は個人の判断で多大なるご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんでした」
「うまく収まったからいいのではないか?
契約を結んでいたということにはびっくりだがな。
よく拠点を持たないインペラトルの人間と出会えたな?」

そう、あの一件でざわついていた軍内だったが、今ではほとぼりも冷め、京子も普通に出歩けるようになった。

帝国軍はインペラトルの提案を飲んだのだ。
それが最良の選択だろうという結論に至っていた。

「…はい。少し…偶然で。
…しかし、この契約は圧倒的に赤軍が不利になり、不平等な契約だと思うのです。
もし帝国軍がこのような不平等な契約を結んだことが世に知れ渡れば、支持が低下しこの後の活動や戦力に異常をきたすかと」

「ふむ…一理ある」

上官は少し考え、京子に向かって見通すような目で言った。

「君はどうしてもあの男を守りたいのだね?」

「!そ、そういう訳では…」

「いいだろう。私が書類を書いてやる。その者の罰を短期間制とし、こちらも罰を与える。
君にも同じ罰を受けてもらうことになるが?」

「構いません」

まっすぐ上官見、京子は頷いた。

「あぁそれと…軍に影響するような干渉はしあわないように。
私たちは帝国軍で…あの男はインペラトルだ。
わかっているだろう?」

「…はい。承知しています…」



その後京子は、その上官が作成してくれた書類を持ち、拠点を持たない赤軍を何日も探し回った。


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「任務ご苦労だ、無色」

リーダーに呼び出されたシロヤは傷だらけで、いたるところに治療を受けていた。

「…ところで帝国軍から使いがやってきた。
よく俺たちを見つけられたものだ」

「…!?」

少し目を伏せていたシロヤはピクリと反応し、顔を上げる。

「…今一度聞くが…なんの関わりもないのだろう?」
「…報告した通りです。ただ私が、任務外の時間帯に賊に襲われたいた彼女を助けただけです」

「お前は嘘を付くやつではないと思っているからそれを信じるが…」

ふう、と息をついたリーダーは手に持っていた紙を机へと投げた。

「この前の件についてだそうだ。向こうの兵も罰を受ける代わりにお前の罰を期間制にしろと言ってきた。
まとまった話だというのになぜまた…」

「…っな、ん」

「主張を聞いた方が早いだろう。
私も詳しい話は聞いていない」

リーダーはそう言いつつ、幕が目の前にはられた席へ移動し、座る。
リーダーが誰かわからないようにするためだろう。


「入れ」


「失礼します」

リーダーが声を発した後にガラッと扉が開き、京子が入ってきた。

「このたびは白軍の要請にお応え頂き有難うございました」

京子は深く頭を下げた後、シロヤを見て少し顔を歪ませつつもリーダーがいるであろう方向に向き直った。

「いやいや。よく見つけることができたな?正直驚いた」

幕の向こうで少し感心したようにリーダーは言う。

「…探し回りましたから…。
本題ですが、わが日本公帝国軍がインペラトルに不利な条件を与え、
問題をもみ消したということが世間に広まれば、日本公帝国軍の存続に影響する可能性があると考えました。
そのため、今回一度まとまりかけていた案件についてこのような話を持ち込みました。
私も罰を受けるというのはそちらには何の影響も出ないので、罰を期間制にするというこの件、飲んでくれますでしょうか?」

京子の話を聞いてリーダーはううむ、と唸った。

「なるほど…な」
「なりません!」

考え込むリーダーにシロヤは噛みついた。

「この話はもう終わったはずです。…今更…っ
私はこれでいいです、リーダー、絶対受け入れないでください…!!」

鬼気迫る風にシロヤはリーダーに進言した。
しかし、リーダーも考えあぐねているのが、微妙な反応だ。

「といってもなぁ…」
「…っ基本はあなたに従いますが、こればかりは譲る気はありません…っ」

言いたいことだけを言って、失礼します、と早口で告げるとシロヤは逃げるようにその場から去った。

「頭のかたいやつだ…。
さて、詳しい話をきかせてもらおうか?」

にこりとリーダーは幕の向こうで笑った。

京子は出て行くシロヤをちらりと見つつも、さらなる説明をし始める。

「はい。そして……」


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「ということです。承諾して下さいますよね?
それと…この後、少しだけシロヤとお話するお時間を頂けませんでしょうか…」

「…了解した。これを受け入れなかったらインペラトルの策略だと言われそうだ」

流石にそれは面倒だ、とリーダーは言う。
そして京子の申し入れにピクリと片眉をあげた。

「あまりウロウロするのはお勧めしない…が、まぁいいだろう。一人見張りをつける」

「有難うございます」

京子は深々と頭を下げた。

「……シロヤが勝手に飲んだことだ。なにも貴殿まで負う必要はないだろうに。
なにがそこまで君を?」

リーダーがそれを聞いたのは少しの興味本位だ。
なぜ、シロヤといい、この目の前の彼女と言い、敵であるはずの人物をかばい合うのか知ってみたかったためだ。

「なぜ…なんでしょう。よくわかりませんが…私はこうしなければいけないと思うのです」

リーダーの質問に京子は曖昧な笑顔を見せた。

「…そうか。おかしなことを聞いた」
「いいえ…。では、失礼します。
お忙しい中失礼しました」


「あぁ、ご苦労だった。
外に待たせている者に案内してもらえ」

きいいと扉を閉まるのを見届け、リーダーは立ち上がる。

「さて…どう転ぶか。青春だなぁ」

ボソリと呟かれたその言葉は、誰の耳にも届かず空気に溶けた。


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京子が外に出ると待っていたのはクロエだった。

「……」

クロエはギロリと京子を睨むと、何も言わずに歩き出す。

(ついて来いということ…だろうか)
「…すまない」

少したじろぐも一言だけ言って大人しく京子はクロエの後ろに続いた。

クロエはというと、京子の言葉を聞いて思いっきり舌打ちをした。

「…シロヤ、「会わない帰れ」

クロエが声をかけると、部屋の中からシロヤが言う。

「っ…シロヤ!少しだけいいから、話をしてくれ。お願い、お願いだから…もう、交渉は成立したから…」

泣きそうになる声を抑え、京子はドア越しにシロヤに語り掛ける。
しかし、返事は返ってこない。

「…待っとってください」

はぁ、と大きなため息をついたクロエは、一言京子に投げかけ、部屋に入った。
ぼそぼそと話しているかと思ったら、なにか言い合いしてる。
しばらくすると部屋の扉が開いた。

「入ってください」

クロエは顎で京子に入室を指示した。

「…! すまない、ありがとう」
「時間は10分だけです。それ以上は与えられまへん。
何かあれば外にいるんで」
「わかった」

京子は驚きながらもお辞儀をし、クロエと入れ替わり部屋へと入る。
部屋の中には扉方面に背を向けたシロヤがいた。

「失礼する。....シロヤ」

京子は背を向けているシロヤに小さく声をかけた。

「……」
「……すまなかった。
全て私のせいだ、その傷を負わせたのも、辛い思いをさせてしまったのも…でも、もう大丈夫だ。
あともうちょっとで期限が切れるから…」

「…っ意味が、わからない…っ」

あの一言から閉口していたシロヤは京子の言葉を聞き言葉を発した。

「“全て私のせい”だ?これは全て私自身の意思でやったものだ。
貴殿になにも責任はないし、咎めるつもりも、ありません…っ。
貴殿が関わる必要が、ない」

何かを耐えるように背を向けたままシロヤは言う。
京子からはその表情はうかがえない。

「関係がない…だと?
君があのとき、助けてくれなければ今の私はいなかったんだ!
何度も何度も助けてくれて、私はいつも君のことを考えていた…っ
敵軍だとわかっていても、どうしても君のことが頭から離れなくて…!
なんで、どうして私を…助けては遠ざけようとするのだ…!」

京子は悲鳴に似た声で叫んだ。ずっと心に引っかかっていたこと、それをシロヤへと尋ねる。

「…っ。
……そんなに答えて欲しいのなら、答えてやろう」

一瞬息をのんだシロヤは、何かを決意したように言葉を吐き、立ち上がった。
鬼気迫る顔で京子を振り返ったかと思うと、斬馬刀を抜刀し、京子の首元へあてがった。
そしてドスを込めた声で再び言葉を吐くのだ。

「私は貴様に恩を売り、スキあらばそれにつけいろうとしていた。
何度も助けたのは貴様の信頼を買うためだ。
案の定、貴様は律儀に恩返しをしてくれたし、自ら罰まで受けに来てくれた。
遠ざけるのは、もう、用済みだからだ…!」

そうして、京子に満足か?とでもいうように笑った。
本人は笑ったつもりだったのだろう。
だがその顔はひどく歪んでいて、今にも泣きだしそうだった。

「…っ。
君が、そうしたいのなら私を殺すがいい」

京子はそういうと、首に当てられた刃をぐっと握り更に近づけ、

「殺されるなら、君がいい」

そう、微笑みながら目をじっと見て言った。


「……っ本当に殺すぞ」

京子の行為を受けてシロヤは更に顔を歪めながら京子とにらみ合う。

しばらくお互いの行動をうかがっていて硬直していた動きだったが、

「…っいい加減にしてくれ!!」

シロヤがその言葉の後に斬馬刀をガシャン床に落した。


「もう…もうやめてくれ…。
わからない、んだ…自分が…っ
なぜ助けたのかも、この…っ苦しみも…っ自分が自分でなくなる気がして怖かった…っだから、
だからわざわざ距離をおこうとしているのに、なんであんたは追いかけてくるんだ…!!」

シロヤは片手で顔をおおい、何かをこらえるようにぎゅっと強く、両目を閉じていた。
京子は今回シロヤに出会って初めて、シロヤの本心に触れた気がした。

「…私にもわからないんだ。
なんで君をずっと追いかけているのか……君への恩も確かにそうだ。
でも…それ以上の気持ちで動いているんだ。
君を見ているとなんとも言えない感情になる。
…こんなの初めてなんだ」

刃を握って血がついていない方の手でシロヤの服をぎゅっと掴み、京子は言った。
シロヤは京子に服を掴まれビクリと肩を揺らし、片手を顔から外し京子を見る。

「お、れは…「焦れったいなぁあんたらは…!」

シロヤが言葉を発しかけた時に、大きな音を立て扉が開き、クロエ乱入してくる。
その表情はイライラ、といった感じで、柄悪く舌打ちまでもいただいた。

「もう…もうええですわこんな茶番…すれ違いの恋にもほどがありますえ…!!」

はよ告白してくっついて帰れ!!!とクロエは叫ぶ。そして、あと時間や!!とも。

「…!?え、あ、ええっと…」

突然、恋とかなんちゃらとか言われて、京子は顔を赤く染めて更にシロヤの服を強く握り締めた。
その行為にさらにビクリとするシロヤの顔もほんのりと赤い。

「……っっや、ちよ先輩…俺は…」

ぐっと一度目をつむると、意を決したように再び口を開く。

「…俺は…俺、は…




…もっとあんたのこと知りたい、デス…軍に影響しない程度の…友達ニナッテクダサイ」


シロヤのその言葉とともにクロエはこけた。
信じられない、という顔をしてクロエはシロヤを見た。


「あ、ああ…え、ええっと…特別にきょ、京子でいいぞ?」
「いえ、先輩なんで八千代先輩でいいです」

するとシロヤは今までのどもり様をどこかにすてたかのように、早口で、なおかつ真顔で答えた。


「そ、そうか。
…っわた、私ももっと…君のことが知りたい、から…罰の期間が過ぎるまで生きろ!!!」

京子も唐突な申し出に頭が回っていないのか、すぐ目の前にいるというのに、焦って大声で叫んだ。

「…っわかり、ました。先輩も死なないでください。あとうるさい」

いつもの調子をシロヤは取り戻したのか、やさしい声で言い、わからない程度に微笑んだ。

「なんやのこん人らなんやのなんやのなんやの…」

一方クロエは目の前で繰り広げられる先ほどのシリアスをどこかへやった意味の分からないやり取りを見て、
何やらブツブツと青い顔でつぶやいていた。


「じゃあそ、それで…」
「はい。…お願いします」
「あぁ。罰の期間なんてあっという間だ!…だからまたこっそり会いにくるぞ」

京子も調子を取り戻しつつあるのか、びしっとシロヤを指さしながらいい、最後の方は小声で耳打ちをした。

「…!そう、だな…。いえ、私から行く。毎度捜すのも大変でしょう」
「ん、そうか...楽しみにしている」

少し驚いた表情をしたシロヤはすぐ無表情に戻り、自分から会いに行くという。
その言葉を聞き、京子は微笑んだ。

「それじゃあ色々世話になったな。失礼する」

この時には京子は素に戻っており、ケロッと別れを述べ、退室しようとした。


「ちょ!!!あてはまだ言うことありますえ!!」

すると、出て行こうとする京子をクロエは慌てて止める。

「??なんだ?」

引き留められた京子は、クロエに向き直り首をかしげる。

「なんかムカつきますね…こっちは用はないぞ的な感じ…。
あては許したわけやありまへんで…!
し…っシロヤと男女交際行うにはあてに認められてからですえ!!!
わかります!?このあての大事に大事に育てたシロヤがどこぞの女に取られる悔しい思い…!!
殺す、殺す、殺す…!!!殺してやる!!!シロヤはあてのもんや!!………っ、せやけどっ、
……感謝してないわけやないんです…結局の原因はあんたやけど……けど、
罰が死ぬまでやなくなったんも、あんたのおかげですわ。…複雑な気持ちや。
シロヤがあんたを望むなら…認めるしかありまへん。
けど、そう何もかもうまく行くと思ったら間違いですえ…!!
………精々、あて以外に殺されんように。死んだら地獄の果てまで追いかけて殺してやりますさかい」

思いの丈を一気に吐き出したクロエは、最後に少しすねた感じで、あてともまた、や。と言い手を差し出した。

「君も、優しいのだな。出会えて良かった。しかし殺されるならシロヤがいい」

しらっと真顔で言った京子にさらにクロエがムカついたのは言うまでもない。

「私からも感謝する。本当に有難う。
また会おう」

京子は素直に差し出された手を握り返した。

「もう行かなくてはいけないようだな。それでは失礼する」

もう一度京子は別れを述べると、日本公帝国軍の基地へと帰っていった。

「なんや、もうあては疲れたわ…」

白い背を見送ったクロエははぁ、と息を吐く。

「…シロヤ?」

いつもなら、「そうか」程度の言葉が返ってくるのだが、何も反応がなくてクロエはシロヤの方を見る。

「……」

「…ぐ、」
(また、ムカつくぐらい幸せそうな顔してはるなぁ…)

振り返るんじゃなかった、とクロエは眉間に皺を寄せてため息をつく。
シロヤの顔は万人が見ただけではなにも気持ちはうかがえないような表情を浮かべていたが、
長年連れ添っていたクロエには、その顔が何を物語っているかすぐにわかった。

「……クロエ、」
「なんですかァ」

いつもより少し楽しげな声に、先ほどの沈み込んでいた気分が回復したようでなによりだ、と
誰よりもシロヤを心配していたクロエは安堵する。
しかしそれと同時に碌でもないことを考えているとも思った。

「京都はここからどれくらいでいけるだろうか」
「はァ!?」

ほら、碌でもなかった。
クロエは何を言っているんだお前は、というように声を上げる。

「……」
(はやく、)

あの白い背が出ていった扉を見据えたまま、シロヤは手に力を込める。

(早く、話が、したい…)

その眼には、喜びが浮かんでいた。





どこから聞こえてるの?かすかだけど
始まりを告げる鐘の音が呼んでいる
君とならきっと未来も越えられる

Can you hear forever,my heart beat
君に届くようにと描いたのは
Don't you know everlasting stories
夜空を彩る涙の雫
Can you hear forever,my heart beat
もっと強くなれたら共に行こう
Don't you know everlasting stories
気高く太陽昇るところへ

Can you hear forever,my heart beat
君に届くようにと描いたのは
Don't you know everlasting stories
見上げた瞳に映る三日月
Can you hear forever,my heart beat
もっと信じ合えたら共に行こう
Don't you know everlasting stories
果てなく広がる空の彼方へ

愛しさを裏返した ほんとは見つめていたい
君と同じ空を見上げたら 届けよう溢れ出すメロディー

溢れ出すメロディー




Silent Story

((出会えて、よかった))

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