(魔物掃討作戦)

霊峰シュネールル

防御魔法壁の修復を終えたアルファルドは、学問街の魔法使いを引き連れ、霊峰の魔物掃討に当たっていた。

「アルファルドさんっ!!」

焦った声に呼ばれ慌ててアルファルドはそちらを見る。

「どうしましたか!!」
「超大型の魔物が二体…!!陣形崩れて、被害甚大です!」
「っ!救援に向かいます!」

(超大型の魔物が?二体もだなんて…!)

やはり急増が原因か、とアルファルドは顔をゆがめてかける。
いくら学問街の魔法使いが優秀だとしても、超大型二体も相手取るのは厳しい。
効率を考えて小隊にしたのがまずかったか。

(やはり、これを予想してもう少し大人数で行動させるべきでした…!)

この戦いはどこも手一杯だ。自分のところもそれなりに戦力を削がれ、それに合わせてアルファルドの体力も削られている。
何せこの雪山だ。暑さなら生まれたところで慣れたものであったが、この寒さは正直つらい。辛いし、足元の雪に足を取られることによって魔物の攻撃も避けにくい。砂とはまた違う雪にアルファルドは手こずっていた。

部下に案内され到着した現場でアルファルドは息を飲む。

ちょうど最後の一人が、倒れてしまったところだ。
一体しか見えないところを見ると、彼らは奮闘してくれたらしい。

「よく頑張りましたみなさん!
君らは彼らの回収を!俺はあいつの相手をします!!回収終了後、援護よろしくお願いします!」

使いたくなかった。と思いながらアルファルドは腰に下げていた剣を触る。
帝国から大国に移って以来、この剣を抜くことはなかった。というよりも、あの雨の公国との戦いを思い出すため、アルファルドは抜きたがらなかった。
そもそもではなぜこの剣を連れてきたかというと、思い出したくはないが、忘れるつもりは毛頭なかったためである。

自分が次この剣を抜くときは急の急を要した時。
そう、今がその時だ。

(こいつも見る限りだいぶ削られてる。これならどうにか短時間で…!)

剣を鞘から抜き、雪の中をアルファルドは駆け出す。
大きく跳躍し、魔物に剣を振りかざそうとしたところで視界の端で何かが動いたのを見た。

「っ!」

気を取られたせいか、斬撃を弾き返されて受け身を取り地へ着地する。

(今、何か…!)

魔物の動きに警戒しながらアルファルドは先ほどの動いたものを探す。

「う…っ!」
「!回収忘れか!」

しまった、とアルファルドは声を上げる。すぐ目に見えたものたちは回収され、後ろへ下げられている。
魔物の影にいたせいか、彼を見落としていた。
回収班は…動けるのは、ただ自分一人だ。

「!ちっ」

魔物が生き残りに気づいたのか、視線をアルファルドからそちらへと移す。

(ま に あえ!!)

着地した地点が魔物から距離をとった位置だったため、魔物の後ろに隠れていた彼とアルファルドの距離は必然的に遠くなる。

(魔法…ダメだ!俺の加減できない魔法じゃ、あの人も巻き添えになる…!)

この時ばかり自分の魔法のコントロールのできなさを恨んだことはない、とアルファルドは詠唱しかけた口を閉じる。

「どっ」
「っ、アルファルドさん!?」
「セーーーーイオラァアァァアア!!」

寸前の所で滑り込み、荒技だが取り残されていた彼を持ち上げ、全然違う方向へ投げ上げた。それと同時に詠唱を始め、彼の墜落地点に魔法で保護膜が貼られたところを見届けたと同時に横っ腹に重い攻撃がぶちあたる。

「がっ」

ゴキゴキボキボキと骨が砕ける音がする。
吹っ飛ばされて、木に激突したところでアルファルドはとまった。

「っごほっ万象を成しえる根源たる力…太古に刻まれし、その記憶…!」

血を吐きながらアルファルドは詠唱を始めた。彼はなるべく遠くに投げたし、保護魔法もかけた。大丈夫、手加減の必要はないと。

「我が呼び声に応え、今、此処に蘇れ! 」

二撃目を繰り出そうと魔物が攻撃態勢に入ったところで、アルファルドは魔物へ手のひらを向けた。

「エンシェントカタストロフィ!」

瞬間隕石のような、炎に包まれた岩がドッカンドッカンと魔物の降り注ぐ。
その間に剣を支えに何とかしてアルファルドは立ち上がる。

「ぜっは…っ」

全身が痛い。息がしにくい。肋骨やらなんやら、骨が結構イッてるなこれは、と痛みに顔をゆがめた。

大きなうなり声とともに魔物が大暴れし始める。
先ほどの魔法は大打撃だったらしい。

「君の属性に、炎はきつい、でしょうね…!!」

もう一踏ん張りだ、と足に力を入れ剣を構えアルファルドは魔物に向かって駆け出した。




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さぁぁあ…と黒い霧が吹雪に紛れて流れていった。

真っ白な雪の中に、一人、倒れている。
白の中に彼の赤い髪色はとても目立つ。

いや、この赤は、彼の髪色だけの赤ではない。


血だ。赤い、彼から流れ出る血。
じわじわと赤が広がっていく。

(たお…せたのか)

ぼやける視界で、先ほど助けた彼も倒れているのが目に入る。
彼は見るからに重症だった。

(魔法、解けたのか。うごか、ないと…)

まだまだ魔物はいる。ここにとどまっていてはいつ囲まれるかわかったもんじゃない。
あの人も早く治療をしないと、と立ち上がろうとっ手に力を込めるが、自分の体が起き上がることはない。

(あ、れ)

ダメだ。

(痛い)

あがらない。

(寒い)

視界が

(フィーア、君は)





この激戦の中、無事だろうか
(ゆっくりと、アルファルドの目は閉じられた)
(体はピクリとも、動かない)


雪の大国魔物掃討作戦報告書
アルファルド:超大型魔物と交戦し、瀕死の重傷。

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