(君の手を)

はたとエシューは目を覚ました。
浅く息をして、上半身は起きている。顔は少し青く、表情は歪んでいる。

「……いやな、夢ねぇ…」

はあ…とため息を吐いて、ぐしゃりと前髪を乱した。
夜風にあたって落ち着こうと思い、部屋を出て王宮の廊下を歩き出す。

何かの暗示なのだろうか、と先ほど見ていた嫌な夢のことについて考え、はぁ、とまたため息をついた。

「う、わぁ!??」

夜風がいい感じに涼しくて気持ちいいな、と思い下げていた目線を上げ景色を見ようとした時、窓辺に人が座っていてエシューは驚きの声を上げる。

「…夜中だぞ」
「な…何してるの、チコ…」

びっくりさせないでちょうだいよ…とエシューはため息を吐く。
そしてふと、何かを思いついたようにチコを見た。

「ねぇ、頼みがあるのだけれどぉ」


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「怖い夢を見たから一人じゃ眠れないとは、君は子供か。いい歳だろう」
「どうせいい歳のおばさんですよぉ〜だ」

添い寝の希望を出した時、チコは微妙な顔をした。しかし相手はエシューだ。まぁまぁ〜と言いながらチコを自室まで引っ張り今。

ゆったりめであったベットは少々2人ではキツイくらいになっていた。

「本当、嫌な夢…」

小さくつぶやきながらエシューはチコにすり寄り、きゅっと服の裾をつかんだ。

「……」
「チコ、この先もし私が、人の道を踏み外すような事になったら、迷わず殺してね」
「どうしてそんな話になったんだ…」

突然の話の振り、内容が内容のため思わずチコは聞き返した。
そしてもそもそと、エシューは先ほど見た夢のことについて話したのであった。

「…って夢を、見たのよぉ。
私、貴方を殺したくはないわぁ…一緒に死んでって言ったのは、私が置いていかれる場合の時だから…私だけ死んでおさまるなら、貴方は死ななくてもいいのよ…」
「…」
「復讐なんて、本当するつもりないの。でも、心の何処かで、昔のあの黒くドロドロした感情が残ってるのかもしれない。それがどうなるかは、私にもわからない。
だから、」

迷わず殺してと再び言おうとしたが、チコにぐいっと引き寄せられたことでびっくりしてその続きは出なかった。

抱き締めるような形になって、チコはあやすようにポンポンとエシューの背中を軽く叩いた。

「…なにか、悩むことがあるならすぐに言え。聞いてやる。君一人で、抱え込むな」

いつぞやの無力感はもう、味わいたくないとチコは少し昔のことを脳裏に思い出す。

「…置いていくなと言っただろう。 置いていくつもりは、ない。エシューが望むなら、側にいよう。
だから君もそばにいる努力をしろ」

言わなければ、気持ちを汲み取ることはできない。とチコは言う。
俺もあの夢を現実にするのいやだ。と小さく続ける。

「…そう、そうね。約束、するわぁ。言う。努力するわ」

貴方とは長く一緒にいたいもの。とゆるりとエシューは微笑んだ。

「ふふ、ありがとうチコ。落ち着いたわ」
「そうか。…早く寝ろ。明日も早いんだろう」
「えぇ…。おやすみ、チコ。大好きよ」

すうと目が閉じられたのを確認し、廊下で会った時よりも柔らかな表情となったエシューにチコは安堵した。

(…まだ、残ってる)

エシューの背中に添えていた手を見る。

(魔物となったエシューを、貫いた感覚)

顔をしかめ、掌をぎゅっと握った。

(…もう、あの日のような事は、繰り返したくはない)

大切な人に置いていかれる悲しみなんて、二度と。






君の手を
(ちゃんと掴んでおく。堕ちる前に、引き上げてやる)
(だから)
(一人で泣くのはやめろ)

(あの夢の君も、最後は泣いていた)

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