(目を瞑る度に想うのは)
赤い、赤い。目の前が真っ赤だ。なにが、起こっている。「逃げろ景敬!!」
叫ばれて、俺はその声の方向に振り返った。
「父さん、それ、どうし…っ」
声が震えた。父の体には幾つもの矢が刺さり、服は赤く染まっている。
「せめてお前だけでも生きろ、景敬…!!
あいつらはまだ、お前がどこにいるか知らない…!!」
「ど、どういうことだよ…!!なんでこんな、矢…っ街も…!!うちも!!燃えてる!!
消さねーと…!!倒れてる奴らも…母さんも、敬守も美代も助けねーと…!!」
自分を抜け道へ押し込もうとする父を抑え、俺は父へと叫んだ。
俺の叫びを聞いた父は、いたく傷ついたように顔を歪めた。
「母さんたちは…っ」
父は言いかけた言葉をすぐに飲み込んだ。
家はバチバチと音を立てて、燃えていく。
外は火から逃げ惑う悲鳴と思われるものと発砲音と、なにか叫ぶ民の声で溢れかえっていた。
「景敬、これだけは忘れるな…!!佐原は私たちの"イエ"、民は"カゾク"だ…!!
忘れるな、この悲劇を…!!
そして次は守れ、佐原を!カゾクを!!
繰り返すな、この悲劇を…!!
お前の力があればできる…!
これが、私の最期の願いだ…っ」
「っさ、最期ってなんだよ!!
さっきから一体っ」
嫌な予感しかしない。赤く燃えている街、家、倒れている家族、自分だけ逃がされる、父の言葉、まさ、か
「走れ!!それでしばらく隠れておけ、出てくるんじゃないぞ…!」
「待…っ」
通路へと無理やり押しこめられ、扉を閉められた。
ダメだ、ダメだと脳内で警鐘が鳴った。
このままだと、このまま大人しく従っていたら、もう二度と父に会えない気がした。
「父さん!!あけろ!!あけろっつってんだろ!!?嫌だ、置いて行くな!!」
戦える!!一緒に戦えるんだと叫びながら、扉をドンドンと叩くが、びくともしない。
家がついに崩れたのか、父が何か置いたのか、わからない。
「父さん!!!」
叫べども、届くはずもなく。
身体の強くなかった俺は叫び過ぎてごほごほと咳き込みその場へへたりついた。
「ごほ…っ」
(いいやまだだ、この逆側…出口に行けば…!!)
東の森に抜けることができる、と思い出した。
遠回りになってしまうが、こうなってしまった以上なりふり構っていられず、俺は駆け出した。
(早く、早く、早く…!!)
息が苦しい、足がもつれかける。こんなに走ったことはない。
だが走らなければ。俺は一心不乱に足を動かし続けた。
「待って、待ってくれよ、父さん…!!俺を…っ」
ついには足がもつれ、べしゃりと地面へと転げる。
「…っっ死ぬんじゃねぇよ、ひ、とりに…っしないでくれ…!!」
ぐっと残り少ない力を振り絞り、俺はまた駆けた。
目を瞑る度に想うのは
(幸せで、楽しかった日々)
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