(君に祝福を)

「あら、そういえばぁ…」


あらあらどうしましょう。でもまぁ、気づけてよかったわぁ。


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(おかしい)

チコはいつも以上に眉間に深くシワを刻んでいた。

(確実に避けられてる、というやつかこれは)

ぐりぐりと手で眉間を触りつつチコは息をついた。
何がおかしいかというと、出会えば何かしらのちょっかいを自分にかけてくる女…エシューがチコと顔を合わせばすぐ様踵を返したり90度に道を曲がったりなど…とりあえず、避けていることである。

仕事中であれば話すことはないが、すれ違いは普通にしてたし、たまには笑顔出てもふってきていた。

なのに今日の彼女というと、仲良くなる前の作ったような笑顔を張り付け回避行動を行っているのだ。

契約者であるナタリオに、何かしたのか…?と言われるぐらいには、エシューのチコに対する行動…反応はおかしかった。

チコはというと、何も思い当たる節もなく最初はあまり気にしていなかったがあぁもまぁ謎の行動をされると気にならないはずがない。

一度引きとめようとしたがどうしたことか、普段運動苦手なのぉと言っている人物ではないのかぐらい軽快なバックステップで距離を取られ、そのまま道を変えられてしまった。

ナタリオがエシューの上司に当たるアルバ帝王やその同僚のマルクス、そしてチコ以外に交流を持っている友人のパルファンにエシューの本日の行動の理由について聞いてもらって見たが、異口同音。さぁ?という事らしい。

(理由が言わないのが腹がたつ。怒っているならその理由を言えばいいのに。その理由に思い当たる節がない自分もダメなのだろうが…)

朝から始まり昼が来て、夕方。

何やらどこから甘い匂いが流れてくる。
結局チコがエシューと話せることは今日一度もなかった。
というか、昼過ぎから姿を見かけないのである。

(面倒だ、またエシューの部屋にでも居座って…)

帰ってきたときに問えばいい、と思い移動を始めようとチコ派立ち上がった。

「あ、チコいた!」

そんな所に、仕事終わりであろうナタリオが片手を振りながらこちらに走ってきたのである。

「…どうした」
「いやいや、はは。まぁ、あのさ?ついてきてよ!」

にやり、にやりと笑うナタリオに背を押され、グイグイと何処かに誘導される。

「なんだ、押すな」
「いやぁ、愛されてるなーって。俺もエーデにあいたいなぁ」

何の話だ、と全貌が見えないナタリオの話にチコはまた眉間にしわを刻む。

連れてこられたのは小会議室。
甘い匂いと、何やら香ばしい匂いが扉の向こうからしてくる。

「……」
「ほら、突っ立ってないで開けた開けた!」

グイグイとまた背を押され、はぁ、とため息をつきながらチコは扉を開ける。

その瞬間パァンと何かが弾ける音がして、思わず戦闘態勢に入る。

「あはは、やだわぁチコったら」

目に入ってきたのは、色鮮やかな紙が繋がった筒を持ったエシューである。

「…?」
「ナタリオ様、お手数おかけして申し訳有りません」
「いえいえー」
「よければこれお持ち帰りくださいな〜」
「おっありがとうございます!」
「話が見えない」

ポカンとするチコをよそに、2人だけが会話を展開していく。
はっと気づいたチコはまだ続きそうな二人の会話に割って入った。

「あらぁごめんなさい。ふふ、私ちょっと浮かれてるみたい〜。
今日はねぇ、チコの誕生日〜!なのよぉ〜そして偶然なことに〜私達、出会ってそろそろ一年よぉ〜」

まぁ初めて出会ったのはもう少し先なのだけれど〜とエシューは微笑む。

「…誕生日と、君の今日の行動と、何の関係が…」
「…あぁ!うふふ、あれねぇ、ごめんなさいねぇ。
浮かれてるって言ったでしょぉ。サプライズにしたかったのよぉこれ」

そう言いながらエシューは背後に用意されたいろんな料理とおしゃれなケーキを見せてみせる。

「チコと話しちゃうと緩んじゃって全部話しそうだったからぁ…
人間やれば回避できるもねぇ?」
「なかなかアクロバティックだったぞ」

なんだ、何かしたわけじゃなかったのか。とホッと安心して、ふと横に視線をやると、さっきまで隣にいたはずのナタリオがいない事に気づく。

「ねぇチコ」

いつもの笑顔だ、とチコは思った。
チコ以外の者からしてみると、今チコに向けられているエシューの笑顔は貴重なものであったが、作られた笑みを向けられ慣れてないチコはそう思った。

「貴方が生まれてきてくれたことに感謝を。この国にいて、出会えたことに喜びを。そして貴方に祝福を。
嬉しいのよ、私。大好きなあなたが生まれてきてくれて、今、ここにいることが」

腕をふるって用意したのよ。
よかったら食べてちょうだい?とにっこりと彼女は笑う。

「…いただこう」

そんな彼女につられ、緩やかに笑みを浮かべたチコは、部屋のテーブルへと足を進めた。







君に祝福を
(その服…)
(そうそう、花の都で貴方と式あげた時の。気に入ってるのよぉ。ここ一番の勝負服!なんてねぇ)

(そういえばよけれなもう一つもらって欲しいの)
(…?指輪?)
(綺麗な青い石と赤い石がついてるのがあるなぁと思って。赤い方は私。邪魔なら適当に…こう、どこかに置いておいて)
(…わかった)



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ふっすーおめでとう。そしてチコくんももうすぐ誕生日やん!??と気づく。
指輪はどうするかは任せた。
相手の色のものを身に付けたいし、自分の色を身につけてほしいエシューであった。

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