(俺が好きだった色)
東の森を抜け、街を見て、呆然とした。「ない…」
見慣れた街並みは姿を消し、辺り一帯には黒い炭だけが転がっていた。
「…っ」
中心街があったであろう方向へと足を向け、さらに駆ける。
走れども走れども、ただ焼け野原が続くだけだった。
「は…っは…っは…っはぁ…っ」
(やっぱり、佐原は襲撃されたんだ!!)
嫌な予感は的中した。
ただの大火事なら、父もあんな姿にならないだろう。
敵がもう見えないのを考えると、父らが追い出したのか。
あの発砲音は銃声で、叫びは応戦する民の声だったのか。
火は誰が消した。もしかしたら父はまだ生きていて、指揮を、
様々な考えが駆け巡った。
(そうだ、まだ生きてる。父さんも母さんも、敬守も美代も…!!)
当時の記憶の父は強く、誰にも負けるはずがないと思っていた俺は、希望をまだ捨て切れなかった。
父の死体を目の前にしても、なお。
「……」
父の体はめちゃくちゃだった。
顔は原型をとどめておらず、父と判断できたのは、代々佐原の領主に受け継がれる刀が手に握られていたからだ。
父とともに戦った民が言うには、女・子供を安全な場所へ誘導した後、敵の掃討にあたったらしい。
敵はばかにならないくらい強く、佐原を奪われなかったのが不思議なくらいだ、と民は言った。
その説明を俺はどこか遠くで聞いていた。
「景敬!!無事だったか!」
生き残りの民がぞろぞろと集まってくる中から、幼馴染の坂元龍馬が出てきて、俺に駆け寄ってくる。
「龍馬…」
「よかった、心配してたんだ…!姿が見えないから…」
彼の姿はボロボロの煤だらけで、ところどころ血もにじんでいて、怪我もしているようだった。
「景敬、親父さんたち…おい!!!どこいくんだ!」
龍馬がなにか話しかけてきたが、俺は聞く耳を持たず、というよりも衝撃が大きすぎて話が聞けなくなっているのか、フラフラと歩きだす。
母さんたちも崩れかけた家で死んでいるのを発見された、という報告も受けた。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ、うそ、だ…っ」
信じたくない。そんな事実は受け止めたくない…!!
俺は焼け野原をもくもくと歩いた。
「これは悪い夢だ…醒めろ、醒めろ、さめろ、さめろさめろさめろ、…っ醒めろよ!!!!!」
立ち止まり、大声をあげた。
とたん泣き声が辺りに響く。
何事かと思い泣き声の方へと視線を向けると、10歳ぐらいの男の子と女の子が立っていた。
ボロボロの服を着て、手をつないでいる。
わんわん泣いているのは男の方で、その面影は弟そのものだった。
「おかあさーーーぁあん!!おかあさん、どこ…っ」
とめどなく涙を流す男の子と、それを慰める女の子。
男の子のほうが弟にひどく似ているためか、思わず俺は近寄り、目の前で膝をつく。
「お前ら、母親はどこだよ?迷子か…??」
少女は薄く笑うだけだったが、少年の方は泣きじゃくりながら、
「おか…っさん、急に倒れて…っ変わったふくの人が、いて…っ
おかあさん、にげな…っにげなさい…って…っ
おとうさんは、うごか、なくて…!!」
それを聞いて、ドクンと心臓が脈を打つ。
(それは、つまり――――)
ぎゅっと唇を噛む。
あぁこれはやはり、現実なのか。
父が死んだのも、母が死んだのも、敬守も、美代も、もういないのも、
佐原が焼けたのも
(覆ることのない、まぎれもない、げん、じつ…)
ボロリと涙がこぼれた。
糸が切れたかのように、次から次へと溢れ、止まらない。
俺は独りに、なったんだ。
最愛の家族はもういない。
もっと父から教わりたいことがあった。
母の手料理を食べていたかった。
敬守と少し口論になったのを、謝れていない。
美代には髪飾りを買ってやると約束していたのに、
なにも、なにもこれから先、叶えることのできない願いだと思うと、
痛くて、痛くて、辛い。
(なんで俺だけおいていった…)
なぜ俺は、ひとり生きている。
生きている意味が分からない。死にたい、会いたい、話したい、
「どこか痛いの?」
ボロボロと涙をこぼしていると、少女が俺の頬に手を添える。
(そうだ、俺だけじゃない。この、小さな子供たちまでも…)
独りなんだ。
俺は二人に腕を回し、抱きしめた。
これは紛れもない現実なのだ。
俺が過ごしてきた佐原は、愛した佐原は、今はもうない。
佐原は、焼けたんだ。
俺が好きだった色
(佐原の色、もう見えない)
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