(記者は駆けた)

三回目の学級裁判も終わりを告げ、新たに開放された場所を小鳥遊藍は探索しようとしていた。

あと何度繰り返すのだろうか。全滅するまでなのか。あのモノスズメはどこを終着としているのか。ジェルソンが事件に巻き込まれる前にどうにかしなければ、と様々なことを頭に巡らしつつ、新しいマップを見つめる。

(まずは、不明の部屋を見て…順番にぐるっとでいいかな)

???と記された部屋の戸に手をかけたが、その扉は固く閉ざされており、中の様子を伺うことはできない。

娯楽室はその名の通り、暇つぶしには最適なものたちが置かれていた。

(…ううん。なんにもないな)

次の部屋を見るか、と思った小鳥遊であったが、一枚のメモが落ちていることに気づきそれを手に取る。

そのメモには汚い字で『希望への大きな一歩』としるされていた。

「???どういうことだろ」

首をかしげつつも、何かの情報かもしれないと小鳥遊は自身の手帳にメモを挟む。
そしてそのままシステム室に向かい入ったところでおもわず顔を顰めた。

様々な種類のパソコンやモニターがある部屋。それはシステム室という名にふさわしいものであろう。だがどこもかしこも真っ赤に染め上げられている。何があったのかわからないが、壁や床にはひどい傷跡があり血の匂いがきつく、長時間いるには気分が悪くなりそうな部屋であった。

普通の人間ならばここで部屋を飛び出していくのであろうが、小鳥遊は違う。
彼女は情報を集めることを優先しており、この部屋にも何かあるのではないかと見た。…そもそも、婚約者の趣味の関係、従者であるジェルソンの趣味の関係、もしくは自分が記事として書いている事件の記録により、小鳥遊は血を見ることには慣れていた。
匂いばかりはどうしようもないから、素早く部屋の中を見渡す。

特にパソコン周辺をを重点的に見ていると、机の上にぽつんと1つだけ赤く染まっていないパソコンがあった。

「ンッなんでこいつだけ…?」

カタタッとつつき、パソコンの電源は入るのだろうかと心配しつつ電源をつける。

…起動した。
それとともに画面には文字が羅列する。

Q.1対義語を入力してください
表←→
光←→
愛情←→
未来←→

画面にはそう文字が並んでいた。

「うえっなんだこれ何問あるんだ…急げ急げ…えぇと上から…裏、影、憎悪、過去…っと…ていうか二つくらい候補あるやつどうなんだ…おえぇ…」

ここは記者として間違うわけには、と思いつつ血の匂いに若干唸りつつも手早くキーボードで答えを打ち込んでいく。

Enterを押したところで!!!正解!!!という文字が真ん中へ出た。
小鳥遊は少々ドヤ顔であったが、超高校級の記者である者なら、常識だろう。

再び画面は切り替わり、次の問題が浮かぶ。


Q.2 消せない過去があるとします、あなたなら引きずりますか?それとも打ち切りますか?あなたの意見を述べてください


その文を読んだ小鳥遊は首をひねった。

「????これ正解とかあるの…?」

このパソコンは何を試そうとしているのか、第1問と様変わりした問題に疑問を抱きつつも、このパソコンの中に秘められた情報が気になるため、小鳥遊は考える。

(過去に起こったこと、消せない…トラウマ?そういやボクだけじゃなく他の奴らもトラウマがどうとか言って、たか?なにか共通点でもあるのか、ボクらは。
引きずるか、打ち切りか。…二択?いや、あなたの意見を、だから…)

まとまったのか、再び小鳥遊はキーボードへと手を伸ばし答えを打ち込んでいく。

「…過去起こったことはボクを形成した全てだ。置いていかない。引きずるとはまた違うけど、一緒に前に進む。…っと…これ…どういう意図なの…」

打ち切りはしない、かといって引きずりといった表現ではないという答えを小鳥遊は出した。
この答えは彼女の性格を少し表している気がする。


!!わかりました、合格です!!


パソコンの画面にはそう出され、すぐにまた切り替わる。


最後の質問…
Q.3あなたはどんな未来であっても進んでいく覚悟がありますか、目を逸らさないで進む覚悟はありますか


「なんだこのパソコンほんと……」

先ほど以上に小鳥遊は唸った。
質問がありアバウトすぎるのだ。そしてきっとこれは正解というものはない。確実に試されている。
誰が、なんのために、どういう考えの上で。そもそもこのパソコンを他に見つけた者がいたのか?誰かがこれを置いたのか?
様々な考えがぐるぐる回るも、小鳥遊は首を振る。

最後。ここまで来たんだ。挑戦してみるしかあるまいと質問の答えを考え始める。

「どんな未来…。ジェルソンがいない未来、とか?」

自分で言っておきながら小鳥遊はぶるりと肩を震わせた。
だいたいそばにおり、何かと助けてくれた従者であり親友。苦しい時も泣きたい時も、ジェルソンがいたからこそどうにか頑張れた節がある。

「う…うひ……」

その彼が、いない、みらい?

ぞわりと恐怖が自分を包んだ気がした。

「や、だけど…」

恐怖を拭うように再び小鳥遊は首を振る。
それと同時に、従者であるジェルソンを思い浮かべた。

「そらしてたら何してんだとか言われそう…」

一人でエレベーター乗れなきゃ困りますよ〜?とケタケタ笑うジェルソンが浮かんだ。

(…そうだよ、いなくなる、とは決まってないし。…そばにいなくても、思い出がなくなるわけじゃないし)

タンっタッ!!と小鳥遊は力強く文字を打ち込んでいく。

「進む!!進む!!!行くよ、行ってみせるさ。今までだって色々あった、それでもボクは進んできた。これはこの先も変わらない!」

打ち込まれた文字は、進む覚悟は、ある!

言い切るとともに小鳥遊はEnterを押した。
そして、


!!!合格です!!!


その文字が浮かび、パソコンが完全に立ち上がる。

…そこには青年が映っていた。

「ふぁっ!???」

突然のことに小鳥遊は間抜けな声を上げる。
赤いマフラーをした見たことにない男。

「えっお前、誰」

いつもの小鳥遊であればテンション高めにえーーー!!?誰!??とでもいうのであろうが、今回ばかりは真顔であった。

“『あはは〜びっくりした〜?俺っちは影霧桜哉、たまっていったら覚えてる?』”

画面の中で手を振る男が喋る。その声だけは、聞き覚えがあり、なおかつ、たまという何も覚えがあった。

「えっオッた、たま!??えっお前生きてる!??生きてんの!?」

“『俺っちは違う建物で待機だったからね〜カキツバタ君がまずいけど…俺っちはとりあえず無傷〜』”

そう、モノスズメが来る前、放送で喋っていた男2人のうちの1人である。
さらに驚いてしまいおもわず大きな声が出た小鳥遊はすぐさま口を押さえた。

「やっべスズメに見つかったらめんどそう…な、なにしてんの…?」

声のトーンを落とし、小声でたま…影霧に尋ねる。

“『今のところは大丈夫!ただ今まで全然こっちの様子わからなかったから…イライラとかしてた?してたら俺っちのせいだわ…』”

「そ…そうなん…カキツバタ…ポチのことだっけ…か…会長はさすがに…?か…?お前無事そうでよかったわ…」

もう一人いた声の主の安否も無事だということで小鳥遊は安堵した。
そして俺っちのせい?で首をかしげる。

「イライラ?スズメ?あー…なんかしてたなぁ…痛めつけてやるとかなんとか…あのスズメほんと何なの、どうにかできないの…」

そう言えば新しいマップを渡しに来た際、なんかブツブツ言ってたなぁと思い出す。

“『会長…元はと言えばあいつのせいだったんだよ、ほんっと……なんて君たちに謝ればいいのか…
げぇ……やばい、裏で色々やってるのばれた…』”

対して影霧は会長の安否を問われると顔を歪めた。会長は助からなかったの意なのか、それとも別の意味なのか。小鳥遊には正しい答えがわからず、会長は助かっていないという答えであると解釈し目を伏せた。

「……そっか。
突然きてわがまま放題、なんなのほんと…だから警備はしっかりっていった(?)のに!!!
裏?何かしてるの?ボク手伝う?」

正直警備はしっかりしろと言ったかはちゃんと覚えていない。なにか、頼むぞ!とは言った気がする。特に凶器回収について。

小鳥遊がも〜〜!!と抗議すると影霧は申し訳なさそうな表情になった。

“『ぐっ…ほ、ほんとごめんってば〜!これから!これからこうバリケードガツンガツンするから〜絶対行くから!ね!』”

「!ほんとか?約束だぞ?」

確か凶器の時にも約束をした気がするが……えぇいそんな前のことは覚えてないからいいか、と小鳥遊は目の前のパソコンの画面に映る影霧を信じることにする。

“『あぁ!約束だ!』”
「うん…!」

ニッと笑う影霧に、小鳥遊も強く頷き笑顔を返した。
これがどうか、みんなの、ボクらの突破口になりますように。小鳥遊はそう思った。

“『で、手伝えることだね。えっとね、とりあえず君たちがいる場所に乗り込もうと思ってるんだけど…警備が固くて……じゃあさ、???の部屋に入るためのパスワードを探してくれないかな?』”

「パスワード…そういや鍵かかってたなあそこ…それは数字?言葉?どこにあるとか予想はある?ボクも全部見て回りきれないから…予想があれば教えてほしい」

探すともなると結構マップが広いから大変そうだな、と小鳥遊はうなった。一人で周りきることができるだろうか…そもそもどんなものなのか、いろいろ考えを巡らせていると、きっとこのパソコンを探しているであろう…相当ご立腹なモノスズメの声が響く。

「怒ってるあいつ怒ってるよぉ〜…急いで急いで…!!ていうかこパソコン連れてけないの…!すごいドキドキするやばい」

ぎえっとシステム室の扉の外を気にしつつ、小鳥遊は急かす。ここで見つかってしまえば元も子もない。

“『多分言葉!きったない字で書きなぐった言葉なんだけど……メモかな?ま、まだ大丈夫のはず〜!あいつポンコツだから〜…イザナギがわざわざここに運んでくれたんだ。多分大丈夫だ!』”

「!!!!!見つけた、それみたよ。希望への大きな一歩って…!
エッイザナギのやつ知ってたの…?だ、大丈夫ならいいんだけどさ…確かにポンコツ」

汚い字のメモ。小鳥遊はそれに心当たりがあった。そう、システム室にくる前に娯楽室で見つけたあのメモだ。そしてポンコツという点にもれなく同意しておく。

“『あぁだからしばらくは大丈夫だと思う。お、まじ?!6枚あると思うんだ!!それがあれば開けられる!
あと幸重もね、協力してもらってる!』”

「…わかった、頑張る。
6枚マジカヨガッデム。一枚しか見てない…わかった、わかった…!誰か見つけてるかもしれない…どうしよう…大声で聞かないほうがいいよね…?
幸重も?このパソコンつけれた感じか…?」

幸重笑凪。応援団の服を着た元気の良い女の子だ。事情を知っている人がいてくれるのはありがたい。

“『おう、頼んだ!……そうだなぁ…モノスズメにバレるとめんどくさいし……
うん!ユキシゲ君は最初に俺っちを倉庫で見つけてくれたからね、パスワードを解除してないんだ。ここにきたからには絶望には答えられない質問を設置しなきゃ悪用されちゃう…』”

「じゃあうーん…メモでも使って汚いメモに心当たりのあるやつボクの部屋に集合っ!てしてもいい…?」

目立たない方法、目立たない方法〜〜と小鳥遊は頭を回転させる。ものは残ってしまうがどうこう言ってられない。これが静かで伝えるには一番手っ取り早いだろう。みんな夜には部屋戻るし。と小鳥遊は考えた。

“『ん〜まぁそれなら…あいつアホだし大丈夫かなぁ…?』”

ここの2人の中でモノスズメの扱いが酷いのはこの際放置である。

「オッケーオッケー。それで行く手っ取り早いね。
にしても倉庫…はえぇ…割と前からいたのな…?
じゃあこれ解除したのボクが初?まぁこの部屋あんま見る気になれないよねぇ…さっきの謎質問か…」

あれ触ったらなんかアウトかと思ってちょっと慌てちゃったよボクは。とケラケラ笑う。最終的には好奇心と、脱出の糸口を掴むため質問に答えていったのだが。

”『まぁな、それで見つけたのはユキシゲ君とイザナギ君だけだったよ
そうそう君が一番乗り!割とこの部屋には人来てるんだけど…パソコン気づいたの君だけだからね
…過去から未来へ、それが俺っちたちの目標なんだよ』”

「なるほど…スズメに見つかんなくてよかったよ。
やったぜ一番乗り!いつか次は一番取るとか言った気がする。いや〜パソコンある時になるでしょ?情報収集は基本だよね?
…そっか。うん、生きてる奴らの未来が繋がるよう、ボク頑張るね。いっちょいってくら!」

ビシッと小鳥遊は笑顔で片手を挙げる。

“『あはは〜その通りだね!情報収集…敵か味方か判断もしなくちゃ
…!………あぁそうだね…君は主人公になれるのか、舞台監督がじっくり審査してあげるよ。どうか君の未来を過去が邪魔しませんように…』”

立ち去る前の小鳥遊のセリフに少し影霧は目を見開き、目の前の少女に祈りを捧げた。

そして静かにパソコンは切れる。

さて、ここが正念場か。

小鳥遊はよし、と今一度気合を入れ直し、手帳にページをちぎってメモを作り始める。


『探索してる中汚い字のメモに心当たりがある場合、もしくは心当たりができた場合、小鳥遊の部屋まで集合』

そう書いたメモを今生きている人たちの扉に挟んで行く。


小鳥遊は知らない。


彼女がみんなと前に進もうとする中、
彼女一人だけでも進ませようと計画を練っている人物がいることなど。



記者は駆けた
(ジェルソン!一緒に小鳥遊家に帰ろう)
(きっとこれは未来につながる)
(約束だよ!ボク、頑張るからさ)

((貴女だけでも帰してみせますよ、藍))

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