(生を感じて)

ロロくんがキレたら


「っ大したことだよ!!鏡見なよ!!何!?そんなひっどい顔で言われても俺、はいそーですかとか言わないからね!」

「、ちょっと、なに」

リビングを抜け、個室へ帰ろうとしていたところを腕を掴まれてエレノアは引き戻される。

待って、なに、という制止も聞かず、ロロはグイグイとエレノアを引っ張り風呂場へ押し込んだ。

「ゆっくり浸かって。その間にご飯用意するから」

「な、なん、」

「ゆっくり、浸かって」

あまり聞くことのない低い声にエレノアは一瞬肩をビクつかせる。
有無を言わせない雰囲気に思わずエレノアはハイ…と言ってしまった。

ロロが出て行った後にもそもそとエレノアは服を脱ぎ始める。
鏡を前にして、ずいぶん目の死んだ自分と目があった。

(…酷い顔)

笑えているつもりだったが、もしかしたらロロの目にはそうは映らなかったのかもしれない。失敗した、と目を伏せる。

湯が張られた湯船は暖かそうな湯気を出していた。
湯船に浸かるのはいつぶりだろうか。ここ最近は時間に追われていたエレノアは全てシャワーで済ませていた。

ゆっくりと足をつけ始めたところで生傷に水が染みる。
少し顔を歪めながらも浸かりきり、ほっと息を吐いた。

(…温かい)

程よい湯の温度にじんわりと温められ、エレノアは思わず涙が出そうになった。

しかし涙は出ることはない。随分前にそれは枯れ果ててしまったように思う。

遠くの方で包丁が何かを切る音が聞こえた。ロロが先ほどの宣言通り料理をしているのだろう。

(…あぁ、こんなにのんびりしてる場合じゃないのに。まだ、やることはたくさんあって。早く寝て、早く起きて、それから)

それからまた私は倒さなくては。

武器を握っておらず軽くなっている両手をエレノアは見つめる。

なんど説得しようと、何度倒そうと、消えることのない悪を思い出しとぷんと湯船に全身を沈めた。

(わたしは、どうしたらよかったんだろう)

良かれと思い頼まれたら受けていた。人の役に立てるのならばとエレノアは、持ちかけられた案件を処理してきた。
例えそれが結果的に自分の首を絞めていようとも。

息がしづらくなって湯から浮上する。それでもなお、まだ息はしづらくて。

ほかほかになった体をいい匂いのする方へと向かわせる。
血の臭いばかり最近嗅いでいたから、このロロの料理の匂いをエレノアは酷く懐かしく感じた。

「ちゃんと温もったみたいだね」
「ねぇ、なにこの量」

そんなにお風呂に長時間エレノアがいたわけではないが、びっくりするほどテーブルの上には料理が置かれていた。

「ご飯食べよ。座って」
「でも私、食欲な、」
「ご飯食べよう?」
「ハイ……」

今日のロロはとても強気である…と思いながらエレノアは席へ着いた。

「いただきます」
「…い、いただきます」

ロロにより料理が取り分けられ、エレノアの前へと置かれる。それはまるで食べろと言っているようで、食べないわけにもいかずエレノアは口へと運ぶ。

一口食べて、ピタリと止まり。
そして二口、直様三口目を放り込む。

(…あぁ、ロロのご飯、だ。…全部、私が好きだったやつ)

もぐもぐと食べ、温かな料理にふわりと沈んでいた心が少し浮上した気がした。

美味しい、と感じたのは久々である。荒んでいたエレノアはなにを食べても味がせず、ただ必要最低限の栄養を確保するためだけに物を口へ放り込んでいた。

「…おいし、」

温かなスープを飲み、ほぅ…と息をはく。ロロがそんなエレノアを見て少し笑った気がした。

今日は一緒に寝よう、お皿洗ってくるから待ってて。と言われれエレノアはぼんやり待っていた。

ロロが戻ってきてエレノアの顔を撫でる。

「…多少顔色戻ったね」

どこか安心したような表情でロロは言った。

「ハイ、エレノアここね」
「…一緒に寝る必要性は」
「ここ」
「……ハイ…」

にこ…と笑うロロの横に仕方がないとエレノアは寝転ぶ。
ふかふかの布団。ふんわりと包まれ、また息をつく。

「ちょ、なに、」

そうこうしているうちにロロに抱き寄せられ、まるであやすかのように彼はエレノアの背中をポンポンと叩く。

「エレノア、疲れたでしょ。…ゆっくり休もう。大丈夫、誰も怒らないよ」

じんわりと伝わる人肌の温度と、ドクドクと聞こえる生きている音。
優しげな声にエレノアは、唇を噛む。

「よく頑張りました」

その言葉でドッと何かが溢れ、エレノアはロロの胸へとすがった。

「…っロロ、私は、」
「うん」
「役に立ちたくて、」
「うん」

微かに漏れる嗚咽と、絞り出すような声。

「でも、最近、わから、なくて…っ
終わりが見えなくて、」
「うん、」
「もっと、うまく出来たんじゃないか、救えた命が、あったんじゃ…っないか。悪意が、消えないのなら、全て全て、消していくしか…っないんじゃないのかとか、」
「…うん」
「そんな、そんなことばっかり、かん、考えて…っそれで、私がしてきたことって、これからしようとしてることって、結局無意味なんじゃないかって、」
「…無意味なんかじゃないよ」

ぎゅうっとエレノアはロロの服を掴み、涙が溢れる顔を彼の胸へと押し付ける。
ロロは、彼女の背中を撫でることはやめない。

「やらなくちゃ、やり切らなくちゃ、意味がなくても。意味がなさなくても、私は…っ私は、"求められている"のだから…っ
そう思ったら、辞めれなくて、ズブズブと、底なし沼に落ちてるようで、」

辛かった、と震える声で吐き出すエレノアをロロは強く抱きしめた。

「…そうだよ、エレノア。大したことない、とかそんな。そんなわけないだろ。ボロボロになってまで、誰かのために君が、再起不能にならなくていいんだ。もっと自分を大事にしてよ」

ほんと、久々に顔見たと思ったらとんでもない顔してるから逆にこっちが死ぬかと思った、と言われてエレノアはごめんなさい…と言う。


「………貴方がいてくれて良かった、ロロ。…私の、太陽」



生を感じて
(役に立てて、なにより…かな。で、暫く休もうね)
(…でも、まだ受けてる任務が)
(もう破棄しちゃったよ)
(え…っ。えぇ…)

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