(独りの夜を超えて)
人を弔い、瓦礫を撤去して整地するのに1年。領地を能力で作り出した城壁で囲い、街を能力で再建するのに1年と半年。
「長かった…」
もうすぐだ、もうすぐ、佐原は、復興する。
「前領主、伊能道敬が亡くなられたため、
領主権限をその息子、伊能景敬へと継承する」
今日、俺は領主となる。
代々伝わる刀を、あの日父が握りしめていた刀を祭司より受け取る。
そして集まった民の方へと向いた。
「皆、いままでよく頑張ってくれた。
一度失われた佐原だが、みなの力のおかげでここまで来れた。
礼を言う。ありがとう。
そしてこの刀に誓おう」
鞘から刀を抜き、俺は宙へと掲げる。
「もう二度と、二度と、あの悲劇は起こさせない。
佐原は、この伊能景敬が守ろう。
佐原は安息の地で、皆のイエ≠セ。佐原の民はみなカゾク≠セ」
言葉をつづけながら、刀をそのまま長く伸びた自身の髪の束へとあてる。
「共に生きよう、共に暮らそう、共に支えあおう、
そして、佐原の未来を、共に!!」
それと同時に刀で髪の束を切り落とす。
これも領主就任の時に誓いとしてやるものだ。
「佐原は、一つだ!!!」
父ならどうするだろうか、ここまでそれを頼りに動いてきた。
強かった父、あこがれだった父、
あのようにならねば、強く、誇らしく、皆が安心できる領主に…!!
台の上からおり、民の目線と同じ地に立つ。
「どうか、皆、力を貸してくれ」
民たちに向かい、頭を深々と下げた。
とたんに歓声が沸く。
「新領主、景敬様ーーーー!!!」
「我らは共に!!!」
「「「未来永劫、あなたと共に!!!!!」」」
正直、認められるか不安だった。
18歳にして生意気にも指揮を執り、弱冠20歳にして領主だ。
就任前いつ刺されるかひやひやしていた節もあった。
(だけど、これは…)
わあわあと歓声はやまないし、近くの民にもみくちゃにされる。
「景敬!!」
髪も服もわやくそになりかけたところで、龍馬に引き上げられ、台の上へと降り立つ。
「不安そうな顔で力を貸してくれ、なんていうなよ!
皆お前さんのこと認めてる!!」
見ろよ!!と龍馬はいい、民の方を指す。
「そうだよ!!景敬君がここまで頑張ってくれてたの、あたしたちゃぁ知ってるさね!!」
「自分が一番辛いくせに、一番に俺らや佐原のことを考えてくれて!!」
「これ以上いい領主なんていないよ!!」
そう口々に、民たちは言う。
「今度は、私たちが恩返ししたいの!!」
「だから、」
「「「共に!!領主様!!!」」」
ざっと民たちが膝をつき、頭を垂れる。
とたん、目頭が熱くなった。
無駄じゃなかった、俺は自分にできることを精一杯やれてた。
だから今、民たちは俺に応えてくれてる。
ぽん、と肩を叩かれ振り返ると、笑顔の龍馬がいる。
その後ろには、聖と守孝もいた。
「俺たちも共に。領主様」
龍馬たちも民たちと同じように、膝を折った。
次は守れ!佐原を!カゾクを!!
守るよ父さん。
今度こそ、守り切って見せる。
そしえ、父さんみたいな立派な領主に。
「皆、ありがとう。……っありがとう…!!!」
「泣いてる場合じゃないぞーー!!今日は祭だ!!」
「新領主就任祝いだーーー!!久々に騒ぐぞ――ー!!」
民たちはわいわいとはしゃぎながら散っていく。
相変わらず元気な人たちだ。
「景敬」
髪も切りそろえないといけないから、奥に引っ込もうとしていると、呼び止められる。
「もう、大丈夫だよな?」
何が、とは言わない。
俺が不安定なのをこいつも気づいていたのだろう。
「あぁ、」
早く行きましょうよ!!と聖と守孝が俺の腕を引く。
「私≠ヘもう大丈夫だ。坂元=v
引っ張られながら、そう答えた。
奥に向かったその後、坂元龍馬が目を見開いていたことを私は知らない。
佐原が焼けて2年と半。
領主を伊能道敬から伊能景敬へ。
それからすぐ、他領地との物流等も復旧し、
和の國佐原は元の機能を取り戻した。
そして、鉄壁の領地として知られることとなる。
独りの夜を超えて
(辿り着いたこの日)
(私は父の代わりへとなれたのだ)
(さっきの、誰だ…)
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