(胸へのキスは)

まさかの想いが通じ合っていると判明し、二人を表す関係が変化して暫く。

美来の帰宅を待ちながら仕事をしていた紅は、夜遅くになったインターホンにやっとか、と息を吐きながら玄関へと向かった。

女子会だと聞いていたがこんなにも遅いのは、女性としても如何なものか。迎えの連絡があれば行くつもりだったが、きっと遠慮してかけてこないだろう…と踏んでいた紅は、その通りだった現状に再び息を吐きながら鍵を回す。
これは、付き合う前までは図々しくも、割と頻繁にお願いしてきていた彼女が、付き合ったらなぜか遠慮し始めたことに対する呆れの溜息だ。

「…遅かったですね、何を、」

扉を開けながら(そも、誰かを確認せずに…いや、自身の部屋に来るのは高確率で彼女だけだと思っていたのだろう)、言葉を発しながら目の前に立つ人物の姿を確認した所で、紅は少し動きを止めた。

それもそのはず。予想していた人物はいたのだ。いたのだが、知らない男に肩で支えられ、へべれけになって、だが。

「………」

ぐっと眉間にシワが寄った所で、紅が出てきたのにあれ!?!?と慌てていた見知らぬ男はお兄さんですかっ!?といって喋り始めた。

「み、美来さん少し酔って!それでタクシーで送ってきたんですけど、住所ここだって、その、」

男の説明に紅は、女子会だと言っていたはずなのに男がいることに怒るべきか、酔いながらもここにしっかりと帰ってきたことを褒めるべきか。
少し頭痛を感じながらひたいを手で押さえ、空いた片手で無言で男から美来を、若干奪い取る形で受け取る。

あっと、無意識化であろうほど小さく呟いた男は、あわよくばと思っていたのだろう。その表情は若干残念そうであった。
紅はそれにチッと舌打ちをすると、男がヒッと竦みあがる。

「……少し、お待ちください」

威圧を込めると、男は焦ったように首を上下に振る。

「あ、紅さんだ〜〜紅さん、ふふ〜」
「…歩いてくれますか」
「あれ?紅さんなんでいるんですか?確か私、お友達と〜」

舌ったらずに言葉を発する美来に再びため息をつきながら、リビングへと連れて帰りソファへと寝かす。

そうして自身の財布を部屋に取りに行ったあと、玄関にいる男の元へと戻った。

「…おいくらですか。…タクシー代」
「えっ!?あ、いえ!そんな、」
「おいくらですか」
「ハイッッ!!!!」

さらに強められた威圧に気圧されたのか、男はタクシーの値段を告げる。
紅はその値段からお釣りが出るような札を渡し、

「…釣りはいりません。…美来さんがお世話になりました」

先ほどまで少し歪んでいた表情を整え、静かに頭を下げる。

「えっでもお兄さん、」
「兄ではないので」

ゆっくりと目を開いた所で、男はさらにすくみ上がり、すみませんでした!!!!!!というと帰って行った。

鍵をかけ直し、面倒な対応がやっと終わったと首を掻きながらリビングへ戻る。

「紅さ〜〜ん」

迎えたのはソファへ寄りかかりニコニコと手を振る美来だ。

「…美来さん」
「はい、なんですか?」
「…今日は女子会と聞いたのですが」
「そうなんです〜〜お友達と女子会〜〜あれ?でもどうして男の子がいたんですかね?」

ぽけらんとした答えが返ってき、思うに、男がいると分かれば断られると思った友人が詳細を伏せていたのだろうと紅は考えた。

「……それはいいとして、…いえ、余りよくはありませんが。どうしてそうなるまで飲んだんです?」
「へへ〜それがですね…勧められて断れなくって〜〜」

あぁ、易々とその光景が目に浮かぶ…と紅は眉間を揉んだ。

「…美来さん、私は男がいるときは余り飲むなと言いましたが?何かあったらどうするんですか」
「え?大丈夫ですよ〜〜皆さん、紅さんみたいに優しい方達だったし」
「…………へぇ」

自分の声が低くなったのを紅はかんじた。

「え?」

肩を少し押し、ソファに押し倒す形で彼女を沈める。
それと同時に夏が来て薄着になっていた美来の服…首えり周りを引っ張り、胸元が見えた所で紅は顔を寄せた。

美来は一瞬のことで何が起きているか理解できていないのか、ガリ、と痛みが走った所でハッとした。

小さなリップ音とともに紅の顔が美来の胸元から引いていく。

「、?、????、」
「…優しくても、下心があるものですよ」

混乱している美来をよそに、紅は彼女の腕を引っ張り起き上がらせ、さらには立ち上がらせる。

「こ、うさ、」
「…シャワーでも浴びて、酔いを覚ましてください。風呂には浸からないよう」
「あ、あの、あのあの、」

手を取られ、腕を引かれ、脱衣所へと導かれる。紅自身は美来になんですか、と聞くつもりはないらしい。
タオルと着替えを押し付けられ、立ち去ろうとした彼を引きとめようとした所で、紅の携帯が鳴りその手は宙をさまようこととなる。

もしもし、という落ち着いた声で携帯に出た紅の背が、パタリと閉じた扉で隠された時、美来の顔は一気に茹でられたタコのように赤く染まった。

酔いなんて、一瞬で吹き飛んだのだ。



胸へのキスは
(所有の証)
(混乱する頭を整理しながら、どうにかシャワーを浴びるために服を脱いだ所で、胸元に目立つ赤と少しヒリヒリする感覚に美来は床へと膝をついた)

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