(水と油。創り出すは、新たな音。)

ありえない音だ。

そう、普段なら言わないであろう毒を男は吐く。

きみの音はつまらないけど。

どこか呆れたように、男の横で同じ映像を見ていた女は息を吐いた。

「なんのために楽譜があると思ってる。列を乱すな、忠実に再現しろ」
「そうなると機械みたいでつまんないでしょ!楽譜を見て、創造してなんぼじゃん」

型にはまりすぎだよ、青梅雨は。

そういう彼女に、男は煩わしそうに舌を打つ。その顔は渋く、どうしても女の言葉を聞き入れられないらしい。

「…俺は、ソレしかしらない。ソレが"至高"だ。"楽譜"が1番だ。過去の者の意思を再現する。…ただそれだけだ」
「…指揮にきみの意思はないの?」

ない。

と男はきっぱり言い放った。不機嫌そうに、…いや。過去の何か苦いモノを思い出すかのように目を細め、彼は少しばかり自身の左腕をさすった。

「それこそ、変にアレンジ加えて気持ち悪くねぇのか」
「ぜんっぜん!あたしは型にはまる気はないからね」
「……ほんっと、方針はあわねぇわ」

ぶつりと、映像の再生が終わった。
それと同時にもういいだろうというふうに、男は机の上に置いていた指揮棒と、楽譜と。…それからヴァイオリンを持ち立ち上がる。

「あっ!青梅雨!あたしの指揮のときくらい、指示に従ってよね!」

女も同じように手荷物をまとめてソファを立った。

「…絶対いやだね。お前こそ、勝手にアレンジぶち込むんじゃねぇぞ」
「それはどうかな〜?」

によによと笑う女に、男は深くため息をつきながら足を止め振り返る。

「…」
「なに?」
「ほんッッッッッッと方針はあわねぇが」
「溜めるね」
「………………………お前の演奏は、悪くない」
「お、」
「死ぬほど音が変わってるのが気になるがな」
「余計な一言〜」

再び歩を進める男の後ろ姿に女は笑いながらも、音楽に関しては全く手を抜かない彼がいうのだから、確かな賞賛なのだろうと。
近日に迫っているこの2人のコラボコンサートの練習のためにホールへと向かったのであった。




水と油。創り出すは、新たな音。
(或人さん……………)
(あ、練習お疲れ様〜どうしたどうした)
(失礼な言葉遣いを………………)
(あっはは!もう慣れたから〜)

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