(私達の方が優れた才能だ)

「冬葵。…あの記憶、辛いんなら僕が取り出してもいいんだぞ」

少女のような彼が、少し眉を下げて私にその金の目を向ける。
私はその言葉に、パチリと一つ瞬きをした後、彼の頬にゴミ捨て場の汚れがついていたので手を伸ばした。

「何の話だ?オルテンシア」

汚れをぬぐいながらも彼に尋ねると、彼は律儀にもお礼を言い「君の過去のことさ」と返答した。

「あぁ、」

私はその言葉に、彼と同じように眉を下げた。

「たまに、魘されているだろう。青梅が心配していた」
「む。…そうか、いや。…如何にもこうにも、迫害というもののせいかな」

そんなことは初耳だ。…いや、少なからず想像はできた。
概念才能に対する迫害が激化し始めた頃から、私はよく悪夢を見るようになった。

ずいぶん幼い頃の夢だ。私がまだ、悪しき者として石を投げられてた頃。それから、私の力のせいで大好きな両親が死んでしまった時の頃。
私の思い出したくもない記憶が夢となって何度も蘇っていた。

…いとさんには悪いことをしてしまった。あとでお詫びをしておかないと。

そう考えながら、ガラクタ集めを再開する。
もちろん、彼との会話も忘れることなく。

「いや、…いや。オルテンシア。気遣いは不要だ」
「だが、友が苦しんでいるのを見るのは忍びないのだが」
「……優しいな。…これは私の業だ。…いいえ、私の、罪です」
「…君は何も悪くないだろう?」

オルテンシアさんの言葉に私はゆっくりと首を振った。

「いいえ。…私が馬鹿だったんです。私が我慢すれば。…私が役に立てば、誰もが。……両親が、幸せになれると思ってました。
…そんな能天気な私が、両親を殺しました」

それでも私は、人を信じたかった。
学園に来て、通じ合えたクラスメイトのように、…私たちを差別していた方ともいつか必ず分かり合えると。

「愚かだったんです。できた溝は広がるばかり。それでも愚かな私は信じ続け、…祈り続け。最終的には穴の中」

人を恨んだのはここに来て初めてでした。と私は呟く。

私だけこの掃き溜めに捨てられるのならよかった。まだ、許すことができた。受け入れることができた。
けれど彼らを、私の素敵なクラスメイトを。こんな場所へ落とす理由がどこへあろうか。

「オルテンシアさん。私、きっとまだこれが1度目だったら、皆さんのことを止めていました。世界を絶望に落とすなんてやめよう…って」

ある程度集まったガラクタ入れを見て、私は立ち上がる。その際揺れたこの白い髪も、ずいぶん汚れてしまったものだ。

「でも、…神様なんていないですね。どうして、いるのなら皆さんを助けてくれなかったのでしょう」
「冬葵…」
「どうして、こんな仕打ちができるのでしょう…!」

悔しくて、恨めしくて、私はギュッと顔を寄せた。あぁ、きっと今、目の色は。

「…怒りの赤、だな」
「…そうです。こうならねば、怒りでもこの目が変わることも気づくことはなかったでしょう。…気づかないほうがよかったでしょう。
…それで、オルテンシアさん」
「うん、」

少し深呼吸をして気を落ち着かせ、再び私は彼に言葉を投げかける。

「前置きが長くなりましたけど。…過去は今の私を形成するものです。これを捨ててしまえば、今の私は確実にいなくなります。
苦しくてもいいんです。…皆さんとともに、側にいさせてください。
目的を。…私達"概念"の悲願を。一緒に果たさせてください」

「…うん、しっかり言うようになったな。冬葵も。と言っても最初もきびきびしていたね。その喋り方とのギャップは驚いたけど」
「その話は…強がりだったんです。…今でも強がりますよ。強そうですから」
「君、たまに語彙力捨てるよね」
「オルテンシアさんの知識量にはかないませんよ」

お陰様で助かっています。と言うと、彼はそうだろう?と満足そうに笑った。

「ほどほどに集まったし戻ろうか。みんなは何をしてるかな」
「はい。そうですね〜…春さんたちは礼拝室でも作ると言っていたと思いますよ」
「あぁ、良さげな木を見つけたと言っていたな」

そうオルテンシアさんと話しながら、拠点地へと戻っていく。

…見ているでしょうか。いいえ、気にも留めていないのでしょうね。地上の皆さん。

それで構いません。…どうせ嫌でも認識しなければならない日が来るのですから。


希望なんていりません。代わりに、えぇ。素敵な"ゴミ捨て場へのご案内(サプライズ)"のお返しに、絶望を。


「冬葵?」
「あ、はい。今行きます。…オルテンシアさん、」
「?」
「私、貴方達がお友達でよかった!」




私達の方が優れた才能だ
(…ふふ。あぁ、僕も。巨大書架で1人取り残されることはなく、君たちがいてよかったよ)
(独りが寂しいのは知っています。最期まで、1人にはしませんからねっ)
(頼りにしているよ)


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