(巡り巡った不思議な縁)

「青梅雨、お前相変わらず前髪なげ〜よ」

突然投げられた言葉にびっくりした俺は何も悪くないだろう。

べっとはねられた前髪と、そのおかげでいつも以上に開けた視界には見たことのない黒髪の男が立っていた。

と思ったのもつかの間だ。呼ばれた名と、その口ぶりで俺は思い当たった。

まず言うと、
"俺の名前は青梅雨ではない"
"だか俺は青梅雨だった"

…平たく言うと、俺は前世、青梅雨葉という男だった。
今以上にコミュ障で、ただひたすらに人生生きづらそうな男だったと…認識している。

目の前の男は、そんな前世、いや。前世と今世の間と言ってもいいだろう。"幽霊をしていた前世の俺があった男の今世だ"
言って来て中二病の頭のおかしいやつに思えて来た。

佐伯朋也。それがこの男の前の名前。

「な、がかねーです、よ。前より」
「お、前髪あげてねーのに前より言い返すじゃん」

まさか俺以外に記憶持ちがいるとは思っていなかった。
姿形は違えども、知っているというのはなんとも不思議な心地だ。

「…て、いうか。…人違いだったらどうするつもりだったんですか」
「あ?いや、なんかこう。ビビッと来た」
「ざっっっっつ……………」

まあいいや。と言いながら男は目の前に座った。同席を許可した覚えはないんだが…???
コミュ障をなめないで欲しいんだが……????

「楽譜、だよなそれ?」
「え?あぁ、まあ…はい」
「歳いくつなんだ。大学生?」
「21ですけど…3年……」
「はぁ〜同い年だわ」

同い年かよ。

「今回も音楽してんのか」
「…はあ、まあ…」

だって頭を離れなかったんだ。仕方ないだろう。
男の方をちらりと見る。白衣を着ており、なんとなく相手の学部も伺えた。

「……あの、じゃあ俺これで」
「まぁまてや。ちょうど良かった。俺に協力しろ、青梅雨」
「青梅雨じゃな、は?」
「論文で丁度必要だったんだ。音楽知識」
「こ、っとわる!!!」

なんでかって?それは俺がコミュ障だから。

「ここの話なんだが」
「ガン無視だなお前?クソか?」
「通常モードでも言うようになったじゃねぇか。青梅雨」
「だ、っから、もう、青梅雨じゃねぇ……です」

こっわ。と思いながらもどうにか耐え(耐えられてないとか言うな)目線を斜めに落としながらも言い返すと、んじゃあ。と目の前の男は手を差し出して来た。

「改めて自己紹介か。俺の名前は−…」




巡り巡った不思議な縁
(お前またハーフなの?)
(…ハーフじゃないです)
(あ?)
(……Guten Tag)
(マジか)

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