ここ最近で様々なことが起こりすぎている。疲れ気味の私を見て、友人は頬張っていたおにぎりを置いた。昼休みの教室は少々騒がしいが、それでも友人と会話をするのに困る程では無かった。
兄達には話していないディオとのことを、友人にだけは話した。事後に性格が180度変わったことを告げると顔をしかめていたが、簡単に純潔を捧げてしまった私も私だと軽いお叱りを受けた。ごもっともである。荒木荘のことは愉快な外国人達が暮らす家だと教えた。行きたがっていたが彼女にまで素質云々で矢を使われては堪らないので、可笑しな宗教に染まっていたから辞めた方がいいと忠告をした。彼女はやはり顔をしかめた。
スタンドの存在やディオが吸血鬼だということは言わなかった。信じてもらえる訳がないと思ったからである。友人は頬杖をついて溜め息を溢した。
「あーあ、ディオさんとあんたが付き合えばおこぼれがくるかと思ったけど」
「おこぼれ?」
「イケメンの友達はイケメンって決まってんのよ。でも信者とかそういうのは勘弁」
何か嫌な思い出でもあるのだろうか、顔をしかめて首を振る友人には苦笑いしか出てこない。
友人の口から流れるように出てくる異性への拘りに相槌を打っている内に昼休みは終わった。
*
承太郎が生徒指導から説教を受けているらしい。何でも他校の生徒と喧嘩をして大怪我をさせてしまったのだと言う。そういえば、今日は承太郎がどうしても一緒に帰れないからとわざわざ仗助が迎えに来た日があった。その時は何かあったのかと首を傾げたが、ようやく分かった。血の気の多い他校生から呼び出されていたのだろう。
今日は誰も迎えに来られないから待っていろとのお達しを受け、私は一人で放課後の教室に残っている。先程帰り際の友人が今日はSPはいないのかと茶化してきたので、粗方を説明した。するとこの隙に逃げてしまえばいいじゃあないか、喫茶店にでも行こうと誘ってきた。非常に魅力的な誘惑である。しかし、黙って学校を後にし久方ぶりの自由を楽しんだところで帰るのは兄達の待つ自宅である。雷が落ちるのは目に見えているので首を横に振った。友人は残念そうに帰っていった。
友人の背中を見送って何分経っただろうか。夕陽が射し込む教室は幻想的で、ほうと溜め息を吐く。暇潰しにアプリゲームでもやろうかと鞄からスマートフォンを取り出すと、タイミング良く着信音が鳴り響いた。画面に表示された名前はディオ。思わずげ、と声が漏れた。ジョナサンに抱えられて帰ったあの日以降連絡はなかったし、私からする筈もないので音信不通の状態だったのに。今更何だろうか。数秒躊躇ったが、通話ボタンをタップした。ディオと話したかった訳ではない。吉良さんに代わってもらい、コートの事を話そうと思ったのだ。
「もしもし、ディオ?」
『俺はディオじゃない、…お前が名前か?』
機械越しに聞こえた声はディオの其れではなかった。ディオによく似ているが、ディオより若い様な。間違い電話かと一度耳から離して画面を確認したが、通話中と表示されている名前は確かにディオである。眉を寄せた。
「あの、ごめんなさい、ディオ…さんの番号じゃなかったですっけ、これ」
『元々この携帯自体が俺のものなんだ、DIOが勝手に持ち出しただけで…名前、今どこにいる?』
「え、…学校ですけど、何か…」
会ったこともない男と会話をするのは少し憚られる。突然居場所を聞かれれば尚更疑わしい。ディオとはどんな関係なのだろうかと思考を巡らせていると、電話の向こうの男が『吉良がコートを返して欲しいそうだ』と言った。吉良さん。吉良さんとディオの名前が出るということは、もしや荒木荘の住人だろうか。
「あ、私も返したいんですけど…諸事情で返しに行けなくて」
『よく分からないが、吉良の番号を教えておく。そっちで話してくれ』
男が番号を言い出したので急いでペンと適当にノートを掴んで引っ張り出した。ノートの隅に走り書き、復唱する。男は短い返事をすると此方が礼を言い終わる前に通話を切ってしまった。名前も分からないままである。不可解な通話ではあったが、吉良さんの番号が知れたので良しとしよう。直ぐに掛けようと思ったが、丁度良いタイミングで承太郎がやってきたので大人しく画面を消した。
「怒られちゃったの」
「大したことじゃねえ、それより」
出していたノートやスマートフォンを鞄へ放り込み、教室の入り口に立つ承太郎の元へ駆け寄る。195センチの承太郎を見上げるのは首が痛い。私とは全く似ていない端正な顔がほんの微かに綻んだので、何かと思えば。足が凍り付いた。
「ジョニィが急に帰ってきたらしい」
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