話を聞きたい。
そう大統領に言われはしたが、何を話せば良いのやら。只でさえ一国のトップの隣に座していることに恐縮しているのに。吉良さん達は私達そっちのけで食事を始めている。私を見詰める大統領の瞳はシャンデリアの光を受けて輝いている。どうしたものか。私が何度も口を開閉させていると、大統領はふむ、と顎に手をやった。「昨晩は何を食べた?」突拍子ない質問だった。へ?と間抜けな返事をした私に大統領はもう一度、問い掛けてきた。昨晩の食事。話ってそんなことなのか。脳味噌が回転する様な感覚を覚えたが、何とか答えは出来た。

「カ、カレー…です…」
「そうか。君の両親は料理が得意か?」
「いえ、両親は忙しいので兄が作ってて…美味しい、です」
「仕事が忙しいのか。寂しくはないか?」
「兄弟が多いので…」
「ほう。何人だ?」
「7人です」

そう言うと大統領は目を丸くした。一般家庭に比べれば確かに多いだろう。否、大統領が一般家庭のカテゴリに属するとは思わないが…。
大統領は一度グラスに口を付けた。そしてゆっくりと飲み干した後、ジョースターはそんなにいるのか、と呟いた。嗚呼。薄々勘付いてはいたが、大統領も兄弟達と何やら接点があるのだろう。容姿端麗、それ以外は至って平々凡々一般人の兄弟達と大統領がどう接点を持てるのだろうか。そもそも、荒木荘の人達だってそうだ。あんな荒くれ者の集まりが何故当然の様に大統領と食事をするのか。疑問でならない。
大統領は縮こまったままの私に食事をするよう促した。胃は確かに空っぽ、料理も食欲をそそる見た目ではあったものの、こんな高級感溢れる店でナイフとフォークを使いこなす自信は到底無い。音を立てては駄目だとか、スープの掬い方だとか、家庭科で教わった覚えはあるが…何時まで経っても食指が伸びない私に痺れを切らしたのか、大統領がフォークを手に取った。

「食事のマナーを気にしているのか?」
「そりゃあ…」
「ならば私が手伝おう」

手伝う?首を傾げた私の口元に、大統領はあろうことか肉を一切れ押し付けてきた。「美味いぞ、食べなさい」有無を言わせぬ声色に思わず口を開く。大統領は満足気に目を細めた。カーズが「餌付けなら私にもやらせろ」と叫ぶ声がする。餌付け。


*


そうして大統領に、たまにカーズに世話を焼かれ、食事を終えた頃にはすっかり緊張感も解れていた。雲の上の人物であったが、話してみると意外と打ち解けられるものだ。加えて大統領と言うだけある知識の豊富さが感じられる。DIOやプッチなんかよりよっぽど常識人で、言うなれば学校の教師と話をしている感覚だった。何故荒木荘の面々と知り合いなのか、益々疑問に思うところである。

「今日は楽しかった、礼を言おう」
「いえ、こちらこそ…大統領とお話ができる日が来るとは思ってなかったです」

レストランを後にし、来た時と同じ車へ促される。大統領は職務がある為また暫く荒木荘へ帰ることが出来ないと吉良さんに告げていた。まさかあそこに大統領も住んでいるのかとドッピオくんに耳打ちする。肯定が返ってきた。初めに住人を紹介された時あまり帰ってこない人物がいるとは聞いていたが、まさか大統領だったとは。にわかに信じ難い事ではあるが、ここ最近は信じ難い事が続いている。二度あることは三度ある、三度あることは、というものかも知れない。
私以外の全員が車へ乗り込み、私も車内へと身を屈めた時。背後から二の腕がやんわりと掴まれる。「少し待ってくれ、聞き忘れたことがある」大統領の声。振り向くと大統領はまじまじと私を見詰めた。

「なんでしょう」
「君は私達が憎くはないのか?」
「はい?」
「此処ではないとは言え、君の兄弟を殺そうとしたんだぞ。気にしないのは不自然だと思うが」

私はまたしても首を傾げた。あまりに突拍子無い、不可解で、物騒な言葉だった。そして、そのあっけらかんとした物言いの所為で現実味が無かった。殺そうとした。言葉の割に大統領の顔には反省も罪悪感も見られないのだ。何を言っているのだろう。「私なら、プッチに殺されかけましたけど、矢で…」そう返すと大統領は目を丸くした。そうして私の後ろ、車内の彼等へ目線を移した。

「何も知らないのか」

ふと、その一言が音を立てて胸に伸し掛かった。彼等と、荒木荘の住民達と付き合う様になって何度も言われてきた。何も聞かされていない。教えられてないのだと。一体私の知らない何があると言うのか。
今度はディエゴが車内から私の腕を掴んだ。引かれるがままに体はディエゴへ傾き、大統領の指は私からスルリと離れた。ドアが閉まると同時にタイヤが回る。走り出す。私は無意識に吉良さんに視線を向けていた。吉良さんは私を見、微かに溜め息を漏らした。

「君はDIOの元へ連れて行く。教えてもらうといい」
「…ディオって、なにを、え?」
「君が知りたがっていること全てだ」


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