私達を乗せた車が向かったのは、街の中心にある自然公園だった。すっかり暗くなってしまっている為、小さな街灯が頼り無く輝いている。他の車は一台も見当たらない、車どころか人すらも。
吉良さんは窓の外に目線をやり、それから私を見た。「ここで降りるんだ」は。私の口がぱかりと開く。こんな人気の無い夜の野外に女を放り出すつもりなのだろうか。否、自分が異性に襲われる程の容姿だとは思ってはいないが、それでもこの仕打ちは如何なものか。ディエゴが諌める様な口調で吉良、と声を掛けた。心配してくれているのだろうか。すると吉良さんはまたしても小さな溜め息を吐いた。

「この公園の奥に教会があるのは知ってるな、名前」
「…あったような…行ったことないので曖昧ですけど」
「そこにDIOとプッチがいる。行きなさい」

有無を言わさない眼光に圧され、私は車を降りた。後ろ手でドアを閉める。夜の空気は冷たく、鳥か虫か定かで無い鳴き声が聞こえた。
私が数歩進むと車は静かに走り出した。少しばかり振り向くと、窓からドッピオくんが顔を出していた。その眉を下げた情けない表情はあっという間に遠くなり、見えなくなる。見捨てられた気分だった。置き去りにされる動物というのはこんな気持ちなんだろうか。
何時迄も駐車場に立っていても仕方無いので、言われた通り教会へ向かって歩き出すことにする。敷き詰められた芝生の上を歩くと、サクサクと軽快な音がした。無駄に広い敷地内を早足で進む。教会は森の奥だった筈だ。


*

暗い。
教会を前に私は足を止めた。街灯があったのは駐車場から公園の中心部までで、木々の中へ進む程に光は小さくなった。目的の場所に着いた今、頼りになるのは月明かりしかなくなっていた。
地元故に幼い頃はよく来た公園ではあるが、あまり奥の方に入ったことはなかった。それこそこの教会も存在を知ったのは中学校に上がってからだ。森で遊ぶことがなかったのもあるし、教会という建物に対して近寄り難い印象があったのだ。其れはきっと私だけでなく、大半の人間がそうだったのだろう。その事を裏付ける様に、教会の壁には蔦が茂っている。薄ぼんやりとした月の光に照らされ、何処か不気味な雰囲気がある。そもそも何の為に建てられたのだろうか…。
そうして暫く教会を眺めていた。何分経った頃だろうか、古びた木製の扉が鈍い音を立てて開いた。すっかり気を抜いていた私の体は驚きで大きく揺れる。顔を覗かせたのは、プッチだった。

「よく来たね。中へお入り」

自宅の様な言い方をするんだなあ、と思ったところでプッチが聖職者であることを思い出した。足を進め、プッチによって開かれたままの扉をくぐる。暗い室内の壁に蝋燭が灯り、儀式の様な、厳かなものを感じた。
プッチの靴底がコンクリートの地面と擦れて耳障りな音を立てた時、ふと、あの瞬間を思い出した。胸に矢が沈み、熱いものが喉奥から迫り上がってくる息苦しさ。否が応でも下りてくる瞼。背後にいるのは私を殺しかけた男。勢い良く振り返ると、胸に聖書を抱いたプッチは僅かに目を見開いた。そして数拍置いた後、口角を上げた。人の良さそうな笑顔は、初めて会った時のものと同じ。

「何もしない。君はまた私が君を刺すことを恐れているんだろう?」
「…そりゃあ」
「私は君を殺したかった訳じゃあない。スタンドを目覚めさせたかった。分かって欲しい」

穏やかな声だった。そう言いながらプッチは私の脇を通り過ぎ、祭壇の前に立った。手招きに促され、私は最前列の椅子へ腰を下ろす。毎度の事ながらプッチへの警戒が薄れてしまうのは彼が聖職者たる所以だろうか。
プッチが天井を仰ぎ見る。私も釣られて視線を向けたが、高く造られているのだろう。暗闇が広がるばかりで何も見えない。

「私とDIOが出会ったのは教会なんだ」
「…、はあ」
「あの時は、…いや、そんな昔話はいいんだ。君の話をしなければ」

君の話。無意識に唾液を飲み込んだ。

「君にとっては突拍子の無い話になると思う。しかし全て真実だ。聞いてくれるね」

私が大きく頷くと、プッチは目を細める。そして緩慢な口調で語り出した。


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