荒木荘に住む全員とはもう顔を合わせたね。君は馬鹿ではなさそうだから察しがついているかもしれないが、我々はジョジョと因縁があってね。それぞれ敵対するジョジョがいる。それぞれ、そう、全員だ。私は…徐倫、君の幼い妹と。承太郎も好きではないな。…いや、私の個人的な話はやめておこう。我々はジョジョやその仲間に敗北し、この世界に送られた。この世界がなんなのか、正直私も、誰もよく分かっていない。分かることは、この世界は我々が敗北した世界とは違うこと。現になぜかジョースターは一族ではなく兄弟として………、難しいかな?質問は後で受け付けよう、今は黙って聞いてくれ。恥ずかしいことに私にも理解できていない点は多くある。しかし、何よりも不可解なのが、君の存在だ。我々の誰もが君を知らなかった。ジョースターであるにも関わらず。もしや元の世界で、君と、我々が知る由もない誰かはまだ闘っているのかとも考えた。だがそれは可笑しい。君がいるのに、その誰かはまだこちらに来ていないとは考え難い。私は考えた。そして全てを都合良く受け取ることにした。君が、我々の光になる可能性を導き出したのだ。再び、目的を達成する為に、君が必要だ。
「分かるかな」
「………えーっと」
「難しいか」
プッチは困った様な笑いを漏らした。私はあまりにぶっ飛んだ話に頭がついていけていない。この世界とは別の世界があって?其処では兄弟達とプッチ達は戦っていて?負けたけど再び巡り合った?B級SF映画でも今時そんなストーリーは作らないだろう。
困惑が顔に出ていたのだろう、プッチは私を見ると額を押さえ大きな溜め息を吐いた。「どう説明したものか」吉良さんといい、私は溜め息を吐かれてばかりだ。困った。プッチの言う言葉、単語の意味は勿論分かる。只、その内容が理解出来ないのだ。どんなにプッチが真面目な顔で私に語り掛けても、ふざけているとしか思えない。もしや、兄弟達もグルで私を騙そうとしているのではないか。大掛かりなドッキリとして。そうだとしたら悪質過ぎる。
ふと、蝋燭の灯りが揺らめいた。途端に寒気が襲い、身震いをする。コツ、靴音が聞こえた。
「プッチよ、お前は回りくどいのだ」
「DIO」
心地良い低音が空間を揺らすと、プッチが分かりやすく顔を綻ばせた。振り向くと、蝋燭では照らし切れない暗闇の中からディオが姿を現した。黒のロングコートを羽織っている所為で、金の髪がより一層際立っている。相変わらず美しい。下衆な中身を知っていても尚見惚れてしまう。直ぐに我に返って目を背けたが……ディオは私の横で足を止めると、静かに其処に跪いた。
見ろ。ディオはそう言うと自身の左肩に手を伸ばし、衣服をはだけさせた。突然現れて肌を見せ付けてくる男。変態。頭の中でその二文字が浮かんだが、其れを吹き飛ばす衝撃が私の視界に飛び込んだ。ディオによって顕になった其処には、余りにも特徴的な、見覚えのあり過ぎる痣が浮かんでいた。私は絶句する。そんな、誰にでもできる様な痣では無いだろう。硬直する私をディオは鼻で笑い、衣服を直すと立ち上がった。
「貴様を抱いた時気付かなかったか」
何も言えない。ディオは続ける。
「名前よ、このDIOはジョースターを根絶やしにしたい」
「…根絶やし、て」
「ジョースターの血筋さえ消してしまえば、このDIOの邪魔をする者はいなくなる。どうだ、私と手を組まないか?」
甘く、蕩ける様な声だった。初めて二人きりで会ったあの日、私の心を吐露させた時と同じ。
私の頭は未だにクエスチョンマークで埋まっている。誰か、誰でもいい、私の為にこの理解し難い物語を噛み砕いて欲しい。猿でも分かるように、図解も付けて貰えれば最高だ。
何も言わない私に痺れを切らしたのかディオが再び膝を付いた。その真っ赤な瞳は自然と私を覗き込むことになる。「ジョースターを憎む者同士、友達になろうと、そう言っただろう?」そんな事、そう叫びたくなったが、はたと思い出した。あの日のベッドの上でのやり取り。靄がかかった記憶の中に、確かにその台詞はあった。其れに私が流されたことも。何も言えない。然し何か言わなければ。「私もジョースターなんだけど」力強く言ったつもりだった。ついでにディオを睨み付けたつもりでもあったが、実際は声が震えていたし、情けない顔をしていたのだろう。プッチがその場にそぐわない、微笑ましいと言わんばかりの笑いを漏らしたから。ディオは僅かに片眉を動かしたが、やはり嘲笑した。其れから口を開こうとした時――蝋燭が、消えた。
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