ガシャアン、窓が割れる音が響く。暗闇に包まれた教会の中でプッチが誰だ、と叫んだ。何も見えないが目の前のディオが立ち上がる気配もした。一体何事かと硬直する私の両の二の腕に、何かが絡まった。それなりの太さがある、しなやかな何か。息を呑んだ。何者かに襲われている!縄の様なそれは明らかに意思を持ち轟いている。人間が、忍者よろしく縄を投げて上手く絡まっただとかそんなものでは無い。それ自身が蠢いて私を拘束していた。
助けを求めるべきだろうか。然し周りにいるのは当然ディオとプッチの二人。この二人に助けを求めても良いものか、瞬時に判断がつかなかった。その一瞬の迷いの隙に、私の体は強い力で引き摺られる。ヒュッと息が漏れた。その音が聞こえたのかディオが私の名前を呼ぶ。「名前」恐怖で返事が出来ない。浮遊感がある。私は浮いている。持ち上げられている。
下手に動かない方がいい、そう判断して、目を閉じてじっと耐えた。恐ろしさで震える唇は噛み締めた。数秒後、頬に冷たい風が触れた。木々の匂いもする。外に出されたらしい。正体を見るのが恐ろしくて瞼を開けなかったが、爪先が地面に触れたのを感じて思わず周りを見渡す。するすると私から解けていく物体は縄ではなく、緑色に光る触手のようなものだった。
以前の私であれば悲鳴を上げていただろうが、今の私はすんなりと理解できた。恐らく誰かのスタンドだ。背後からジャリ、と地面を擦る音がする。心臓が大きく音を立てたが、聞こえてきた声は耳によく慣れたものだった。

「名前!」
「…か、花京、院?」
「承太郎達が血眼で探してるぞ。君一体何をしたんだ」

前髪を揺らして、花京院が私へ歩み寄る。その背中には先程の触手と同じ色をしたもの…スタンドが静かに佇み、こちらを見つめている。月明かりを反射して透き通るように煌めくそのスタンドは美しい。目が離せないでいると、花京院は溜め息を吐き、もう一度私を呼んだ。

「承太郎達の言ってたことは本当だったか」
「何、が」
「スタンドが見えるんだな」

眉を寄せてそう言う花京院に、どう返事をするべきか悩んだ。見えていない、何のことか分からない。そう惚けられればどれ程楽だっただろうか。家でスタンドを使い逃げてきた上、今私の視線は花京院の背後をしっかりと捉えている。そうでなくても、花京院は聡い。誤魔化すのは不可能だ。私は小さく首を縦に振った。
夜風に木々が揺れる音の中に、木の軋む音が聞こえ混じる。教会の扉が開いたのだろう。花京院が私に手を伸ばした。しなやかで、でも男らしい手が私の肩を抱く。「とにかく、家まで送るよ。一刻も早く承太郎達の元へ戻るべきだ」力強く体を引かれたけれど、足が動かない。私はまだ決めあぐねている。花京院と共に、家族の元へ帰るべきなのかどうか。
今後の事を考えるなら、先程プッチとディオに語られた全てを振り切って、迷わず帰るべきだろう。帰って、兄達の口から真実を聞くのだ。もし勇気が出れば、ジョニィの事も打ち明けよう。そして馬鹿げた話だと笑い飛ばしてもらって、ジョニィを諭してもらって、日常に戻る。そうするべきだ。なのに私の足は一向に前へ踏み出さない。その理由は、何故かディオの肩にある、私には無い星。
固まったままの私を花京院が見下ろす。地面を踏みしめる音がして、あの蕩ける様な声が私を呼んだ。


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