ジョナサンとの通話を終えて数分経った頃、襖が開く音がした。慌てて目を擦り、足元に出しっ放しだったスマートフォンをサッと隠した。顔を上げる。入ってきたのは吉良さんだった。吉良さんは何度か瞬きをした後、助けを呼んだのか、と聞いてきた。流石に目敏い。返事が出来ずに目を逸らすと、此方へ歩み寄り、目の前に腰を下ろした。

「怖くなったんだろう」
「…違います、助けというより、きちんと兄達と話がしたくて…」
「というと?」
「兄達からも、ちゃんと話を聞きたいんです…判断は、それから」

その言葉に嘘偽りはなかった。今のところディオやプッチ、ドッピオくん…要するに此方側の言い分しか聞いていない。兄達が本当に、ここの誰かを殺したのか。何故そんなことをしたのか。聞かなくちゃならない。しかし結果的に兄達はここに来てしまうのだから、助けを呼んだことになるのだろうか?
すると吉良さんは目を丸くし、それから訝しむ様に目を細めた。何か可笑しなことを言っただろうか、やはり勝手に連絡を取ったのは不味かっただろうか…脳味噌をグルグル回して吉良さんの言葉を待った。

「君は変わってるな」
「え…」
「自分で言うのも何だが、こんなよく分からん集まりの言うことより、普通は共に生きてきた家族を信じるものじゃあないかな」

吉良さんの声は淡々としていた。責める訳でも揶揄う訳でもなく、いつも通りの顔で言った。私はと言えば、頭をガツンと殴られた様な衝撃を受けて固まっている。確かに、そうかもしれない。ディオと出会い、処女を奪われ、矢で殺されかけ、スタンドを目覚めさせられた。ここまでされて私は"叱られるのがこわい"だけの理由で助けを求めなかった。挙げ句の果てに友人を目の前で殺されかけたというのに、私はどっちにつくか決めあぐねているのだ。否、ここに今いるのは、花京院を庇う為だ。決めあぐねているなんて、そんなことはない。ここまで考えて、私の中にもう一人、私が現れる。じゃあジョナサンに話を聞いてから、なんて回りくどいことをせず、家族の元へ帰れば良いのに。素直に助けてくれと言えばいいのに。それをしないのは、お前が、ジョースターを。
そのもう一人の私の声が、徐々にあの甘ったるいものになっていく気がして、勢いよく頭を振った。吉良さんは怪訝そうに私を見ていたものの、少し息を吐き、語りかける様に話し始めた。

スタンドを目覚めさせたあの日、家に帰しただろう。あれはDIOの指示でね。君を試したんだ。全てをジョースターに話して、助けを求めるか。DIOは君が話さないことを確信していたよ。そしてやはり、君はしなかったんだろう。何故かは分からんが…もし全て話していたのなら、奴等がその日のうちに怒鳴り込んできてただろうからね。君は私達に怯えるそぶりは見せるが、案外そうでもないんだろう?いつだって君は、家に帰りたくないという子供染みた理由で、のこのこついてくるんだ。大事な家族より、私達にね。

呆然と聞いていた。常識的で紳士的で好ましいと思っていた吉良さんが、とてもとても酷い人の様に感じた。何か良い返さなくては、そう思って口は開くものの、何を言っていいのか分からず声が出ない。全てが正論に聞こえたから。
私が返事をしないのを見て、吉良さんは尚も続ける。

いつだって君が引き金になれた。ディオと一晩過ごした時も、スタンドを目覚めさせた時も、君さえ助けを求めれば、奴等はすぐにここへ来ただろうな。私達を殺しに。君はそれをしなかった。そして今ようやく引き金を引いたが、君は銃口を誰に向けるべきか悩んでいる。悩む時点で、君はもうこちら側の人間なんじゃあないか?

何ともなさそうな表情を貼り付けて話す吉良さんの声をもう聞きたくなくて、膝に顔を埋めた。そんな私を見て、何を思ったか知らないけれど、吉良さんはまたひとつ息を吐いた。

「君は本当に、ジョースターらしくないな」



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