窓ガラスが勢い良く粉々に割れ、破片が飛んでくる。突然のことで身動きが取れなかった。ジョニィが私を抱き込むのにも、抵抗する間もなかった。結果的に、ジョニィが私をガラスから守ってくれる形になったのだが、私にはそれがとても信じられなかった。そして同時にディエゴの馬鹿げた話を思い出して、途端にまた恐ろしくなって、体をギュッと小さくした。
ジョニィの肩越しに見えるのは、黒髪を靡かせる紫色のスタンド。その直ぐ後ろに、見慣れた逞しい学生服。ディオが随分楽しそうに、承太郎の名前を呼んだ。
「ジョニィ、任せたぜ」
「分かってるよ」
承太郎は帽子のつばを摘み、ディオを見据えたまま動かない。ディアボロやカーズも立ち上がりこそしないものの、空気が張り詰めている。息が詰まりそうな私を、ジョニィが外へ出るよう促した。促されるまま、足元に散らばるガラス片を何とか避けながら、玄関のドアノブを掴む。一刻も早くこの緊張感から逃げ出したかった。
ドアを押し開くと、冷たい空気が頬に触れた。まだ辺りは暗いけれど、朝が近いのかもしれない。時間を気にしていなかったので現在の時刻が分からない…何歩か踏み出して、ジョニィがドアを荒く閉める音を背中で聞いた。その大きな音が少し恐ろしかったけれど、此方に走って来る長兄の姿が見える。お陰で怯えずに済んだ。
ジョナサンは私を見て、ジョニィを見て、そしてまた私を見た。眉を下げて、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「ジョナサン」
「名前、本当に…無事で良かった、本当に」
ジョナサンは逞しい腕を広げ、私を力強く包み込む。二人とも同じように私を助けに来てくれているのに、ジョニィに抱き締められた時には決して無かった安堵が身体中に広がった。長男だからか、それともジョナサンだからだろうか。一番頼りになるのは、どうしても、この人だ。背中に腕を回すと、大きな掌が私の頭をポンポンと撫でた。
「もう大丈夫、大丈夫だから。ここは承太郎達に任せて、家に帰ろう。 …話は、それから」
「帰るのか、名前」
背後から聞こえてきた声に、一番に振り返ったのはジョニィだった。ジョナサンは私から視線を外して、声のした方を見て、それから私をやんわりと自分の背中に追いやった。私はそうしてジョナサンに庇われる形になって、ようやく声の主を見た。私を呼んだディエゴは荒木荘の塀に凭れ、ジョニィでもなくジョナサンでもなく、私をじっと見ていた。
最初に噛み付いたのはジョニィだった。「放っておけよ」ディエゴは緩慢な仕草でジョニィに視線を移す。
「大事な女が取られちゃ困るもんなァ」
背中にぞわりと悪寒が走った。ディエゴの言葉にじゃあない。ジョニィから発される、何か。もしかしたら、これが殺気というものなのだろうか。ジョニィは今どんな顔をしているんだろう。想像もしたくない。
ジョナサンがジョニィの右肩をやんわりと掴んだ。それから宥める様に2度叩いて、ディエゴの方を見た。
「…君は、DIOの肩を持つつもりはないんだろう?」
「ないね。あいつの魂胆も、ドッピオの復讐も、どうでもいいな。ただ俺が気になるのは、ジョースター家の可愛い可愛い箱入り娘の今後だけだ」
ジョナサンに返事をした筈なのに、まるで私に話し掛けている様だ。ディエゴはまた真っ直ぐ、私を見ているから。
何か言うべきなのだろう。然し私の上下の唇はぴったり閉じたまま、開いてくれない。この張り詰めた空気にすっかり当てられている…ジョナサンの服の裾をそっと掴むと、ジョナサンは僅かに視線を此方に向けた。
「大丈夫だからね」
そう言ってエメラルドの瞳が細められる。ジョナサンの言葉にはやけに説得力があって、力強さがあって、でも、「何が大丈夫なんですか?」嗚呼そう、そればっかり言うけれど、何が大丈夫なんだろうって。
はたと、突然耳元で聞こえたその声に、私も兄2人も反応が遅れる。その隙に私の腕に絡みついた鮮やかなピンクが、私とジョナサンを引き剥がした。
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