「名前さん、だめですよ。一緒に頑張ろうって言ったじゃあないですか」
初めて来た時も思った。彼は見かけによらず、物凄く力強い。
しなやかな腕が背後から私のお腹に回る。ギュッと私を抱き締めて、ドッピオくんはそのままニ、三歩と後ずさる。引き摺られるようにして私の体はジョナサンと離れていく。
「ドッピオ」
ディエゴが私の後ろを見据える。名を呼ばれたドッピオくんの表情を伺う術は私には無い。
「だめですよ、ディエゴさん、名前さんは渡せない」
お腹に腕が食い込んで、苦しい。私の口から小さく音が漏れたのを聞いてか、ジョナサンが私の名前を呼ぶ。
「別に欲しくはないが」ディエゴが呆れた様に息を吐く。そんな様子を知ってか知らずか、ドッピオくんは腕を緩ませ、そのまま横へ滑らせる。まるで恋人のように腰を抱かれた。
「名前を、離してくれないか」
「…名前さんは?どうしたいんですか?」
眉を顰めたジョナサンの問いに答えず、ドッピオくんは私を見る。その深いパープルの瞳、瞳孔が此方を凝視するのが恐ろしいのに逸らせない。
私がどうしたいかなんて。決まってる、ジョナサンや承太郎、そして不服だけれどジョニィと、うちに帰りたい。誰も傷付かず、傷付けないまま。そう答えればいいのに、私の口からは吐息しか漏れない。ドッピオくんの視線が物語るのだ、返事を間違えれば、この場が、兄達がどうなるか。血塗れの花京院が何度も何度も浮かび上がって、何も言えないまま私はぽろりと涙を落とす。堰を切ったように溢れる其れを、ドッピオくんが目を細めてそっと拭った。
「帰りたくないそうです」滲む視界でドッピオくんはにこりと笑う。泣かないで下さい、と私を宥めるように手の甲で何度も頬を撫ぜるドッピオくん。
「君に聞いているんじゃあないッ!」
「名前さんが言いにくそうだから僕が言ってるんです。そんなことも分からないんですか?そうやって名前さんのこと、何も分からないままでいたんでしょう。そんなだから」
拳を握り締めて激昂するジョナサンに、ドッピオくんは下らないと言わんばかりに目を細める。そして何か言いたげに、ジョニィを一瞥した。「そんなだから、ねえ、名前さん」そしてまた私に視線を移す。ジョナサンはそんなドッピオくんの様子に眉を顰めて、私を見詰めて、それからジョニィを捉える。
ジョニィは何も言わない。只私を、その煌めくエメラルドに映す。
ドッピオくんは知っているのだろうか。私が目の前の兄にずっとされていたことを、最後にされたことを。だからこんな含みのある言い方をするのだろうか。ジョナサンが叫ぶ。言いたいことがあるならはっきり言ってくれ。ジョニィのエメラルドが揺れる。怖い。私を慈しむ様に頬を寄せるドッピオくんも、何も言わないジョニィも。これまでの全てがジョナサンに知られることも。全て怖ろしい。私はずっと怯えてばかりだ。
「下らん。そこのマヌケに教えてやれ、名前よ」
背後から、愉快だと言わんばかりの声。ドッピオくんが振り向いて、遅いですよ、と溜め息を吐いた。自分の動悸が大きく速くなっていくのを感じる。何故、何故この男が何事も無かったように声を掛けてくる?おかしい、私の兄はどうしたの、ぶっきらぼうで口が悪くて、でも本当は誰よりも家族想いな、私の兄は。
どさりと何かが落ちる音がする。ジョナサンとジョニィが、同時に叫んだ。
ALICE+