「だあから、なんでもないってば!」
「なんでもないこたないよねェン、あんなとこでぼけーっと突っ立っちゃってよォ〜?」
「ちょ、近寄らないで、酒くさっ」
「名前、遅いから心配してたんだよ、何かあったのかい?」
「いや、だからなにも、ないってば」

あの後ジョセフに呼ばれて我に返り、よくよく辺りを見ればもう家のすぐ側だった。何してたんだとしきりに聞いてくるジョセフを無理矢理押して家に帰ったものの、ジョセフから粗方を聞いたジョナサンからも質問責めを受けることになった。
実際何もなかった。友人と少し話し込んでしまっただけ。ディオのことを除けば、だが。しかし言うなと釘を刺されているし、友人と三人だったとは言え男といましたなんて言おうものならどうなることか分からない。今までの人生で私が異性の存在を匂わせたのは幼稚園の頃から数えても数回程度ではあるが、その度何故か兄達にことごとく邪魔されてきたのだ。告白されればこいつはやめた方が良いと仗助にあることないこと吹き込まれ、デートまがいなことをしようものならジョナサンが付かず離れずの距離でつけてくる。本人は隠れているつもりなのだろうが、あの巨体が目立たない訳がない。承太郎は側にいるだけで怯えられるし、ジョセフに至ってはおにーちゃんがいるからいいだろォ?なんて馬鹿げたことを言い出す始末。要するにどいつもこいつも過保護なのだ。故に私にほんの数ミリでも浮いた話があれば兄達は勢いよく食い付いてくる。もう冷やかしはごめんだ。兄達と違ってモテる訳ではないのだ、ちょっとした縁は大事にしたい。決して兄の友人であるディオをそんな風に見ている訳ではないが。
背中にのし掛かって体重を掛けてくるジョセフの腕を何度も叩く。ぷわんと酒のにおいがして不愉快で仕方無い。名前名前としきりにしがみついてくる195センチに堪忍袋の緒が切れる寸前、急に体が軽くなった。ぐえ、とジョセフの唸り声。

「くせえんだよ」
「じょうたろーてんめー!生意気な!」
「とっとと寝ろ。名前もとっとと風呂入って寝ろ」
「あ、うん、ありがと」

どうやら承太郎が引き剥がしてくれたようだった。ジョセフの襟首をしかめ面でジョナサンに突き出し、自室に戻っていった。うるさかったのだろうか。ジョナサンがジョセフの肩を抱いているうちにそそくさと脱衣場へ向かった。時刻は午後10時。明日も学校だ、早くお風呂を済ませて寝てしまわないと。カーディガンを脱いで洗濯かごへ放った時、かさりと布ずれでは出ないだろう音が聞こえた。怪訝に思い脱いだばかりのカーディガンを漁ると、身に覚えのない小さく折り畳まれたメモが入っていた。まさか。そっと開くとそこには電話番号とディオ・ブランドーのサインが綺麗な字で書かれてあった。


*


「え、で、連絡したの!?」
「してないよ」
「もったいな〜い、それ絶対気あるよ!」

この年代の女子は総じて恋愛の話が好きだ。私も例に漏れず下世話な噂話は好きな方だけど、自分の話じゃ盛り上がれやしない。ブランドーさん格好良かったなあ、頬に手を当ててうっとりと目を細める友人を見ながら卵焼きを口に放った。ジョナサンの作る卵焼きは甘めで美味しい。
友人はいたくディオを気に入ったらしく、やれ今連絡しろだのやれ付き合ってしまえだのと嬉々として語る。確かに物腰も柔らかく、紳士的で、まるで彫刻の様な顔立ちで…あの短い時間でディオという人を決め付けるのは良くないが、思い返せば完璧な男だった。しかし完璧な人間などそうそういる筈もないし、もし彼がそういう稀有な存在であるならばとっくに恋人のひとりふたりはいるんじゃないか。そう伝えても友人はなかなかお喋りな口を閉じない。

「彼女がいる人がわざわざ女の子に声掛けて家まで送る!?」
「ジョナサンの妹だからでしょ」
「いや〜私には分かる!あれは絶対名前に気があるね!」
「誰が誰に気があるだと?」
「だからないって…、…!」

背後からドスの効いた声がする。友人はぱくっと音がつきそうな勢いで口を閉じた。何故このタイミングで現れたのか、声の主…承太郎は近くの椅子を引き寄せ私の隣に座った。
友人がアイコンタクトを送ってくる。"誤魔化すか""お願い"以心伝心である。私が何度も同じ愚痴を繰り返したお陰で兄達の過保護加減をすっかり把握している彼女は、ウインナーに箸を突き刺しながらへらへらと笑った。

「JOJOはお昼もう食べたの〜?」
「誰がこいつに気があるんだと聞いている」
「誰もないってば!」
「じゃあ何の話をしていた?」
「恋愛ゲームの話だよ、JOJO」

承太郎が友人を見やる。面食いの彼女にとって承太郎は勿論ドストライクであるが、私の話を聞いて「シスコンは無理」と一蹴している。私は単なる過保護故の行き過ぎた心配性だろうと話しはしたが、友人は他の女生徒の様にミーハー気味に騒ぎ立てることはなかった。だから承太郎も普通に会話をするし、こうして二人でいるときに混ざってくることも珍しくなかった。
うすらと目を細める承太郎に怯むことなく友人は上手い具合に誤魔化してくれた。承太郎は納得いかないようではあったが、友人に言いくるめられて何も言わなかった。

「大体JOJOはシスコンすぎ、イケメンでもさすがにないわ」
「こいつに恋愛云々はまだ早えんだよ」
「ほとんど年齢変わりませんけど〜」

シスターコンプレックスは否定しないのか。やれやれだねえ、承太郎の口癖を友人が真似た。お弁当の隅っこにプチトマトがあったので承太郎の唇に押し付けると、少し眉間に皺を寄せた後口を開いてくれた。友人が溜め息を吐く。「あんたに男ができるなんて夢のまた夢かもね」縁起でもない。


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