幼い頃から母方の親戚というものに会ったことがなかった。お正月もお盆も一同の集まりのお誘いがあっても一度として行ったことがなかった。お母さんが頑なに拒否していたのだ。おじいちゃんとおばあちゃんが家まで来たこともあったけど、お母さんは家の中に入れることすらしなかった。私は部屋から出てくるなときつく言われていたから、ドアを開けてそうっと玄関の様子を覗き見た。おじいちゃんとおばあちゃんは外国人でその子供のお母さんもそうだから、何やら英語で言い争っていたので私にはさっぱりだった。お父さんは日本人だけど英語でお母さんを宥めながら何度も何度も頭を下げていた。困ったようにおばあちゃんと目を合わせるおじいちゃんの目が綺麗な緑色だったのが鮮明に記憶に残っている。
…結局母方の祖父母を見たのはそれが最初で最後だった。私は何故母があそこまで自分の親を嫌うのか分からないまま高校生になった。
周りと何らかわりなく女子高生を謳歌していた矢先、事件が起きた。目が覚めると、私の枕元に妖精がいたのだ。まるで某有名アニメーションに出てくるような、輝く4枚の羽根を持ったそれは枕に肘をついてこちらを見詰めている。決して寝惚けている訳ではない。それは叫び声を上げる私を見て綺麗なソプラノで笑った。
私の叫び声を聞き付けたのか父と母が駆け込んできた。私は母に飛び付いて妖精を指差した。二人には見えていないようだった。しかし父は顔を青くして、本当に見えるのか、と聞いてきた。早朝からこんな下らない冗談をする性格ではないので何度も何度も頷く。すると母は私の襟首を掴んで首筋を覗き込むような仕草をした。そして力が抜けたようにへなへなと座り込んでしまった。
「どうして、今まで、なかったのに」
何のことやらわからない。妖精はいつの間にか消えていた。訳の分からない生き物と母の様子に年甲斐もなく怖くなって父を見る。父は母の肩を抱いて神妙な面持ちをした後、携帯電話を持ってくるように言った。おじいちゃんを呼ぶんだ、と。
*
その日は学校を休んだ。父は仕事を休めないので、母さんを頼む、おじいちゃんが迎えに来る筈だからと言って私の頬にキスを落として行ってしまった。母はふさぎこんだまま私を見ようとしなかった。
お昼頃、祖父がやってきた。きちんと顔を合わせたことがなかったから出迎えるのは酷く緊張した。おじいちゃん、と呼ぶことすら躊躇われた。祖父は私を見て被っていた帽子を脱いで、名前を呼んだ。知っていたのかと少し驚いた。歳の割に逞しい腕が私を包んで会いたかったと言った。声が震えていた。ほぼ初対面である筈の祖父の腕の中は不思議と心地が良かった。
祖父は私に外出の準備をするように言って、リビングへ向かった。私は部屋に向かって愛用しているバッグに財布や携帯、化粧道具を放り込んだ。玄関に戻ると祖父しかいなかった。母は来ないらしい。ちらとリビングを見ると母が立っていた。泣き腫らしたような目元をしている。ちゃんと帰ってきてね、か細い声で言う。その言葉の真意を計りかねたまま、私は祖父に肩を抱かれて家を後にしたのだ。
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無駄に長い
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