犬も食わんわ



「大先生、時間あったら一緒に飲みにいかん?」

仕事も終わりさぁ帰りますかという時珍しくトントンから飲みに誘われた。
数人でダラダラ飲みに行くことはあれどこう改まって飲みに誘われるのは初めてかもしれない。しかも、部屋には他仕事終えたマンちゃんやシャオロンとかメンバーもいる。
すごい珍しい。
そして、メンバーの中から選んでもらってなんかちょっと嬉しい。
仕方ないなぁーええでーなんてニヤニヤしてしまうのを抑えながらトントンの誘いに乗ったのだ。



仕事場から少し離れた雰囲気のよい居酒屋の、
中にはいり軽く飲みながら取り留めのない話をしていた時、俺は軽い気持ちで聞いたのだ。

「なんで今回俺誘ったん?」

嬉しかったが実はずっと気になっていた。別に飲みたいんなら皆誘えばええし、2人で行く理由はない。トントンがどうしても俺と飲みたいかと言われたらそれはない筈や、ということは何か理由があって誘ってきた事になる。

「…………大先生…」

さっきまで酒も入って饒舌やったトントンの口が止まる。
グラスを持ってる手に力が入ってるのがわかる。なんや?なんかあるんか?これ俺ひとりで消化出来ることなんか?
冷や汗が背中を伝った。


「実は大先生に聞きたいことあって誘ってん……その、なんや大先生って男性経験あるか?」
「えっ?」

めっちゃ真剣な顔やなトントン、めっちゃ真剣な顔やけど、どゆことなん??お前の口からまさかその手の話題がでるとは夢にも思わんかってんけど俺は


「実はな、とある男性とやなお付き合いする事になってんけどな…その手の事にはどうしても俺縁がなかったからな、なんか自分で調べるのも気恥しくて…」
「いや、俺も別に男性経験に縁のあるヤツちゃうで」
「大先生はほらなんか色々経験してそうやん、やからやり方とかな知ってんのちゃうかと思って」
「うん、ってか普通に流したけど男とお付き合いしとんの!?!?女もまだやのに!?」
「うるさいわ!!!!!」

顔を真っ赤にして叫ぶトントンを見てこれはガチやぞ…とさとる。下手な事は言えへんしな…

「トントン、はっきり言う。俺のバックはまだバージンや…」
「嘘やろ……」
「あんな、俺やって怒るんやで!!」


わざわざ恥をしのんで暴露したのに…騙された…トントンの小さい声の嘆きが耳に届くが言われたところでまだバージンやねんから仕方ないやろ。勝手に暴露したのはそっちやしな。
まぁ、俺は悪くないけどテーブルに俯せグズグズ言うトントン見ると罪悪感がでてくるわけで、気づけばそっと肩をたたきながら、「知り合いにそんな奴おったと思うからまた聞いといたるわ。」なんていって優しい言葉をかけていた。

「大先生っ……今回はここの飲み代は出しとくわ!」

さっきまでの鬱々とした雰囲気が嘘のように明るくそう言ってくるトントンにこいつぅ…と毒をはくがまぁタダ酒飲めるしと気持ちを切り替える。



pipipipi

「あっオスマンから電話や。すまんちょっと席外すな」
「おー」

トントンの背中を見送りながら次は何を飲むかメニューをめくってるとガタンっと椅子を引く音が聞こええらいはやい帰りやなと、そっと上を向くと人を8人は殺しながら来ましたって顔したゾムがいた。

「えっ??ゾッゾムさん?」
「………」
「おれなんかしました??」

ひたすら睨んでくるゾム。
俺視線で殺されるんちゃうか…と不安になる

「…ン…なんの…話…ったん」
「はい??」
「やから、トントンとなんの話しよったんや」
「………」

わかった。トントンのお相手わかったわ。
わからん方が難しいわこんなん、ゾムめっちゃこわいし、下手な事言うたらそのままバイバイやわ。

「なんや、大先生なんかやましい事でもあんの?」
「いやいやいや違いますって!そんな僕、相談!そう相談にのってただけですやん」
「………」
「いやほんと!好きな奴と1発しけこむ方法聞かれただけやって!!ほぼ惚気みたいなっ!ほんとやって信じてゾムッ!!」

じっとこちらをさっきまで持ってなかったナイフ片手に見てくるゾムに半泣きで説明すれば、ほんのりと顔を赤く染めながら財布を取りだし
今回の飲み代。といい多めの金額をテーブルに置いたと思うとトントンの消えた方に向かって歩きだした。
遠くからトントンっぽい人の叫び声が聞こえたけどあれは多分幻聴やと思う。
知りたくもないメンバーの内情を聞かされそのまま放置。しかも、今後これはあのバカップルに絶対巻き込まれる事を考えるとほんとにホイホイと飲みについてきたことを後悔しかできない。