嵐の如く

俺の家の横にはそれはそれは高貴なお貴族様が住んでる。
それは、代々国に仕えてるヒューラー家で、お屋敷も俺んち何個分なん?ってぐらい広くお抱えのメイドや執事なんかもおる。
しかも、凄いことにこの家には国内でも麒麟児やら1000年に1度の天才児など言われてる、グルッペン・ヒューラー君がいる。この人はほんとに頭が良い上に武芸も達者でほんとに文武両道を地でいく凄い奴
雲の上のまたまた上のような存在のその人には家が横だと言うてもお知り合いになる事は普通ないのだが、俺、鬱こと大先生は気づけばそんなグルッペン・ヒューラーと幼馴染みという関係にある。
もともと子供の多い地域ではなかった事と、生まれた頃が近く歳も一緒。家も隣と来たもんやで、お貴族様からの遊び相手になってやってくれというお願いに勿論拒否権などなくズルズルと幼馴染みというポジションを俺はもらったのだ。グルッペンの事を俺はグルちゃんとグルちゃんは俺の事を犬やらポンコツやら大先生やら色々と呼び会いながら仲良くさせてもらっていた。
小さい頃から頭が良く活発で探究心や好奇心は人一倍あるグルちゃんに俺は毎回ボロ雑巾のようになるまで付き合わされた。
グルちゃんが森に行くと言えば裏の山まで連れていかれたり、国について知るべきやと言えば国境沿いまで連れていかれたり、読みたい本があると書庫に共に籠らされ、何処に行くのも何をするのもお供をさせられた。流石に戦争中の隣国に行くでと言われた時は泣いて拒否してグルちゃんの母親に助けを求めたがそれ以外は常こっちの事情や気持ちを総無視で犬の散歩をするみたいな気軽さで連れていかれた。
おかげでグルちゃん以外に友人なんかおらずグルちゃんとのボロボロな思い出で俺の幼少期は終わっている。









だが、そんなグルちゃんとのハートフルボッコな毎日は結構あっさりと終わった。
朝いつものように現れたグルちゃんによって。
ただ、いつもと違うのは見たことない真新しい軍服に身を包んでいた事で、


「大先生俺、軍に入るから家出るわ」


ちょっと買い物に行ってくるわーみたいなテンションでグルちゃんは告げる、急なことではっきりとしない考えのままやっと出た言葉は、


「頑張ってなー」


グルちゃんはいつも浮かべてる笑みを濃くして頷いたのでこの返答は間違ってなかったようだ、クルッと長い足を軸に身を翻し後ろ手に手を振りながらグルちゃんは去っていった。グルちゃんによる恐怖政治から解放されたといえばそうなのだがあまりにもあっさりとした別れに少し虚無感を感じた。






そこからの俺の人生は、今までの事が嘘かのように穏やか流れていった。
友人はもともと人と接するのが苦手な事もあってかあまり多くは出来なかったが、何人か心を許せる奴がいて年相応に彼女なんかもいたりして毎日が充実していた。
大学をでてからは自宅に寄生しながら細々と何かしらの仕事している。
特に大きな波もなくなんとなくの毎日が過ぎていっていた。



出て行ったきり1度も実家には戻っていないグルちゃんは、軍の中で着々と力をつけてるようだ。風の噂ではものすごい階級まで異例も異例の大出世をしたらしくもうこれは雲の上なんかでは表せないレベルで遠くに行ってしまったようや。







ピンポーン




「あっ鬱くん!!部屋でゴロゴロしてるんやったらでてー!」
「あーはいはい。わかっとりますー」

仕事も休み手伝いをするでもなくゴロゴロする休日の午後。実家に快適寄生生活をするにあたって一番の障害になるオカンに言われ、のそのそと玄関に向かう


「はいはい、どちら様ですっ…か…?」


玄関を勢いよく開けた先に居たのは、見覚えしかない綺麗なハチミツのような金髪。背も何もかも最後に見た時より大きくそれでいてしっかりしてる。

「グルちゃん…?」
「おぉ、大先生久しぶりやな」

あの時から変わらない余裕綽々ですと言わんばかりの笑みに、あの時よりも低くなった声。

グルちゃんが帰ってきた。


「どっどないしたん??急に帰ってきて!えらい身軽やけど実家には帰ったん?」

次々と質問が飛び出すが何一つ返事は返してくれない。


「ちょっとグルちゃっおわっ!!」グイッ
「大先生、俺はお前の事を言ったことをなかなか覚えへんしすぐ忘れる脳内ガバガバのポンコツやと思っとったケド、ちゃんと理解して待ててたんやな。」
「はい??グルちゃん??どゆこと?」
「お前はクズやから、そうそう家から出てかんとは思っとったがどうも信用出来んくてな…疑って悪かったな」
「あのーグルちゃん?ごめんね、ほんとにね理解出来ひんねんけど!?」
「軍はもう俺の支配下、国を盗るのも時間の問題や。安心し大先生のポストも用意してるからな」
「安心出来ひん!!何がなんやらわからんけど全然安心出来ひん!!!」

グイグイと俺の手を引くグルちゃんに意見するが聞いてもらえないっ このままではなんか知らんがヤバイ事になるっ!思いっきり腕に力を入れようとした時、前を向いていたグルちゃんがクルッとこっちを向いた



「さっ、行くで大先生」
「(あっ…コレはもうダメなやつな)」



あの頃行きたくないとごねる俺を引き摺って駆け回っていた時と同じ顔したグルちゃんをみて俺は悲しくも抵抗をやめた。