殺されたいほど愛してる

遠くで親友とその想い人の殺し合いを眺めるようになってどれだけ経ったのか。機嫌良く殴り掛かる男と、拳を受けた腕を揺らす親友は一体どうしたら丸く収まることやら。私を膝に抱き上げたままふにふにと唇を触っていたキバナが欠伸を零す。二人の血生臭い逢瀬の観客は相変わらず私たちだけで、今日はどっちに軍杯が上がるのかは正直そこまで興味がないところでもある。どっちが勝ったところで、また顔を合わせれば同じことをするので数えることをやめたとも言うが。今のところダンデさんのが勝利数が多い、あの人本当に人間?なんて考えていたら殴られた弾みでユカリがぶっ飛んだのと同時にふわり、と血の匂いがして、指先を唇で食む。

「……ンン。」
「腹減った?」
「ちょっとだけ。」
「いいよ、ほら。」

くん、と指先が曲がって口内に長い指先が潜り込む。指の腹に牙を当てて顎に力を入れれば舌先に乗る血液。指先を吸って血液を飲んでいると指の舌の腹や奥歯を優しく撫でて上顎を擽られる。ゾクゾクと背筋が震えて鼻に掛かる息が漏れればキバナが上機嫌に笑う。おいしい?と甘ったるく、情事と同様の声音で耳元に吹き込まれると思考が鈍る。擦り合わせそうになる膝を堪えて頷きで返せば小さな傷口を広げるように、私の牙に指を押し当ててまた血液が咥内へと滲む。キバナはとても健康的な食生活と睡眠時間、また非喫煙者ということもあってとても良質な血をしているから少しの量で私はお腹いっぱいになるのに。


「ン、もぉ、へぇき…。」
「もーちょいな、細っこいんだから。」
「ゔー…。」

指を舌に乗せたままじゃ上手く発音出来ないが、満腹であるということは伝えたが最近は許してくれない。塗り広げるように舌腹へ傷口を押し付けられる。満腹感があるのに与えられる食事にじわじわと涙が滲んで来た頃、漸く指が引き抜かれてキバナが私の目尻に口付けを落とす。私の唾液が残る指をキバナの舌が拭い、そのまま優しく口付けが与えられる。今はヤダ、口の中が敏感になっていて少しの刺激でもゾクゾクするのに。でもそんなの許してくれなくて、ちょっとの抵抗は無駄だとばかりに舌が潜り込んで来て歯列や動きの鈍い舌、上顎を丁寧に舐められる。逃げられないようにしっかりと抱え込まれた体じゃどうにもなりゃしないのだ。私がユカリのように…というか、同族と同じだけのパワーがあればなんとかなったかもしれないけど私は欠陥品なのでそこらの人間以下しかない。わざと水音を立てて続く口付けに頭の奥がじんわりと痺れた頃、漸く解放されて肩で息をする。


「フフッ、かーわい。」
「意地悪だ……。」
「嫌いじゃないだろ?」

もう一度目尻に唇が掠められて涙を拭われ、胸元に寄り掛かる。お腹もいっぱいだし、体力削られたしでぐったりの私に上機嫌だ。不満を訴えるように小さく唸っていたが、ユカリたちどうなったのか。さっきから派手な音はしないけど。視線を向ければダンデさんがユカリの髪を掴んでいるシーンだった、今日も今日とて最高に治安悪い。ユカリはユカリでなんともいえない…悔しさと悦をぐちゃぐちゃに混ぜたような顔をしていた。


彼らと出会ったばかりの頃はユカリも髪が長かったのに何度目かの殺し合いの結果、バッサリと切られてしまった。私はユカリのふわふわの髪が好きだったから凄く悲しかったけれど、二人の中で勝った方が命以外は好きにしていいという約束があるから文句の一つも言えやしなくて、二人になった時にざっくばらんに切られた髪を私が整えた。勿論、美容院に行くべきなんだろうけどこんな血みどろじゃどこにも行けやしない。美容院どころか病院送りになるし、そんなことになったら私達に助けなんて来ないから。

「失敗したくないなぁ。」
「大丈夫だって!髪なんてすぐ伸びるからね!」

しゃき、しゃき…とハサミを動かす音だけが響く。ざっくばらんとはいえある程度長さを残してくれたくれたおかげで一番短いところに合わせても肩に付くか付かないか程度にすることが出来そうで肩を撫で下ろす。ついでにツーブロックの手入れもして終わったよ、と声を掛ければ瘡蓋を剥がそうとしていたので後頭部を叩いておいた。妙に静かだと思ったら、おまえは…。

「サンキュー、けいちん。」
「…好みなのはわかるけど、いいのかねぇ。」
「えー、だって殺されるならあの人がいい。」
「……そっかぁ。」

廃材の上に腰掛けたユカリの足元に座り込んで膝に頭を乗せる。あの頃の変わらず、犬猫みたいにぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜられて「なになに〜」といつもの調子。ユカリが死んだその時って、私に残るのは生き地獄だ。他のエクソシストや人間に捕まってオモチャにされるか、施設に捩じ込まれて好き勝手されるか。わかっている、同族はもう数が少ない。殺すのではなくより有意義に使うだろうというのはもう分かっている。ずっとユカリに守ってもらっていたからこうして平和に過ごせてきたけれど、きっとそれはきっともう長くは続かない。あの人に殺されるのがユカリの願いで、それを邪魔したくはない。あの怖い人と一緒にいる背の高いあの人、あの人もエクソシストだったな。あの人ならしんどい思いしないで殺してくれるかも。

「なんだよぅ、相棒。センチメンタルか?」
「……べっつにぃ。」
「ワハハ!あまえんぼー!」
「っちょ、髪!絡む!」

ぐっしゃぐしゃにされて、二人で顔を合わせて笑う。こんな日がいつまで続くのかわからない。でも、ユカリとはずっと一緒に居たから死ぬ時は私も一緒に死にたい。頑丈ではないけど中々死ねない体質ではあるが、相手がエクソシストならそんなの関係ないはずだから。次、あの人に会う時に頼んでみよう。まあ、初対面でもう言ったけど改めてね。冗談だと思われたくないし。

「けいちん?」
「ん?」
「腹減ってんべ、顔色悪い。」
「私の顔色はいつも悪いけど…。」
「いーから、ほら。食わないよりはマシだから。」

これは聞いてもらえないな、と服を捲り上げたユカリの前腕をぱくりと咥えて牙をたて少しだけ血を貰う。吸血鬼同士でも一応空腹感は紛れるから。元々そんなに吸血しなくても生きていけるけど、流石に一週間以上摂ってなかったのは不味かったらしい。少しだけ貰ってお礼を言えば相変わらずの少食だなんだと言われたが次はいつ遊びに行くの?と尋ねればアッサリとそっちの話題に移ってくれた。


「ユカリが死ぬ時、私のこと殺して欲しいんです。」
「急にだねぇ…オレさまのこと避けてると思ってたら、突然?」
「ユカリがあの人に殺されたいのは変わらなくて、その願いも邪魔したくない。でも私は一人でじゃ生きていけないから一緒にと思って。」
「なるほどね。」
「私みたいな欠陥品でも、多分持っていけば多少の利益はあると思うので。」
「考えておくよ。」



なんて話をしていたっけ。それからどれだけの月日が経ったかは前述通り覚えていないが、あの頃に比べたら随分と関係が変わった。私は殺して欲しいと頼み込んだ相手、キバナと付き合っている。ダンデさんとユカリは…両片思い、とでも言えばいいのか。名前のない関係、というのが私の中ではしっくり来てるけど。相変わらず私の唇を撫でる指先にムズムズして下から咎めるように見上げるけど笑顔で一蹴された。つ、と私の背を支えていた手が滑って太腿を撫でられ大きく肩を弾ませると彼は上機嫌に笑って唇を舌で濡らす。ああ、捕食者の瞳だ。たべて、と言いたくなるけれどダンデさんもユカリもいるので飲み込む。

「ケイって分かりやすいよな。」
「そう?」
「うん、食べてーって顔してる。」
「してないよ。ご飯はキバナでしょ。」
「なぁに、まだ食べ足りない?」
「や!これ以上はお腹いっぱいで死んじゃう!」
「……もう少しだけ、死んでみねぇ?」

つい、と滑り込んだ指が牙に軽く触れて尖りを確かめるように撫でるからぎゅうっと爪先を丸めて眉根を寄せヤダヤダと視線で訴える。キバナはそれを甘やかな瞳を揺らし傷を付けようと力を込めた、瞬間。
すぐそばに何かがすごい勢いで飛んで来てキバナが片腕で私を抱きしめてジッとそちらを見つめる。どっちが、もしくはあの二人の殺し合いに飛び入り参加しようとしたバカか?と思って腕の中から覗けば鮮やかな紫が揺れて、誰が飛んで来たのか理解した。彼は口角を吊り上げ目をギラギラと輝かせ、なんなら薄く頬を染めたまま鼻血を乱暴に手の甲で拭った。その時に香る匂いが腹の奥に溜まるような、ずっしりと重くて甘い匂いに思わず両手で鼻と口元を覆い隠す。これ、ずっと嗅いでたらダメな匂いだ。吸血鬼が寄ってきそうな、そんな匂い。強い匂いはそれだけ同族の鼻にも届くから。私は胸焼けしそうだと思うけど、こういうのが食べてる感じがして好きだというのも少なくはない。ユカリの瞳が揺れて、明らかに食欲を刺激されている。止めたいが止めたら怒られるし、と思っていたら体が浮遊感を覚えて思わず大きな体に縋るように抱き着く。

「ケイ、一旦離れるぞ。」
「え、でも…。」
「それとも、あの二人の胸焼けしそうなセックスを此処から見てる?」
「……離れます…。」


興奮した人間の血液は濃くて、甘い。人間でいうところのカロリーが高いってやつ。濃いとは言ったが単純な濃度ではなく、なんというか…言語化が難しいけれど。兎も角人によっては最上級に美味しいと思う味なのだ。私には重くて食べられる気がしないけど。キバナの腕に抱かれたまま移動し始めて、扉を締める直前で少しだけ覗き込んだ。ユカリの髪を掴んだまま、溢れた鼻血を舌で拭うダンデさんを見た瞬間に目を逸らしてキバナの胸元に顔を埋めた。あれは、確かに、うーん。あの二人のスイッチはよくわからない。

部屋に通されてベッドに一度降ろされる。片膝を着いて私の靴を脱がせて揃えて置いたキバナがベッドに上がってくると同時にハタ、と気がつく。あれ?私もしかして、と思った途端に大きな掌が頬を包み親指がまた唇を撫でる。最近ずっとキバナが私の唇を撫で続けているからか、それだけでぞわっとしてしまう。

「あーん、は?」
「えぅ…。」
「ん、よく出来ました。」

咥内へと差し込まれた人差し指がくるりと反転して指の腹で上顎を擽って、もうダメだった。給餌の際の口腔内開発がいつのまにか完了したのかもうお腹の奥が疼いて仕方ない。はぷ、と唇で柔く食んで捕らえてもキバナは怒る様子すらなく、寧ろ私が何をするのか楽しみだと言わんばかりの顔で見ている。吸血中のように指先を甘く吸って舌を這わせていると、なんだかコレが奉仕のようだと気が付いてしまったが。キバナの指がまた咥内を探って頬の内側まで丁寧に触れて行き、爪先で軽く牙を引っ掻く。溢れる唾液を飲み込みたいのにそれを許して貰えないから、口の端から溢れた。

「きぁな、も、らめっれ…!」
「えー?飯食ってる時にいつもしてることじゃん。オレさまの指、ちゅうちゅう吸ってさ。な、上手にぺろぺろ出来るだろ?」
「…ッ、ンく……ふ、ぅ」
「ん、じょおず。」

まるで犬猫扱いだ。漸く指が引き抜かれたと思ったらころりと後ろに倒されて片足を抱え上げられ肩へ乗せられてしまえばもう何をするか、何をされるのかなんてわかってしまう。私の唾液で濡れた指先が下着越しに一度撫でて、的確過ぎるほどの手つきで布を一枚挟んで陰核に触れて柔く転がされる。びくん、と腰が跳ねて短い嬌声が漏れたらキバナは楽しそうに笑う。突いたり転がしたり、爪先で引っ掻いたり。気持ちいいけど、物足りないような刺激。はふはふと浅く呼吸を繰り返していればキバナが私の脹脛に八重歯を押し当ててる。痛くはないけど、でも興奮してしまう。腹の奥がぐずぐずになっている自覚はあるが、この気持ちよさの逃し方がわからない。

「ゃ、キバ、ナぁ、」
「足りない?もっと?」
「〜ッ、もっと、ぉ」
「うん、いいよ。」

片手で器用に下着を脱がされて酷く情けないことになっているであろうその場所が晒される。恥ずかしい、でも興奮してしまっているのも事実でゆらゆらと腰を揺らすことしか出来ない。キバナはそんな私を見るばかりでなにもしてくれなくて、焦ったい。もっとって、言ったのに。いいよって、言ってくれたのに。

「ナカとソト、どっちがいい?」
「……ゔ〜…。」
「ほら、ケイ。教えて?」

ソト、のが分かりやすい。直接的だもの。そこを指先で転がされたり押し潰されたり、舐められる、のも…気持ちよくて好き。でも最近少しずつ快感を拾うようになってきたナカは、時間と手間は掛かれど最後に与えられるものがずっとずっと気持ちいい。ぐるぐる考えていたらじんわりと涙の膜が張って頬を伝う。

「あーあ、泣かないの。」
「だって、わかんな、」
「好きな方教えてくれたらいいのに。」
「どっちも、キバナがしてくれるなら、気持ちいい…っ」
「へえ?じゃあ、どっちもってこと?」
「へ?……ッあ、まって、キバナ、だめ…!」

意地悪く笑った彼の肩から脚を降ろされて綺麗な顔がグズグズになったソコに触れる。下の、入り口のところから陰核まで薄くて長い舌が這うと目の前がチカチカして大きく声を上げてしまう。混乱したままの私を知らないとばかりにキバナの舌が陰核を捕らえ舌で転がし気紛れに吸い上げられ、舌の腹を押し付けるようにして舐め上げられるだけでもうパンクしそうなのに長い節だった指がくぷん、と難なく膣内へと潜り、手前のザラついたところや、少し奥の私がグズグズになってしまう場所に触れる。

「ひっ、きゃう…ッう〜、や、やぁ、ってぇ、」
「らんれ?きもちーんらろ?」
「そこで喋っちゃやだって、ッあ!やら、やだぁ!」

陰核を唇で挟み強く吸い上げられて目の前がチカチカする。なのに、それだけじゃ終わらない。敏感になったソレをキャンディみたいに舐めて転がされて。その間にも指はそれがどこなのかもわからないような、それでも私がすぐにダメになっちゃう場所を刺激してくる。やだとかだめとか、そんな言葉だけが漏れる。殆どは嬌声に負けてしまったような気もするけれど。何の意味もなさない音を零していればピンと陰核を弾かれ、奥まで届く指先がグイグイと押して来て目の前が広く弾けて大きな声が出て、大きく背を反らす。どっちでイったのかわからない、わからないけれど、今動かされたら絶対にマズイ。警告音が頭の中で鳴って、全く力が入らないなりに手を伸ばしてくしゃりと彼の頭を押し除けようとする。髪を撫でているような力ではあったが、今はこれが精一杯。

「ひぅ、ぅ〜、も、だめ、イったの、イったから、しないで、…ッア!ァア、あ…らめ、らめって…!やぁ、むい、きぁな、ッ、」
「もう一本は入るようにならねぇと、オレさまの入らないだろぉ?」
「っいる、も、はいるか、らぁ…っ、」
「慣れて来たとはいえケイちっこいんだから無理だよ。ほら、もうちょっと頑張ろうな?」
「ぃ、ッう、やら、もぉ…ひとりで、きもちいのやだぁ、っ、」
「可愛いなぁ、ほら、ちゅーしよ?」

ふにりと重なった厚めの唇に安堵を覚えた、のに、するりと滑り込んだ舌先に目を見開く。だめ、だめだよ。案の定尖らせた舌先が上顎を撫でた瞬間に下腹部に溜まった熱が弾ける。先程の爆発的なものではなく、じわじわと蝕むような絶頂に怖くなって身を捩り片手を振り上げたがキバナの左手一つで纏めて掴まれてしまう。咥内を荒らされる度にビクビクと体が弾む。何度あの絶頂を迎えたのかもうわからないけれど、漸く唇が離れた。緩んだ口端溢れた唾液をキバナが舐め取り、そうしてアクアブルーの目線が交わる。優しい、顔。

「おかし、もぉ、こんな…っ、」
「なにが可笑しい?オレさまにも教えて?」
「こんな、こん…っ、キスしただけなのに、…私の体、変になっちゃ、」
「フフッ、可愛いなァ。オレさまがそうしただけだから、ケイはなぁんも悪くないよ。」
「ひぐ、っう……ほん、と?」
「本当。オレさまがケイに教えたことだから、可笑しくも悪くもないぜ?」

泣かないで、と腕を纏めていた手を解かれ抱き締められると安堵が押し寄せる。落ち着き始めた頭で先ほどの言葉を思い出す。可笑しくも悪くも、ないんだ。キバナが、しただけ?それってどういうことだろう?まだふわふわしていてわからないや。でも、悪いことじゃないって分かったから、いい。


「ね、入れていい?」
「……うん、ちょーだい。」
「あげる。」

キバナの片腕が私の腰を支えて浮かし、隙間に膝が入り込んでくる。そのままひたりと押し当てられると、期待と恐怖でいつもそわそわしちゃう。気持ちいいのは分かってるんだけど、大きいから怖くなってしまう。だって、これ…

「一番奥まで入れたらさ、ココまで触れそ。」
「ッ!」
「想像した?じゃあ、試してみよっか。」
「〜ぁ、」

わざとココまで、と言ったところで掴む。ズブズブと少しずつ押し込まれる陰茎が大きくて詰まる息を意図して吐き出しながらシーツを握り込む。わざとらしく弱い場所を擦り上げたりと意地悪を繰り返しながら漸くキバナの腰が止まる。おなかいっぱい、だ。隙間なく埋まったソレを腹越しに撫でてぼんやりしていたら脇腹を掴んだキバナが軽くその手を揺らす。


「ど?ここまで入ってる?」
「わか、んない、」
「今どの辺?」
「う〜…この、へん?」

お腹をさすって、多分この辺りだと判断する。キバナの手には届いてない気がする。否、そこまで入ってしまったら私のお腹壊れちゃうか破れちゃうかすると思うけど。

「んー、じゃあ、届くかもな。」
「……へ?」
「オレさまの、まだ全部じゃないし。」

ニッコリと、この場で不釣り合いなくらい無邪気に笑う。そんなことよりまだ全部じゃない、って。無理だよ、これ以上どこにも隙間なんかない。ふるふるも首を左右に振っても膝裏を持ち上げられてしまえばもう抵抗のしようがない。まって、むり、むりだよ、そんなことを言った気がするけれどキバナは笑うだけでそのまま、一気に押し込まれて息が詰まる。とてもじゃないが可愛い声なんて一つも出なかった。目の前がチカチカする、絶頂した時というよりは頭を強く打ちつけた時に似ている。

「ッは、ぁ……っあ、?」
「ぜーんぶ入ったぜ?」
「おなか、いっぱ、」
「よーしよし、ほら。」

上から覆うように抱き締められてふわりとキバナの香りに包まれ、反射的にと言えば良いのか本能的にと言えばいいのか、首筋で柔く歯を押し当ててしまう。甘噛みしてるだけなのに満たされる感覚があって、無意識に込めた力が緩んだ。キバナは意地悪するけど、無理に動いたりはしなくて…こうして落ち着くのを待ってくれる。だから痛い思いはしたことがない。勿論、ハジメテは除くが。甘噛みしたり色の濃い肌を吸ったりをしている間に思考も少しクリアになったから、細い腰へと脚を巻きつけて密着する。

「ん…キバナ、」
「落ち着いた?」
「も、平気。」
「じゃあ動くな?」

キバナが上体を起こして、それを惚けたように見ていたらぱら、と彼の髪が落ちるのが視界に入って息を詰める。あ、だめだ。見ちゃいけないやつだった。いつも綺麗に纏められた髪が無造作に解かれるのは、そういう時だけ。ぎゅうと胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えて溜まった熱を逃がそうと細く息を吐く。そんな私を見てまた笑って、細かく揺すられる。苦しいのに気持ちいい、頭がふわふわする。訳がわからなくなって、そうして目の前の男のことしか考えられなくなる。

「ッあ、ぁ…ンン、」
「声出しても聞こえねぇって、ダンデたちもソレどころじゃないだろうし?」
「ばか、いじわる…っ、アッ!」

大きな体に縋り付いて首筋に顔を埋めると彼の匂いがしてもうダメだ。声を無理に抑えようとしたって咎められるが、こうして縋った際に篭る声は許して貰えるからと肩に顔を擦り寄せるけどキバナの匂いが濃くてやっぱり頭がクラクラするだけ。大きく揺さぶられて嬌声を上げることしか出来ない。

「なぁ、今飲んだらどうなんの?」
「ひ、やだ、ッ、ンぅ、」
「フフッ、その顔も可愛いなぁ。」
「あ、ぁ…ッあ、だめ、そこやだぁ、ッ、」
「ダメだろ?ちゃんと教えて。」
「おかしくな、っる、や、も…きもちいの、やだ、ァ、」
「ケーイ?」
「ッ、ひ!」

耳殻にキバナの八重歯が食い込んで情けない声を上げれば機嫌良く、奥まで押し込まれる。喉が引き攣って彼自慢のスーツを引っ掻いていれば動きが大きくなってもう馬鹿みたいに喘ぐことしか出来ない。

「も、むり、ッねぇ、やだ、や、」
「いいよ。」
「ひぅ、ッあ、〜ッ!」

びくん、と大きく体が弾んで背が丸まる。ぎゅうと彼を締め付けて詰めた息を吐き出す、キバナは意地悪く笑って敏感になった肉壁を擦り上げてくる。やだ、と譫言のように繰り返す私の頬を優しく撫でて海の色を甘く蕩けさせる彼は、愛しさを滲ませて笑う。

「オレさま、まだだぜ?」
「むり、もぉむり、…しんじゃう、キバナ、」
「うん。もう少しだけ、…二人で死んじゃおっか?」

言葉よりも先に反応した私の胎に笑って、また快楽の沼へと落とされる。過ぎた快感に泣き噦る私を、やっぱり彼は愛おしそうに双眸を細めて見ていた。



「怒ってんの?」
「…怒ってない。」
「フフッ、ごめんごめん。」

どれだけの時間が経過したのかわからないけれど、好き勝手揺さぶられて色々恥ずかしいことも言わされたりして、漸く解放された時にはもう指一本動かすのも億劫で。ベッドヘッドへと寄り掛かるキバナの膝上に乗せられ頬や鼻先に口付けが落とされるのを唸りながら受けている。言いたいことは山程あるけど、騒ぐ元気もない。大きな体に凭れ掛かりぼんやりしているとキバナがまた唇へと触れる。

「ンン……すぐそこ触る…。」
「なぁんか癖になるんだよな。」
「それだけじゃないでしょうが…。」
「バレてた。」
「何がしたいのかはわかんないけど。」
「…教えてんの、今からセックスするぞって。ココ触られたらきもちーのが待ってるよってさ。」


変なことしないで、最近何か口に含むだけでゾワゾワするんだぞ。そんな風に思ったけどほぼ調教終了と言っていいほどに教え込まれた後じゃ抵抗しようがない。口篭る私を見て悪戯っぽく笑ってまた指が口の中に滑り込んで、牙を撫でる。

「他で飯食おうとしても、オレさまを思い出して食えなくなるだろ?」
「やっぱ、意地悪だ。」

口の中にある手を滑らせて顎を掬われ唇が重なる。触れる程度の口付けにやっぱり頭が痺れる感覚がして、もう一生この男から離れることが出来ないのだと自覚すれば心臓がきゅうと動く。指を絡めて繋ぐと残された噛み跡を確かめるように撫でる指先が首にかかるのを想像して瞼を伏せた。

愛しい男、牙を隠す竜よ。いつか私の首にその牙を立てて、残さず食べて。




【おまけ】


「やはり、キミと殺し合う遊ぶのが一番楽しいな。」
「そりゃ、ドーモ?」

肩で息をしながら首を踏み付けると彼女が小さく喘ぐ。背筋を駆け巡る刺激に自然と笑みが溢れると喉が跳ねるのを革靴越しになんとなく感じる。もう少し力を入れたらどうなるのだろう、その辺の人間なら死ぬだろうが彼女なら…好奇心が疼く。ぐ、と力を入れれば彼女の両腕がオレの脚を掴んで握り込まれ、痛みを感じるがそれくらいで止まるオレではない。知っているだろうに。最後に踏み付けるように力を入れて彼女の腕が解けたのを確認すれば満足感が胸を締めた。

「ッは、」
「今日はオレの勝ちだな。」
「本当に人間?……うえ、ちょ、っ!」

足を退けて彼女の上に座り込む。潰れた小動物のような声を上げたが、まあ、良いだろう。死んではいないのだからコレも許されることだ。オレの顔を見ている彼女の瞳は揺れて、その光景が好きだった。勝者に与えられた特権はオレたちの気分次第だからなにが飛び出すのかわからないと思考を巡らせ覚悟を決めようとする、それでも負けを認めたくないと滲むその瞳が、好きだ。オレのことだけを考えている証明だろう?

「今日は何をして遊ぶか。」
「重い、ねえ、ちょっと…ゔっ、」
「敗者に発言権はないぜ。」


黙った彼女を見届け、そうして適当にナイフで腕を切る。しまった、今日のスーツは無事にしておけとキバナに言われたんだった…まあいいか。服なんてこだわりないしな。傷口から垂れる血液を彼女の顔に落とせば、はく、と口が動く。暫く食事らしい食事をしていなかったんだろう。少なくとも、オレは雀の涙ほどしか与えていない。

「飲んで良い。」
「どういう、風の吹き回し?」
「良いから飲め。」

面倒になって腕を押し付けると困惑したままではあるが、こくんと喉が動いた。一口含んでしまえば吹っ切れたのか傷口に舌を這わせて舐め取る。ピリッとした地味な痛みはあるが、そんなことよりもさっきまでオレを殺そうとギラギラしていた彼女がオレの腕に吸い付く視覚効果が勝る。気分が良い、とはこのことだろう。吊り上がる口角は止められそうもないが、我慢する必要もない。

「ン゛ッ!」
「なんだ、もういらないのか?」

腕を退けるとオレの血で汚れた口元が自然と目に入る。袖口でなんとなく拭ってやると痛い…と聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。彼女の体に預けていた体重を退けて立ち上がりそのまま下へと移動し、彼女の足首を持ち上げると酷く情けない声を上げた。


「腹が満ちたなら次は、だろう。」
「アー…そういう…おァア!」

そういえばキバナたちは、と思ったが何処にもいない。こうなることを見越してさっさと別室に移ったのだろう。今頃彼女の親友はオレの相棒に泣かされている頃か。ベッドのある部屋まで連れて行くのが酷く手間に思えてそのまま彼女の服へと手を掛ける。まだキバナたちが居ると思っている彼女が待ってくれと繰り返していたが、敗者に発言権はないと言ったことをもう忘れたのか。まあ、いいか。泣き叫ぶ彼女も見てみたい、色んな表情を見せてくれ。そして、おまえを楽しませられるのは、殺せるのはオレだけだとさっさと気が付けばいい。乾いた唇を舌で濡らし、騒ぐ彼女の口へと掌を押し付けた。