03

週末。
テキトーなジャージを着て、自転車のかごに参考書入りのバックを打ち込み学校に向かう。

先日菅原から、校内の図書室で行なうという旨の連絡が来た。
珍しくシンと静かな廊下を抜け、階段を最上階まで上がると、技術室が集まる一番奥に図書室はある。

接触の良くないクリーム色のドアを開けると、図書室の端っこに陣取る黒い集団が目に入った。
あそこか。

「ごめん、遅くなった」

バタバタと空いている席に、バッグを乗せる。

「まだ時間じゃなかったし、休みなのにごめん」
申し訳なさそうに話す清水に首を振る。
「大丈夫、大丈夫」
「町田、悪いな、休みなのに」
「いいよ、別に私も勉強するつもりだったし。」

バレー部のいつものメンツが集まり、教科書を開きすでに勉強会は始まっていたようだ。
清水の隣に腰を下ろすと、持ってきた参考書とノートを机の上に置いた。

そうして始まった勉強会は、各々が静かにワークやプリントを解く時間が過ぎていった。しんと静かになり、下を向く姿を眺めながら、ふと視線を上げると、目の前に座っていた東峰とバチッと目があった。

目を丸くした彼は、どこか申し訳なさそうに、「あのさ、」と話し出す。


「ん?」
「これなんだけどさ」

そう言って東峰が出したのは小テスト。そう言えば、最近やったわ。直近のやつだし、ここからテストに出る確率も高いものだ。

そう言って指差した問題は、幸運にも正解した問題で、そして、先日復習したばかりのものだった。

「あー、これはね」
そう話し出すと、東峰の隣にいた菅原も手を止めて乗り出してきた。

「あ、これ俺もはずしたわー」
「これは、たぶんこの公式を使って解けるよ。」

ーこれをこうして、ここに足して…

「町田って数学ほんとに得意だよなー」

身を乗り出して聞いていた菅原が感心したようにいう。そんな彼に「だな」と東峰が頷く。

「先生に聞くより分かりやすいわ」
「確かに。」
「いやいや。」

そう思っても、褒められて気分を害する人なんていないだろう。ちょっとだけ嬉しかった。

その後も、勉強会は続き教えたり、教えてもらったりとしているうちに、いつの間にか外も薄暗くなり始めていた。






「いやー、マジ助かった!
俺数学マジでやばくてさー。」

学校下の坂を並んで降りながら、隣でえへへっと屈託なく笑う菅原のこの笑顔に、小さくため息をついた。
彼特有の人当たりの良さと、穏やかな雰囲気に絆されてしまう自分に対しての。



それから2週間後。
期末テストも無事に終わり、川西もなんとか赤点は免れ、共に東京に行けることになった。

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