02

春の陽気というものは、どうしても人を眠りの世界へと誘いにやって来る。

くわっとあくびを噛み殺しながら、ぼんやりと武田先生の授業を聞く。と見せかけて、実は半分も頭には入ってはいなかっただろう。
つか、武ちゃんの授業マジ子守唄。

お昼休みになっても子守唄は効果は抜群で、どうも食欲が湧いてこない。
強すぎる。


「飯食うベー」
「飯って言うな、ご飯といえ。」
「私今日メロンパンー。」
「高カロリーおつ。」
「うるせい。」

友人たちの相変わらずのくだらない会話をBGMに、ぼんやりと窓の外を眺めていると、いきなり視界に現れた黄色と青のボール。
そして、そのボールを追った先で偶然見つけた男子二人組。


「え、なんであの子達外でバレーしてんの?」
「私もやりたい。」
「じゃあ、よっしーに借りてくっぺー。」

さて、なんでこいつらは、こんなところでバレーをしているのか。

べつに私には、彼らがどこでバレーをやろうが何か言う権利はないのだが、なぜ外なのか。
うちには、それなりに広い体育館があるしバレーをやりたかったら、そこでやればいいものを、彼らは何故ここで隠れるようにやっているのか。

ボンボン。とボールのぶつかる音を聞きながら、その背中を見つめているうちに、前に清水が教えてくれたことを思い出した。


あぁ。
こいつらが、澤村に怒られたって奴らか。馬鹿か。
あいつこえーんだかんな。
オレンジ色の髪をしたおチビちゃんと黒髪の目つきの悪い男子。

暑い中大変だなと思いつつ、どうせすぐ体育館で練習するだろうと思っていた。だけど、次の日もまた次の日も。朝、お昼休みの練習は続いた。

「懲りないよねぇ」
最近ずっと続いている2人だけの練習に、次第に飽き始めていた友人は、頬杖を向いて裏庭を見下ろしている。
「そうだね」

まだ澤村は許していないのだろう。そもそも澤村を怒らせるようなことって何?あいつ結構温厚な方だと思うけど。

「でもさー、あのちっちゃい方前より上手くなったよね」
「あぁそうだね」
「レシーブ上がるようになったし、まっ下手くそは下手くそだけど」

川西は、「それにあのデカイ方は、うまいけど見るからに協調性ないよな」と彼らを見ながらニヤリと笑った。

デカイ方、黒髪の先程から下手くそ下手くそと怒鳴りっぱなしの彼だ。どうやら教えるセンスもボキャブラリーも乏しいらしい。
さっきからずっと、「ヒナタボケ!」と怒ってる。

「でもあいつらバレー部なんでしょ?なんで体育館つかないの?」
「澤村を怒らせたらしいよ」

そういう時川西はブハッ!と吹き出した。

「バカだろ、あいつら。入学して早々部長を怒らずとか、凡人のやることじゃねーわ。」
「清水も呆れてた」
「あー、マネージャーも大変だねぇ」


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