03

「あ、肉まん食べたい」
「私ピザまん派だから。」
「……。」

誰のお前の好み聞いてねーよ、とじぃっと無言のまま視線を送れば、その顔は分かったと言うように数回頷く。


「後で坂ノ下商店いく?」
「いえーい、何町田のおごり?」
「んなわけあるか。」

はぁとため息をつく。まだ授業終わってねーからな。


授業、清掃と今日1日が終わり、川西の部活が終わるのを待って、意気揚々とまさに名前のごとく坂の下にある坂ノ下商店に向かう。

部活終わり、練習試合に行くとかで、弓と筒を背負ってきた川西は、腹減った腹減ったとおかしな歌を歌いながら、お腹をさすっている。


「こんちはー。」
「おじさん肉まん一つー!」
「私ピザまんー」
「私あんま「おじさんじゃねぇ!」
「遮んなし!」
「うるせぇ!騒ぐな!」


ゲラゲラ笑いながら坂ノ下商店の扉を開けると、いつものおにーさんと見慣れた顔が並んでいて、バチリと目が合ってしまった。


「菅原と澤村…と、誰?」
「あぁ、裏庭でバレーしてたやつ」
「指差すなよ」

ビシッとヒナタボケの男子を指差す川西の手を下ろし、澤村たちに近づいて行く。

「チワっす。」
「ちわーっす。」

中にいたのは、バレー部3年チームと裏庭組みの1人だった。

澤村と話をしていると言うことは、部のいざこざは解決されたらしい。
それは何よりだ。

「よー。」
「おーっす。」

手を挙げる2人に手を振り、菅原たちが座る隣のテーブルに、荷物を置いた。

肉まんとピザまんを買い、席に着くや否や川西が、興味津々にヒナタボケの後輩くんに話しかける。というか面白そうだ。

「今日はヒナタくんはいないの?」
「あぁ?いねーっす」
「あぁ?って何で先輩にメンチ切ってんの。」
「あ、いや…」

ニヤニヤしているところから見ると、からかう気満々らしい。あぁ、面倒臭くなった。こいつの相手は後輩くんに任せよう。こういう時は関わらないのが一番だ。


「菅原、今日清水は?」
「清水なら先に帰ったよ」
「ふーん」

久しぶりに話したかったけど、まっ仕方ないか。

「なぁなぁ澤村、こいつ協調性ないでしょ」
「え?」

初対面でこいつ呼ばわり。後輩だからって失礼極まりない。

後輩くんと話していたと思えば、いつのまにかこっちの輪に戻ってきていた川西は、後輩くんを指差しながらにっこりと笑う。
ツッコミどころは満載だけど、ここは黙って聞いているとしよう。興味はある。

「ま、まぁな…」

澤村と目を合わせた菅原もが、苦笑いを浮かべながら同意するあたり、彼は相当らしい。

「君名前は?」
「影山飛雄っす。」
「君さー、バレーは上手いけどねー。自分の理想を押し付けるあまり、周りに気づかない、的な。」

ヘラっと笑いながら、残りの肉まんを頬張る川西の言葉に、バレー部3人が黙り込んでしまった。

多分これは、今まさにこいつが彼らの地雷を踏んだからだろう。

当の本人はさも何もなかったかのように、「肉まんとうめー」と呑気に一つたいらげている。

「んじゃー、町田帰ろー」

言うだけ言って何もなかったかのように帰ろうとする川西のメンタルに、私は呆れてモノが言えない。
荒らすだけ荒らして、自分はさっさと帰るとか、本当にタチが悪い。

怖くて澤村と菅原が見れない。チラッと見て最低限を挨拶をすると、川西を引っ張って坂ノ下商店を逃げるように出た。


「川西、あんたわかってて言ったでしょ」
「まぁねー。聞いたことあるんだよねー」
「何が?」
「いやー、いとこがさ言ってた名前、カゲヤマトビオだった気がして、ちょっとカマかけて見た」
「カマかけて見たって、何に?」
「コート上の王様」
「王様?」
「そー、まさに独裁。スパイカー無視の天才セッターがいるってね。」
「それがさっきの影山君?」
「多分ねー」

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