02

「ごめんね、休みなのに手伝いさせちゃって。」
「ううん、いいの。久しぶりに清水と話せるし」

そう、ジャグが入ったカゴを持ち上げるながら、首を左右に振る。
清水が謝ることではない。

事の発端はあの男の一言からだった。

−清水がむさ苦しい男の中で働くの耐えられるのか?
−それは今に始まったことじゃないでしょ?
ーこの暑い中、清水1人で2チーム分の仕事をこなすなんて大変だと思わない?
ー確かに…
ー清水はきっとあぁ言う性格だから、誰かに話したりもできないだろうし
ー……。

はぁと態とらしくため息をついた菅原に、プチリと何かが外れた。

「結局何が言いたいの?」
「練習試合の日1日でいいからさ、清水の手伝いしてくれない?」
「は?」
「俺たちのことは慣れてても、相手さんのことは慣れてないし、それに加えて人数も増えるんだから、きっと大変だと思う。」
「私じゃないても良くない?」
「じゃ誰かいるのかよ、候補」
「菅原の方が交友広いじゃん、そっちで探してよ」
「探した結果、町田がいいと思ったんだよ!バレーのことよく知ってるし。」

な、頼む!とパチンと頭の手を合わせて頭を下げられても、本当に困る。

「1日だけでいいから!」


そう菅原に頭を下げられて、しぶしぶ了承すると、菅原は笑顔で「大地に伝えてくる!」と早々に教室を出て言った。

その背中を見送ると、私も席を立つ。
そして、 清水にそのことを伝えに行くと、とても驚かれた。

あの無表情クールビューティー清水が、目を丸くして驚きそして、「ありがとう、本当に助かる」と微笑んだのだ。それは近年稀に見るとても涼やかな笑顔。同性の私どもきゅんとしてしまう。

それを目の当たりにした私は思った、受けてよかった、と。

1日じゃ仕事がわからないという理由で、結局GW中バレー部にお世話になることになった私は、休みなのにヒッサビサに早起きをし、中学の時のジャージに身を包むと、お馴染みとなった道を歩く羽目になったのだ。


「にしても、毎日こんなことやってんの?」

歩くたびにカゴが足に当たってかなり歩きにくい。それにこの量を一人で運ぶと慣れば、何度か往復する必要があると思う。

「え?」
「一人で全員分のボトル持って、タオル準備して」
「時々一年が手伝ってくれる、から。」
「それが許せないくせに」

そう言って笑うと、清水は驚いたように顔を上げた。

彼女の中で葛藤があるのはなんとなくわかっていた。顔に出ないし仕草も何も変わらない彼女が、一年生に手伝ってもらう時だけ、少し表情を歪ませる。
運べないわけではないけど、なんども往復すれば時間がかかるし、そうなると手伝ってもらわないと部全体に迷惑がかかる。きっとそう思って自分のプライドを押し殺してやって来たのだろう。人一倍責任感の強い彼女だから。

「もし本当に困った私に言って。かけつける、遠慮はしないこと。」
「うん、ありがとう。」

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