2戦2敗。たった2試合の練習試合は、烏野惨敗だった。
日向と影山の速攻で崩したまでは良かったけど、そこからじわりじわりと点数を取り返され、結果的に終わってみれば5点差がついての負けだった。
スパイクを打っても、コートに落とさなかった方が勝ち。そんなの当たれ前のことだけど、それが目に見えて感じた試合だった気がした。
それ程音駒のレシーブ力は強力だということだろう。
ストレッチが終わり、ネットを外し片付けが始まると、疲れたーとか、足重ーとか、いろんな声が聞こえてくる。
体育館のモップがけは両チーム部員に任せ、私と清水はスクイズとジャグを洗い、音駒の1年生とともにボールを袋に入れ、カゴをたたむ。
バスの下部にあるトランクに頭を突っ込んで、荷物を押し込んでいると、ふと背後から名前を呼ばれた。
「あの町田さん!」
「んー?」
よいしょっと、体をトランクから引き出し、振り返れば、音駒の一年生が立っていた。
「今日は本当にありがとうございました。」
「え?」
一際大きな声でそう言うと、ぺこりと頭を下げた。
「え、お?ど、どうした?」
「俺一年だからやっぱり準備とかやらなきゃいけなくて、ボール出しとかももう1人の一年と交換でやってたんです。でも、今日は町田さんにやってもらって…あの、すごくいい練習ができました。だから…」
本当にありがとうございました。もう一度お礼を言ってペコっと礼をした芝山君に、慌てて自分と礼を返した。
こんなふうに真っ直ぐお礼を言われるなんて、今までなかったせいで、ポカンのしたまま咄嗟に何か返すことができなかった。
こういうの慣れてないから、ほんとどうすればいいかわかんないわ。
ヘヘッと少し照れだような嬉しそうな笑みを浮かべた芝山君の頭を、思わず撫でてしまった。
ほら、つい母性というか、この子の可愛さというか…。
烏野一年にはない素直さというか。
「え?」と目を丸くして驚いた表情を浮かべた彼に構わず、グシャグシャと頭を撫でる。
「インターハイ、頑張れよ!」
「は、はいっ!」
ヘヘッと笑った芝山君は、「じゃ俺中手伝ってきます!」と少し照れた表情を浮かべながら体育館に走る姿を見送った。
その背中を眺めながら、つい口が緩む。
なんだろうちっちゃくて、日向とはまた違った可愛さが…くっ。
「ちょっとー、うちの一年にちょっかい出さないですださーいっ」
驚いて振り返れば、いつの間にか赤いジャージに身を包んた黒尾が、ニヤリと笑って立っていた。
「…黒尾、いつからそこに」
ふざけるのは髪型だけにしろ。
「芝山のありがとうございました、からかな。」
‥初めからじゃねーか。
ニヤニヤと相変わらず嫌味な笑みを浮かべる彼をひと睨みすると、まだコンクリートに置きっぱなしのボールケースを全てトランクに投げ入れた。
そして、バスに寄りかかってこっちを見ていた黒尾と、なんとなく体育館並んで歩き出す。
「体育館は片付け終わりそう?」
「あぁ、だいたいな。」
なら、そろそろ終わりかー。疲れたなー。
両手を組んで前に伸ばすと、疲労した筋肉が少しほぐれたような気がした。
「つか臨時なんだって、澤村に聞いた」
「え?…あぁ、まぁ。」
「もう、やんねーの?マネ」
「あー、多分ね。清水のことだから、後任を探してるだろうし。」
「あのさ」
突然黒尾が歩みを止めたことにつられて、少し後ろにいる黒尾を振り返った。
「ん?」
「RINE教えて欲しいん、だけど…」
「…え?」
すると、小さくすっと息を吸った黒尾は、どこか気まずそうに首の後ろをかきながら、少し俯き気味に言った。
「もしかしたら今日が最後かもしれねーし、…それが嫌っつーか…もう少し話したい、町田と。だから、嫌じゃなかったら連絡先とか交換してほしいんだけど…」
「ダメか?」と、少し不安げに私を見下ろす目をじっと見つめる。
なんというか、黒尾はもっとチャラチャラしてるやつだと思ってたけど、いや実際いつもしてるけど。
今目の前にいるこいつからは、そんなこと微塵も感じられなくて、告白でもなんでもない、ただ友達としての普通の会話のはずなのに、そのギャップに只々固まってしまった。
「町田?」
「あ、う、うん。」
「いいの?」
「うん。」
「普通にRINEも電話もするけど」
「うん、大丈夫。」
なんだよ大丈夫って。柄にもなく焦ってしまった自分に悪態をつきながら、ポケットからスマホを取り出しす。
連絡先を交換すれば、友達欄に黒尾の名前が登録された。なんだか少し不思議な気持ちになりながらも、少し嬉しくてつい頬が緩んだ。