*メンテ大延長で翌日まで本丸に戻れなくなったネタ(いわゆる“刀剣男士に会えない初めての夜”)注意・少しいやらしい
「同士ッ!!主がお戻りにならないとは一体どういう事だ!?状況を報告しろ!怠慢は許さんぞ!?」
この日,審神者は政府の施設で行われる研修に参加するため本丸を空けていた。
本来ならば夕方には戻って皆と一緒に夕餉を取り,いつも通り目を血走らせて徹夜で仕事をしていただろう。ところが,待てど暮らせど彼女は戻って来ない。
連絡を取ろうにも通信網が完全に遮断され,安否を確認することすら叶わなかった。
政府の施設で何か事件に巻き込まれたのでは。緊張が一気に高まる中,疲労困憊状態のこんのすけが駆け込んできた。
「政府の回線が全て遮断され,政府の施設と各本丸を繋ぐ経路も絶たれてしまいました!回線の更新作業の遅延が原因のようです。
更新作業が終了するまで,審神者様を始め,研修に参加された審神者全員は政府の宿舎にお泊まり頂きます。」
夕餉の後は必ず晩酌を始める男士達だが,この日ばかりは一滴も飲まずに彼女の帰りを待ち侘びていた。あの一口を除いては。
タフな社畜管狐のこんのすけがヘロヘロになっているくらいなのだから,政府内はさぞ混乱しているのだろう。
鋭い殺気を放ったままの長谷部は油揚げにかぶりつくこんのすけに詰め寄った。
「政府内の様子は!?主はご無事なのだろうな!?」
「本丸に戻れないことで気が動転した審神者達が,泣き叫んだり政府職員を取り囲んだりして阿鼻叫喚。
惨たらしい地獄のようでございます。そんな中,審神者様は・・審神者様だけはッ!」
「理性を失った野獣共と一つ屋根の下など,純真無垢な乙女であらせる主は息をするのもお辛いだろうに・・・!
主が一体どうなされたというのだ!?」
政府施設に缶詰にされて冷静さを失った審神者達が暴動を起こしているらしい。それはそうだ。
今日の研修は審神者が単独で参加することを義務付けられており,有事が起きても自分の身を守ってくれる男士がいないばかりか,
連絡を取ることすら出来ない状態なのだから。 滝の様に流れる涙を油揚げで拭くこんのすけ。
長谷部は顔を真っ青にさせ,男士達にも緊張が走った。あの一口を除いては。
「『本来なら本丸に戻って,男士に遠征や出陣を命じてたのにそれが出来なくなった。
休業損害が生じているので補償しろ。』と,たったお一人で政府高官に対して労使交渉に挑まれ,一筆書かせる大成功を収めました!
流石は物言う社畜!ワタクシは鼻高々でございますっ!」
「主〜〜ッ!地獄に垂らされる蜘蛛の糸をご自分で紡ぎ出すとは!何とご立派な・・・」
「金勘定が出来ているということは気力十分だな。」
大混乱のまっ只中にいる審神者達を尻目に,長谷部曰く純真無垢な乙女である彼女は政府から金を引っ張り出したらしい。
こんのすけと長谷部の社畜コンビが抱き合って号泣する中,あの一口が酒を飲みながら呑気な声を上げた。 この本丸,いや政府史上最悪のバグと名高い三日月宗近である。
皆がピリピリする中,彼だけは夕餉をペロリと平らげ,湯浴みもしっかり行い,晩酌まで始めてもう三合は空けただろうか。
圧倒的に緊張感のない男は,こんのすけ達の様子に何の関心も示さず手酌で酒を飲み続けた。
「驚くべき事に,有事の際にも仕事が出来るようにとご準備されていたのです!
その給料も政府に支払わせる確約を取り付け,本丸に戻るまで一睡もしないと鉢巻きを締めて宿泊施設で執務を開始されております!」
「主ィィィ!!!あぁ,今すぐ馳せ参じて栄養どりんくを飲ませて差し上げたいッ!!」
「徹夜が出来るということは体力も十分だな。」
有事の時も仕事が出来るよう準備する。確かに驚くべき社畜ぶりだが,それがこの本丸を統べる彼女の生き様。
異常事態の中にあっても,逞しく算盤を弾き社畜ぶりを発揮している。いつもと変わらぬ様子を聞けたことに安堵したのか,三日月以外の男士達も晩酌を開始した。
そんな中,肴である里芋の煮っ転がしを見つめていた三日月がこんのすけに問いかける。
「夕餉はどうした?政府が用意した物に口を付けていないだろう?あいつの舌に安物は合わんからな。」
「その通りです!政府が用意した弁当が不味すぎて,冷えた飯の上に乗ったかりかり梅しか食べられないと怒っておいでに。
燭台切様が持たせてくれた弁当を食べると仰ってました。」
「あぁ良かった。念のために持たせたんだよね。あの子,僕のモノじゃないと満足出来ない体だから。」
圧倒的夜感をお持ちの燭台切は,意味深な発言とともに挑発的な視線を三日月に送る。
これに対して,片眉を僅かに上げて応戦し膠着状態が続いたが,燭台切が笑いながら肩を竦めたことで決着が付いた。
一気に興味が失せた三日月は里芋の煮っ転がしに箸を付ける。肴に出せと強請って彼女に作らせた一品だ。
じじいなんだから詰まらせないよう食べる時は半分に割ってね。と言われたことを思い出す。
喧しい女だと思いつつも,言われた通りに箸で半分に割ってから口に入れた。出汁がきいた彼の好む味付けだった。
「あるじさまがおよめにいったりしんでしまったら,こんなふうにぼくたちはとりのこされるのでしょうか。」
いつもは我が儘の限りを尽くしやりたい放題の今剣も,今日ばかりは三日月に斬り掛かることもせず大人しかった。
彼がぼそりと呟いた一言に,賑やかさを取り戻しつつあった本丸が水を打ったように静まりかえる。
常に一緒にいるのが当たり前になっているが,彼女はこの本丸で唯一の人だ。伴侶を得て子を成していずれ死ぬ。
それが人の営み。どれだけ不死身の社畜だろうが死からは逃れることは出来ない。
「甘やかしすぎて男士を駄目にする審神者の主が奧さん?無理でしょ。主の頭の中には俺達への愛しかないじゃん。
金にうるさいのは俺達に贅沢させるため。仕事は・・・病気。」
加州がグラスの淵に指を滑らせる。彼女の姿を思い浮かべているのか,注がれたカシスオレンジと同じ色の瞳はどこまでも甘い。
死が丁寧に切り離された言葉を静かに聞いていた髭切は,ニィっと犬歯を覗かせると,大きな金色を三日月に向けた。
「ねぇ,三日月。・・・あの子は正しく死ねるの?」
正しい死。それは,彼女が寿命を迎えて死ぬことを意味する。つまり,髭切は,指を咥えて大人しく彼岸を渡らせるのかと三日月に問うているのだ。
互いに千年以上生きてきた付喪神。態と回りくどい物言いをして相手を試す老獪さも互いに熟知している。
三日月は心情を気取らせぬよう表情を一切変えずに口を開いた。
「・・・・・・俺に聞いてどうする。」
「これでも僕は君に遠慮しているんだけど?いらないならおくれよ。源氏の重宝のお嫁さんにしてずぅっと可愛がってあげる。
正しく死なせてあげることは出来ないけどね。」
大きな瞳をうっとりと細める柔らかな顔で歌うように言葉を紡いでいく髭切。だが,彼が物語る言葉はその美貌とは余りにもかけ離れていた。
人の子の命の行方を勝手に決めてしまう神の傲慢さ。だが,ここに彼を諫めるものは誰もいない。なぜなら,ここには神しかいないのだから。
「俺はそろそろ寝るぞ。一応近侍だからな,念のため執務室に詰める。お前らは明日,出陣も遠征も取りやめて待機だ。良いな?」
お猪口に残った酒をぐいっと飲み干した三日月は,連絡事項を手短に伝えて席を立った。横目で見た髭切の口が,“逃げるの?”と音を出さずに動く。
これ以上,読めない腹の探り合いをするのは鬱陶しい。気付かない振りをして無視した。
廊下に出ると,煌々と光る月が闇夜に浮かんでいた。今宵の月は三日月の瞳の打ち除けと同じ形。
月明かりを浴びた彼の打ち除けが,暗闇の中できらきらと光りながら浮かび上がる。夜風が蒼い髪を揺らした。
夜風に身を任せて己を見上げる麗人を,月は嫉妬してしまうだろう。
「はっはっは。正しい死か。可笑しくて腹が捩れそうだ。」
扇子を帯から引き抜いて,ぽんぽんと肩を叩く三日月の鷹揚とした笑い声。しんと水を打ったように静まりかえる廊下に響いた。
だが,ゆったりと月を見上げていたはずの彼の瞳は,針の様に鋭く氷の様に冷たい。
「くれてやるわけがないだろう。・・・俺のものだ。」
それは,審神者に正しい死を与えてはやらないという意味か。それとも髭切を始め,誰にも渡さないという意味か。
一つ言えるのは,審神者の行く末を決めるのは,この蒼き付喪神だということ。低く唸るように呟かれた神の言葉は今宵の月に吸い込まれていった。
「始めよう。」
三日月は審神者の執務室に入るなり,馴れた手付きで端末に電源を入れて立ち上げた。
平安生まれの付喪神だが,持ち前の向上心の高さで電子機器の扱いはお手の物。
ボタンを操作して出現させた目当ての画像に目を細めると,今度は酒の肴になりそうな物を求めて冷蔵庫を開けた。飲み直すつもりなのだ。
冷蔵庫の中央の段には三日月型の手作りプリンが2個並んでいた。置かれていた小さなメモ書きを手に取って読み上げる。
「“三日月へ。何となく作りました。食べたかったら食べても良いけど?”」
メモを読みあげた三日月は,里芋の煮っ転がしを要求した時に,万屋で固めのプリンが流行っていると何気なく呟いたのを思い出した。
それを聞いて作ったという事実を認めたくないのか,“何となく”とわざわざ書くところが彼女らしい。
この日近侍の三日月が冷蔵庫を漁ると見越して書き置きを残したようだ。
「恐るべき可愛げのなさだな。・・・まぁ良い,何となく食ってやるか。」
月を見上げていた時とは打って変わって,審神者の手作りプリンを見つめる三日月の瞳は甘く蕩けている。
執務室に備え付けられた台所からスプーンを取って来て,早速口に入れた。カラメルがたっぷり掛かった濃厚な固めのプリン。
苦めのカラメルを好む三日月にとっては大変好ましい味だった。どの酒が合うかな。戸棚に並ぶ酒を見ながらプリンを食べているところに,こんのすけがやってきた。
「三日月様!審神者様から御伝言をお預かりしております。」
「待ってたぞ。・・・どこにいる?」
「・・・っ!西塔25階の一番奥の部屋でございます!」
三日月が画面をタップすると,審神者の宿泊場所が点滅した。彼が見ているのは政府施設の詳細な図面。
非常階段や防犯カメラの位置,普段立ち入りが禁止されているエリアの見取り図など機密情報がたっぷり詰まったものだ。
こんな物が存在することを政府に知られたら大事になるが,こんのすけも当たり前のように画面を覗き込んでいる。
「明日の正午までに戻らなければ取り返しに行くぞ。あいつが手元に戻るまで,10分間隔で政府の奴らの首を斬ってやる。良いな?」
「ええっ!?あっ!そ,れは・・豆屋特製超高級油揚げ!!!」
「良いな?」
「勿論でございます!身を粉にして働きますゆえ,早く油揚げを!さきほど食べた油揚げは安物のせいか脂っこくて。はぐはぐー!!」
安物は口に合わんだろう。口の端を持ち上げた三日月は,皿に乗せた油揚げをこんのすけの前に置いた。
飛び掛かるなり狂ったように油揚げを頬張るこんのすけを見て,三日月は更に笑みを深める。
冷蔵庫から高級油揚げの束を持ち出すと,こんのすけに見せつけるように一枚ずつ積み重ねていった。
言う事を聞けばやる。一々言葉に出さない辺りが性悪である。
「あいつを取り返しに行くのは俺だけだ。他の奴らには黙ってろ。良いな?」
「え!?でも攻め入るなら・・・わかりました!はぐー!!」
「ところで伝言とは何だ?お前がわざわざ此処まで来たということは機密に関することか?」
ごくり。二枚目の油揚げを丸飲みしたこんのすけは,咳払いを一つしてから周りを見渡す。
そして,西塔内にまだ端末に反映していない通路を見つけたそうです。と囁いた。それを聞いた三日月は,ほう。と声を漏らした後,端末に映る西塔の図面を拡大した。
この図面は,審神者と三日月とこんのすけが良からぬ方法で情報を集積させたものなのだ。
それを眺めながら,三日月は審神者を奪還する策を思案する。
「なぁ,こんのすけ。あいつは,素直でない上喧しく,救いようのない社畜で男士にはすこぶる甘いどうしようもない女だ。
だが,この天下五剣が認める数少ない長所がある。清潔であるところと,政府を全く信用していないところだ。」
「・・・ですね。盲信は破滅の始まりですから。」
機械のように無機質な黒目が三日月を映す。政府のメッセンジャーという職務に就いていながら,自分が所属する組織を信用していないこんのすけ。
食えない社畜管狐だからこそ,審神者と三日月の2人しかいなかった時代から,目の前の不遜な神と渡り合ってこれたのだ。
三日月はそんなこんのすけに満足したようで,審神者の着替えを用意するために箪笥を漁り始める。
すると,こんのすけが首に巻く風呂敷を広げながら口を開いた。
「あのー三日月様。審神者様のぱんてぃは,丁ばっくにして頂けませんか?一枚でも多く油揚げを持って帰るのに,面積小さめの方が助かるんで。
ぶらじゃーは持って行きませんよ?嵩張りますから。」
「な,何?布団乾燥やってくれたの?・・・どういう風の吹き回し?」
「・・・使った布団は布団乾燥機をかける。何とは何だ?」
審神者が無事に帰って来た。正午前に帰って来たので,三日月による政府襲撃は実行に移されず。政府の安寧は保たれた。
彼女が私室へ向かうと,三日月が布団乾燥機を片付けるなり,そのままその布団に潜ろうとしているところだった。
顔を合わせるなり,新婚以来数十年ぶりに家事をやった夫と素直に礼を言えない妻の様なやり取りをする2人。
審神者は冷蔵庫の中を覗くと,少し照れた顔で三日月に話しかけた。
「私も食べようと思ったのに。・・・2個も食べちゃったの?」
「・・・何となく食っただけだ。残して欲しくば,文にでも書いておけ。」
たかが一日離れていただけだというのに,何となくぎこちない2人。
布団からひょっこり顔を出しながら喋っていた三日月だが,審神者が枕元に座るとガバっと起き上がった。
彼女のジャケットを脱がし,シャツのボタンをプチプチ外し始める。
「俺の言いつけは守ったか?」
「・・・・・・湯浴み,でしょ?した・・・けど?」
こんのすけが審神者のもとへ戻る時,本丸に戻る前に湯浴みをしろ。と伝言を託したのだ。三日月と湯浴みから導き出されるものといえばただ一つ。
審神者は何やらブツクサ文句を言いながらも,大人しく体を預けた。空から苦無が降るぐらい珍しい。
「昨晩は三日月だったろう?空の月では満足出来んだろうから,俺の打ち除けを見せてやろうと思っていたのに。
政府のせいで俺の予定が台無しだ。」
「だからって政府に乗り込む予定だったの?こんのすけから聞いたけど・・・」
「勝手に俺のものを取り上げられて,指を咥えて待つような情けない男ではないぞ。」
審神者が着ていた服をぞんざいに布団の外へ放り投げると,彼女を布団へ引き倒して覆い被さった。唇に噛み付いて舌で口内を荒らす。
息つく間すら与えない激しい口付けだ。唾液で濡れた唇ではふはふと苦しそうに呼吸を整える審神者。
その顔をじっと見下ろしていた三日月だが,何か思い出したのだろうか。蕩けるような笑みを浮かべながら彼女の唇を舐めた。
「・・・あぁ,もう一つあったな。閨では可愛く啼くところだ。」
(メッセージ欄へ)