*加州視点


「『香しい梅の香りに,私という鶯は魅せられてしまったよ』!?『小狐の“稲荷”を啄んで頂きたい』!?」

主は,他の本丸の三日月や小狐丸から贈られた文をビリビリと破り捨てた。

「加州。私って,下ぶくれマロ眉女なんでしょ?だから,じじい組合の三条から好かれるんだよね?」
「そんなわけないじゃん!主は可愛いよ!どう見たって,額にマロ眉デコってないでしょ?」

“鶯春画事件”のあの日,主の三日月に対する怒りは凄まじかった。長谷部の刀を奪ってヤツを切ろうとしたのだ。その時の三日月の嬉しそうな顔。完全なる変態だ。長谷部も顔を赤らめてたが,標準装備なので問題なし。

「主!気分転換に鍛刀しよう?こんのすけからも言われてるよね?」

主は,鍛刀を極力やらない。理由はよく知らないけど。政府に鍛刀を命じられても逃げ回っていた。嫌がる主を引きずり鍛錬場に放り込む。心配した短刀達も付いてきた。皆の心配を余所に,主は資源を適当に投げ入れる。すると,“4時間"という絶望的な表示が現れた。今剣と博多は,4時間を叩き出した主を猛烈に責め立てた。

「あるじさま,なんてことを!うちのみかづきは,さんじょうのはじなのです!あんなのがまたでたら・・・。そのときは,ほんきでやっちゃいますよ!」
「俺は演練で『お前の所の三日月はおかしい』と馬鹿にされたばい!もういかん・・・」
「えっと・・・主は知らないの?4時間が出たら,小狐丸か三日月かのどっちかなんだよ・・・」

今剣による“三日月暗殺宣言”や博多の切なすぎる発言に対して,キョトンとしている主に説明した。次の瞬間,主は真っ青になってバタンと倒れ,なぜか匍匐前進で鍛錬場の扉を開けた。

「石切丸ぅぅぅ!!今すぐお祓いっ!!!早くっ!!!」

主の叫び声に誰よりも早く現れたのは俺達の長谷部。俺だけは貴方の見方ですと主を抱き締めた。何とも姑息だが,そこは主命であるが故。そんな頼れる男,それが俺達の長谷部だ。

「長谷部,もう終わりだよ。三日月が2振り・・・今まで,ありが・・とう・・・」
「主っ!!主,死ぬなーーーーーーーー!!!!!!」

力尽きる主を見て泣き叫ぶ長谷部。頼りにならなかった。俺がしっかりしないと!大急ぎで石切丸を呼びに走った。

儀式の準備を整えると,白い着物に身を包んだ主と長谷部が現れた。ええ?何で長谷部まで?長谷部に抱きかかえられた主の頭には,病床の将軍が巻く紫色の布が巻かれていた。長谷部の夜着の帯じゃん。主は長谷部の首に腕を回している。押しつけられた主の胸の谷間を見逃さなかった長谷部を俺は見逃さなかった。

「あるじさま!みかづきのあくりょうをおいはらうおきよめです!」

正座する主めがけ,次郎の酒瓶を持った今剣が中身を容赦なくぶっかけた。主は手を合わせ一礼する。濡れた着物から主の乳当てと腰巻きが透けて・・・って赤!?へへ。俺って愛されてる〜!!腰巻きが尻に食い込んでるって,あれが“丁ばっく”ってやつ??やっぱ,生娘じゃないじゃん!主の尻を見逃さなかった長谷部を俺はまたしても見逃さなかった。こりゃ,あるじ的には良いネタになりそうだ♪陸奥から借りたかめらに収めよっと。

(三日月に見られたら面倒臭そー)

三日月を探そうと襖を閉めて廊下に出ると,間の悪いことに三色団子を食べ歩きするヤツが現れた。

「み,三日月!」
「ん?ああ,団子はまだあるぞ。」

主に苺どらやきを買って来いと言われたくせに,自分が食べたい三色団子を買ってきたらしい。しかも,茶葉まで買ってるし!主のカミナリを想像して身震いがした。

「主が久しぶりに鍛刀やったら,4時間が出たんだよ。三日月が出るんじゃないかって大騒ぎ。」

言外に,悪霊扱いされて嫌われてるぞと含ませた。ほう。と三色団子を頬張る三日月。俺の嫌みは全く通じていない。

「はっはっは。皆して,俺を心配してくれているのだな?でも大丈夫だ。」
「な!何で大丈夫だなんて言えるんだよ?」
「俺が出来たとしても,折ってしまえばよいのだ。このように。」

三日月は,食べ終わった三色団子の串を華麗に折って見せ,笑いながら去って行った。・・・怖すぎる。でも,あるじ的には良いネタになるよなあ。


鍛刀が終わる頃,蒼い狩衣姿の三日月がゆらりと現れた。抜き身の刀を持って。うちでは,男士を降ろす際は三日月が立ち会う決まりだ。ヤツなりの新人への牽制なのだろう。

「加州,今日はお前も立ち会え。主の保護を頼みたい。」

俺が頷くと後ろから,ぼくはあなたをきりましょうか,みかづき。という独り言が聞こえた。怖すぎる。鍛刀が終わった刀を安置する部屋に入ると主がいた。まだ,頭には長谷部の帯を巻いている。刀は小狐丸だった。心底ホッとして横目でチラリと三日月を見たが,ヤツは真顔のまま。

「ーーーこれはこれは,お美しいぬしさまだ。夜着を来て小狐を求めて下さるとは・・・」

閨で油揚げを頂きましょう?と現れるなり,主の肩を抱く小狐丸。・・・癖が強い。すると,三日月が小狐丸の喉元に刀を突きつけた。

「おやおや,これは手汚い狐だ。躾が必要だなあ。今剣,一時休戦としよう。」
「いいでしょう。さんじょうのはじをふやすわけにはいきませんから。あぶらあげがほしいなら,ぼくがみみをそいでくわせてやりましょうか?」

・・・怖すぎる。殺意剥き出しの2振りに対して,小狐丸はニヤリと笑った。

「小狐が鉄にして差し上げましょう。鉄が多いほど,ぬしさまとの閨も燃えるというもの。」

怒り狂った長谷部も参戦してきたため,ここは危ないと,主の手を引いて部屋から出た。ここの三条はどれも怖い。でも,あるじ的には良いネタになりそうだよなあ。

魍魎の庭



戻る