「あるじさま!しゅつじんまぢかだというのに,みかづきがおりません!たいちょうしっかくですよ!」
「警部!それ本当!?ちょっと探してくるから待ってて!」
今剣“警部”からの報告により,徘徊している三日月を探す。出陣間近だというのに何をやっているんだ,あのじじいは。
私は,今剣を“警部”と呼んでいる。由来は,今剣が読んだ漫画にある。その漫画によると,前の主が地獄で警察官になってるらしい。それで,自分も警察官らしいあだ名が欲しいと志願してきたのだ。そこで思いついたのが“警部”だった。
彼は日夜,三条の恥となる刀のパトロールに勤しんでいる。その管轄は,全本丸に及ぶとか。他の今剣に任せたらと言ったところ,ぼくいがいの今剣はいしきがひくすぎてつかえないのです。と怖すぎる返事が返ってきた。
癖が強すぎる警部曰く,今月は“三条浄化月間”だそうだ。先月も,先々月も同じことを言っていた気がする。そんな孤独で果てしない戦いに果敢に挑む今剣に敬意を表し,私は“警部”と呼んでいるのだ。
警部にとって最強の天敵が,うちの三日月だ。残念ながら今のところ,浄化される気配は一切ない。今回,初出陣となる小狐丸のサポートとして三日月と警部を置いたのだが,幸先が悪すぎる。
「ちょっと!出陣間近なのに何やってるのよ!?」
嫌な予感がして自室に戻ると,私のバイブルである松○修造の本を読む三日月がいた。何をやってるんだ,このじじいは。ちなみに開かれていたページは,“反省はしろ!後悔はするな!”だった。お前は,色々と反省も後悔もしろよ。三日月は,本を取り上げようとする私を巧みにかわし,かわされたことでバランスを崩した私の体を腕の中に引き入れた。
「ちと,忘れ物をしてな。」
そう言うと,いきなり私の唇を割ってぬめりと舌を入れてきた。そして,逃げ回る私の舌を追い詰め,何度も絡ませる。抵抗の意思を示すために三日月の胸を叩く手も捕らえ,手のひらを親指でクルクルと円を描くようにさすってきた。手袋のせいで,伝わってくる温度は低い。しかし,夜を想像させるようないやらしい親指の動きに顔をしかめた。
三日月の香に包まれて施される長い長いキス。角度が変わる度に,彼の髪飾りが顔に当たってくすぐったい。
「ちょ・・みか,づ,き・・!」
長すぎるキスが漸く終わり,ゼイゼイしている私を嬉しそうに見下ろす三日月に腹が立って仕方がない。早く行きなさい。と,切れ切れの言葉で命令した。三日月は,そんな私をあやすように頭を撫でる。
「出陣前に口寂しくなってなあ。なまえの口を吸って満足した。」
「前々からずっと言いたかった事なんだけど。あのさ,一発やったくらいで調子に乗らないでくれる?」
言ってやった。ついに言ってやった!私は,内心ガッツポーズをした。女の口から出す言葉としてはどうかと思うが,紛れもない本心だ。三日月はというと,やれやれといった感じで頭を横に振る。
「あのな,なまえ。正しくは,一発と半分だ。俺はこの前,お預けを食らったからな。生憎,まだ頭はしっかりしているので無かったことには出来ん。それに,二発目はもうすぐだ。」
三日月は私の左肩にかかる髪を避け,服の上からあの噛み傷に口付けた。そして,唇が肩から首へ,首から耳へと移動する。吐息が熱い。耳に移動した三日月の唇は頬を伝った後,私の唇に戻ってきた。感触を確かめるようについては離れてを繰り返し,最後に三日月の舌がツゥっと唇の形をなぞる。甘い痺れに耐えきれず,三日月の二の腕を掴んだ。狩衣の下のインナーのせいで,指に伝わる肌の感触が鈍い。
「これは・・・眼福に預かり光栄だ。閨では,一度もこうして俺に触れてくれないからな。なあ,なまえ。早く俺を抱いてくれ。」
「名前,呼ばないで・・・」
「なぜ?なまえは俺のものだろう?好きに呼ばせてくれ。」
どうしてここまで拗らせているのか。誕生から10世紀近くたってなお,中二病を患い続けるじじいに恐れ入る。散々好き勝手した三日月は,最後に触れるだけのキスを唇に落とした。
「・・・お守り,ちゃんと持ったの?」
「ああ。俺はなまえの特別,だからな。」
三日月は,懐からお守りを出し緩く微笑んだ。彼のお守りの袋には,私が刺繍した三日月模様が入っている。皆と同じ物は嫌だと駄々をこねるじじいのために入れてやったのだ。決して,自ら進んで入れたわけではない。
遠くから警部の怒鳴り声が聞こえる。小狐丸が何かやらかしたらしい。我に返り,皆を見送るため三日月の背中を追った。数歩進んだ三日月が突然振り返って,もう一度。と言った。彼を見上げると,軽いのキスと桜が落ちてきた。早く行けと前を向かせて背を押しやる。唇と肩の傷に熱が集まって熱い。
ーーーやっぱり,三日月とのキスは苦手だ。
11 主が歩けば拗らせに当たる@