私は,出陣した男士達の様子を見るため,自室のモニターをチェックしていた。本来は音声のやり取りも可能なのだが,壊れている。財政状況が逼迫しているので,修理に出せないのだ。無音のモニターを見ながら,そろそろだなとお茶の準備を始めた。


「今度の刀も写しじゃなかった・・・。どいつもこいつも・・・」

三日月の次はこれ。山姥切の愚痴を聞かなければならないのだ。山姥切は,刀が顕現する度にこうして愚痴りに来る。名剣名刀と言われるものが出た時など最悪。今回は,小狐丸が出てしまったもんだから長期戦を覚悟せねばなるまい。拗らせすぎて,どちらが表でどちらが裏なのかわからなくなっている。年期の入った拗らせというのは,相当たちが悪い。
山姥切には大変申し訳ないが,どいつもこいつもと言いたいのは私の方である。

「毎回言ってるけどさ,名剣名刀とかどうでもいいと思うよ。天下五剣とか,三日月に言われて初めて知ったし。自分で天下五剣とか言っちゃうヤツってどうなのかな?しかも一番美しいとか言っちゃってるし。薄ら寒いでしょ。」
「あんた,天下五剣だぞ!?写しとは,全く違う・・・。いや,俺だって写しの傑作だ・・・」

始まった,拗らせループが。これに陥ると抜け出すのは相当難しい。まるで蟻地獄のようだ。三日月の件もあり,私の生存力はだだ下がりだ。君らと違ってお守り持ってないんだぞ?これ以上何かあったら,破壊されるかもしれない。

「山姥切は大したもんだよ。私は本当に助かってるもん。翻って,三日月はどう?お茶飲んでお菓子食べてるだけ。『さて給料分は仕事をするか』って言ってるけど,ほぼ仕事してないじゃん。何なの,あの台詞は。このモニターも先月修理に出そうとしたのに,ヤツが絹製冷えとりと股引買ったせいでこのザマだよ。」
「写しごときに金をかける必要はないから・・・」
「だから,そうじゃないって。あのさ,ここだけの話なんだけどね。この前の審神者の会合で,何言われたか知ってる?『お宅の三日月を鍛刀しないためにレシピを教えて下さい』って言われたの。無茶苦茶恥ずかしい思いをしたわけ。主に恥かかせるのが許されるわけ?天下五剣ってやつはさ!」

さすがの山姥切も同情したのか,生暖かい目で見てきた。同情されて当然である。しかし,油断は禁物だ。歌仙から,山姥切の布をしっかり洗いたいとの陳情を受けてしまったからだ。道のりは険しい。

「長谷部を見てみな?『俺は国宝ですので主命には従えません』とか言ったことないでしょ?」
「長谷部は名だたる名剣名刀・・・なのに俺は・・・」

しまった,振り出しに戻ってしまった。私は額をペシリと叩き,次の作戦を実行すべく立ち上がる。そして,室内にある金庫に手を掛けた。チラリと山姥切を見ると,僅かに口角を上げ少し照れた様子だ。そうなのだ,次の作戦こそ重要なのだ。山姥切がこうして愚痴る度,現世で買った高級チョコをこっそり食べさせているのだ。私は暗証番号を入力し,金庫を開けた。

「!!!!ないっ!!!ね,山姥切!チョコ,がない!!!」
「おいっ!!三日月が・・・!!」

私の叫びの呼応するかのように,珍しく山姥切が大声を張り上げた。彼は,モニターを必死に指さしている。モニターを見ると,円陣を組んで焚き火で暖を取り酒を飲む男士達の姿が映っていた。まだ,任務は終わってないはずだが。そして,何と,三日月が懐から金色の箱を取り出し,その中身を摘み出したではないか。

「あの野郎!!忘れ物ってこのことか!何が満足しただ,クソジジイ!!!おいっ!!」

ヤツが摘み出したのは,紛れもなく金庫に入れておいた高級チョコである。なぜ,チョコの存在や暗証番号を知っているのか。しかも,周りにいる男士に気前よく振る舞っているではないか。小狐丸が食べた。あいつも許さない。警部にも勧めたが,警部は三日月に斬りかかった。良かった,警部に裏切られたら立ち直れないところだった。

「応答せよ!応答せよ!チクショウ!!」

モニターの音声ボタンを必死に押しまくるが,何度押しても壊れているため,私の叫びは届かない。こちらは無事かと畳をひっぺり返したところ,こちらの食料庫に隠したチョコは無事だった。そして,それを山姥切に渡す。

「俺で,いいのか?写しの俺は,あんたにとって・・・特別か?」
「特別に決まってるじゃん!山姥切は私の特別!そうじゃなければ,金庫や畳の下にチョコを隠したりしないでしょう?」

そう言うと,桜を降らせて,はにかむ笑顔を見せてくれた。美しい。言ったらまた拗らせるので言わないが。その後のお茶会は盛り上がり,布を洗うことも許してくれた。やれやれである。山姥切を見送ろうと襖を開けたその時。
ーーー襖の前に正座し,大号泣する長谷部の姿があった。

12 主が歩けば拗らせに当たるA



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