「ーーーはい,大変申し訳ありませんでした。ええ。始末書の方は早急に。はい,失礼致します。」

うちの警部がやらかした。
三日月の春画を見て,私に卑猥な文を送りつけてくる余所の小狐丸がいるのだが,先日の出陣の際にばったり遭遇したらしい。そこで,その小狐丸に斬りかかったのだ。どうも,その小狐丸とやらは自分の主には“狐”を被り,イイコを演じていたようだ。お宅の今剣はどうなっているんですか?との猛クレームを受けた挙げ句,政府からもお叱りの電話を貰ってしまった。死ぬ程忙しいというのに,始末書を書かなければならなくなった。今夜も完徹必至である。よくよく考えたら,三日月が悪いのではないか。毎回余計なことしかしないじじいである。

「ぬしさま?小狐の毛づやが悪くなっております。早く,なでなでして下さい。」

大きい体を畳の上に転がし,頭をすりすりと膝の上に擦りつけてくる小狐丸。どこの小狐丸もこの調子なのだろうか。これから書かねばならない始末書に思いを致しながら,ほわほわした小狐丸の髪に櫛を入れた。

「ピイーーーーーーーッ!ピイーーーーピピッ!」

けたたましい音が本丸中に響き渡る。始末書の登場人物になる警部の警笛の音だ。
現世で放映されている警察24時を一緒に見ていたところ,警笛を吹きながら犯人を追いかける警官が出てきたのだ。自分も欲しいとお強請りされ,私も止せばいいのに本物の警官が使っている物と同じ物を買い与えてしまった。そんなわけで,むちゃくちゃ音が大きい。
庭に横断歩道に見立てた白線を引き,警部の誘導の下,他の短刀達が横断するという遊びが毎日行われている。一体,それの何が楽しいのかサッパリわからない。とにかく,五月蠅いの一言に尽きる。

「ぬしさまぁ。五月蠅くて,小狐はちっとも休めません。小狐が休めるよう,閨でぬしさまの可愛い声を聞かせて下さい。」
「ちょ,ちょっと!裾に手を入れるな!」
「ーーーおい。狐や,お前は畑当番ではなかったか?よほど俺に折られたいらしいな。」

抜き身の刀を持って三日月が現れた。風呂上がりなのか,白い襦袢姿の首にはタオルを掛けている。主が己のせいで政府から説教を食らっていたというのに,真っ昼間から風呂とは良いご身分ではないか。小狐丸は,後で閨にお邪魔致しますね。と言い残し去って行った。油断も隙もあったものじゃない狐である。警部に言いつけよう。

「油断しすぎだ。あれは狐だ,油断をしたら化かされるぞ。それはそうと,今剣の笛が五月蠅くてかなわんな。これでは,ゆっくり茶も飲めやしない。万屋の傍に新しい茶屋が出来た故,共に参るぞ。」

新しいカフェ出来たから行こ?という女子会的なノリなのかもしれない。しかし,抜き身の刀という物騒な物を持ってる上に,ヤツはじじいである。いくら顔が綺麗でも可愛いわけがない。表情には出てないが,非常に機嫌が悪いとお見受けした。風呂に入って機嫌が悪くなるとは,一体どういう了見か。


「警部。今回の件,気持ちは有り難いけどマズイよ!あの小狐丸って主の前じゃイイコらしくてさ。審神者から猛クレームついたよ。政府からは始末書出せって言われちゃったし。今後は抑えめでいこう,ね?」
「ふん。つまらぬきつねにつまらぬさにわ。神通力でばーっとかたづけられればいいのにー」

万屋の浄化作戦を決行したいという警部を連れて,私達は万屋に向かう。
警部も連れて行くと三日月に言ったところ,彼の機嫌は更に悪くなってしまった。本丸を出てから一言も口を開かない。一方の警部は,トレンチコートにサングラスという例の猟奇的にダサい格好に加え,警笛まで装備している。道中,やんわりと今回の件を諫めたが全く効果なし。三日月に助け船を求めようと彼の方を見たがーーーいない。
キョロキョロしていると,後ろから黄色い声が聞こえてきた。振り返ると,三日月がどこかの女性審神者に声を掛けられていた。女性審神者は,彼の狩衣の袖を引っ張り甘えた声を出しているではないか。残念ながら,ここで妬くような私は存在しない。

「さかりのついたさにわがいますね。みかづきといっしょにやっちゃいますか。バビューンといってきますねー!」
「ちょっ!!!警部!!!ダメってば!三日月!早くこっちに来てよ!」

うちの警部ときたら猟奇的過ぎる。ピーピー警笛を鳴らしながら今にも抜刀しそうな警部を必死に押さえ込んだ。三日月は扇で口元を隠し,片眉を上げこちらをじっと見たままだ。早く来いよ,じじい!結局,三日月が動かないため,私と警部が彼を迎えに行く形となってしまった。すると,漸く彼が口を開く。

「・・・おい。迎えに来るのが遅すぎるぞ。」
「・・・は?迎えに来るの待ってたの?」

猟奇的すぎて意味がわからない。三日月は,黄色い声を飛ばす女性審神者に何か言ってから,私達の元へ来た。何を言ったのか知らないが,碌でもないことだろう。女性審神者の顔が青ざめていた。

「主。本丸に帰ったら,薫衣香(くのえこう)だ。衣を洗ってからにしてくれ。あの女の安っぽい香が衣に付いて,臭くて堪らんからな。ああ,そうだ。香は“梅香”がいい。鶯を待ちわびるようで・・雅だろう?」

何だか意味ありげな視線を送られた気がするが無視することにした。この三条2振りを連れて,果たして無事に済むのだろうか・・・。

14 焼け爛れた境界線@



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