※続花丸ネタあり


「三日月宗近君,何か用かな?即刻去れ!縁側で茶でも飲んでろ!」
「つれないなあ。魂が震えるほど情熱的に情をかわ・・・」
「黙れ!あのね,女の所へ押しかけて即挿入っていうのは今や犯罪なんですよ。挿入っていうのはね,たっぷり前戯をした者にのみ許されるものなの!呪い殺してやろうか!?」

“不覚の2発目事件”以降,三日月は用もないのに執務室を訪れることが多くなった。周囲は,ついにやる気を出したと好意的だ。完全な勘違いなのだが,私は黙っている。数少なすぎる彼の美点は,そういう関係であることを周囲に明かさない所だ。私にとって,“布団もない所で下着をずらされて即ハメされちゃいました”なんて,死んでも知られたくない末代までの恥である。

「悪かったと言っておるであろう?お預けを食らっていた分,気が逸ってなあ・・・つい。」
「ついじゃねーよ!どこに気が逸る要素があったわけ?また噛まれた肩と爪立てられた内腿が痛いんですけど。」
「この前の出陣の折だ。口を吸うたら俺の腕を掴んだだろう?あの時,早く抱いてくれと気持ちを伝えたではないか。」

何故そこで"逸るスイッチ”が入ったのか。頬を赤らめた三日月から,ふわりとキスが落とされた。場違いな程に優しすぎるそれ。

「やっ!あれで!?というか,バッ・・背後から入れたら私が三日月を抱くのは物理的に無理でしょ!?やってること滅茶苦茶じゃない!!」
「全て含めて気が逸ったということだな。でーとで浮き足立つとは,俺もまだまだ若い。これが思春期か。」

遅すぎた思春期。照れる姿は美麗極まりないのだろうが,私にとっては身の毛がよだつホラーでしかない。しかし,以前から懸念していた問題の核心に迫った。

「あのさ,避妊って知ってる?」
「愚問も良いところだな。この俺を馬鹿にしているのか?」
「だったら!無責任な事しないで!!何年生きてるの!?貴様みたいなのを"老害”って言うんだよ!溶かすぞ,鉄クズが!!」
「何と!本気のまぐわいを無責任とは酷い言い草よ。」

自称思春期のじじいのせいで,肩の傷は再発した上に今度は内腿だ。避妊を知っていてあの無体とは。付喪神の子なんて孕むのか疑問だが,万が一のために自己防衛は必須。私は深い溜め息をついた。


「とりあえず,私の胃薬あげるから。私達のようなタイプはね,胃薬は常備してないと!後で薬研の所に一緒に行こう?」
「主,すまん・・・痛っ!腹を撫でてくれっ!!」

私は,大量に保管している胃薬を男士に渡した。そして,胃の辺りを撫でてやる。男士とは,比較的最近本丸にやってきた膝丸である。我が本丸の彼は胃が弱かった。弟泣かせの兄の存在により,事ある毎に胃を痛めていたのだ。三日月に振り回されている私に親近感を覚えたらしい。私のもとを訪れては,こうして泣きつき腹を撫でろとせがむのだ。

「明日は,兄者が楽しみにしているのだ!主に小遣いまで用意している!参加してやってくれ,頼む・・!」

私は,平安じじい太刀が集う茶会に招待されていた。はっきり言って行きたくない。ただ,髭切が楽しみにしているとあっては,無下に断ることもできないのも事実。茶会の話が出た直後,三日月から着物が贈られてきた。白地に蒼い紫陽花がふんだんに描かれ,所々に金糸や銀糸が散りばめられた絢爛豪華なそれ。着物には,彼の香に僅かに甘い花の香りが混ざった香が薫きしめられている。何度も陰干ししたがついに香が消えることはなかった。入念に薫きしめられたものらしい。

「三日月と茶会なんてロクな事にならないでしょ?本当に鬱陶しいじじいだわ,あの鉄クズ!」
「兄者は,源氏の重宝にふさわしいとっておきの着物を用意している。俺の着物も用意してくれたのだぞ!?・・・いや,泣いてはない。泣いてはないぞ!」

胃を痛めたり泣いたりと忙しない膝丸。苦労性の彼を私は生暖かい目で見た。彼に同族感情が芽生えているからだ。出席します。と伝えると,膝丸は大量の桜を散らせ始めた。そして,兄者がいかに素晴らしいかを語り出す。もう何百回と聞いた話だが黙って聞く。兄者自慢を聞きながら,モニターを凝視していた目を押さえた。

「博多,次の取引所が開くの何時?」
「深夜の2時ばい。」
「それは私が追っかけるよ。今日は腰を据えていかないと。」

私は,引き出しの中から取り出した栄養ドリンクを勢い良く流し込んだ。あまりのまずさに顔を顰める。マムシとスッポンの粉末が入ったどぎつい液体が喉の奧に突き刺さったのだ。すかさず,長谷部が背を擦り水を差し出してくれた。

「長谷部。万屋の新商品のこのドリンク,今までで一番効くかもしれない。1本あげる。」
「はっ,いただきます!」

私は,博多や長谷部と共に株取引やコイン取引で本丸の資産運用を行っていた。性に合っているのか儲けは上々だ。各地で行われる取引にくまなく対応するため,私達は24時間交代制で監視をしていた。満身創痍である。膝丸がモニターを不思議そうに覗き込み,君は我らの惣領として頑張っているな。と呟いた。

「じじい達を養うのに金がかかるのよ。あいつら贅沢するから。だからこうしてお金を増やしてるわけ。あ,膝丸の事を言ってるわけじゃないからね?」
「兄者は迷惑をかけているのだな,すまん・・・。痛っ!撫でてくれっ!」

再び胃を痛めたらしく,腹を撫でろと騒ぎ出す。しかし,髭切が贅沢刀なのは事実。源氏の重宝に相応しいかどうか常に拘っているのだ。大抵の事はどうでもよくなってくるとかいうあの台詞は嘘だろう。うちの髭切だけなのか。とにかく,今は次の取引に向け集中しなければならない。両頬を掌でペシリ叩いて気合いを入れた。

「長谷部!今夜は夜戦だ!そのドリンク飲んで,今夜は一発やるぞ!!」
「それは・・・,俺に閨へ侍れということで宜しいのですね?」
「ん?ああ,そうだね。声を出したら寝てる皆に迷惑だから。うん,私の部屋でやろう!」
「主。念入りに体を清めて参りますので失礼致します。」

やけに沈着冷静な長谷部は,三つ指をつくと風呂へと消えていった。私は満足気にその頼もしい背中を見送る。

「主。長谷部は,致命的な勘違いをしているように思うのだが大丈夫か?君に何かあっては,兄者に顔向けできん。」
「??一世一代の勝負に出るんだから当然でしょう?私も身を清めて石切丸に祈祷して貰おうかな?絶対に負けられない戦いがそこにはあるんだから!」
「いや,そこに勘違いがあるのだ!こうしてはおれん!今宵は俺が夜警を・・」

膝丸が更に口を開こうとすると,ガシっと力強く肩を掴まれる。振り返ると,目を血走らせた博多がそこにいた。

「っ!その力,本当に短刀か!?」
「新人に告ぐ。ーーー好奇心は猫をも殺すばい。」


深夜,私とこんのすけは執務室で向かい合っていた。酒のつまみに出した油揚げをもちゃもちゃ食べながら,こんのすけが口を開いた。

「博多様と加州様から,審神者様と同士が一発交えるとお伺いしたのですが・・・。」
「あっ!そうそう,長谷部倒れちゃった。部屋に入ってきた途端,私に雪崩れ込んできてさ。湯あたり起こしちゃったみたい。看病するために奧の寝室で寝かせてる。疲労だよ,可哀相に。」
「え?同士が湯あたり,ですか?そして同士は今,審神者様の寝室にいるのですね?」

こんのすけは,ちらりと寝室の方を見た後,油揚げを噛み砕きながら暫く黙り込んだ。そして,同士よそうきましたか。と呟いて酒を一舐めした。

「疲労ということは,同士の霊力が低下していますね。審神者様,今夜は傍で霊力を補給してあげて下さい。人払いの術をかけましょう。審神者様にも睡眠が必要かと。」
「勿論!今夜は責任持って傍にいるよ。長谷部に頼りきりだから本当に申し訳なくて。私もこの取引が終わったら,その辺に転がって寝るわ。」


「全く,貴方という方は・・・」

主人が寝落ちしたのを見計らって,長谷部が寝室から出てきた。そして,畳に転がる彼女を抱きかかえると布団に寝かせ,羽織を脱がせた。赤い襦袢姿の彼女の手には,昼間と同じ栄養ドリンクの空瓶が握りしめられていた。そっと外してやる。長谷部は,仄暗い藤色で彼女をじっと見つめながら,ジャージとTシャツを脱いだ。

「他の男がいる前で閨の誘いをかけるなど言語道断。次は自分もと期待させてしまうでしょう?」

布団に横たわる彼女の上に長谷部の影が重なった。枕元の灯りが,彼の筋肉の窪みに陰影を与える。彼は,彼女の頬をするりと撫でると,襦袢の合わせを少し緩めた。そして,鎖骨の少し下の薄い皮膚を吸い上げて一舐めする。ポツリと淡い紅が咲いた。

「湯あたりなどと貴方を騙したのですから,今夜はこれで許して差し上げます。次に同じ事をしたら,貴方の大好きな忠臣はもう,ここにはおりませんよ?折角ですから,たっぷり霊気を頂きましょうかね。貴方のこれは,酷く心地が良い。」

長谷部は枕元の灯りを消した。暗闇の中,鈍く光る藤色が浮かぶ。彼はそれをうっそりと細めた。

「貴方と共にこのまま堕ちることができたなら。例えそこが地獄であっても,俺は幸せですよ。」

お休みなさい。と囁いて,彼女を腕の中に閉じ込めた。

17 嘘つきの箱庭@



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