「『拝啓 鶯丸様。苦めがお好みでしたら,小さじ1杯ほど追加されては如何ですか』っと。」

最近,余所の鶯丸達からお茶に関する文がやたらと届く。完全に仕事の邪魔なのだ。高級茶葉付きで送られてくるため,仕方なしに返事を送っている。三日月と完全なる茶を求めて実験を繰り返した時に作ったノートが,地味に役立っていることに腹が立つ。

「主,迎えにきた。・・良く似合っているぞ!俺の着物は,何と兄者が用意してくれたのだ!」
「ありがとう。膝丸こそ似合ってるね,素敵だよ。」

少しくすみがかったパステルグリーンの着物に身を包んだ膝丸が迎えに来てくれた。着物の件は何度も聞いたが,黙って膝丸を褒める。美しいものは讃えなければ失礼だ。

「君は!昨夜!長谷部とその,一発・・・」
「出来なかったよ。長谷部,具合悪くなっちゃって。」
「そうか!不発に終わったということで・・いいのだな?」
「うん。でも一人でやったよ。やらずにはいられなかったからね。」
「お,女子もするのか!?兄者の前では言うな!!兄者が教育の鬼になってしまう!!」

膝丸が赤面させて何やら意味不明ことを叫んでいる。一人で株取引をやったことの何が不味いのか。今からじじい太刀との茶会だ。私は,不本意ながら三日月に貰った着物に身を包み,茶会の会場へ向かった。

「かぐや姫や,月は此方だぞ。その艶姿を照らしてやろう。」

私と同じ蒼い着物に身を包んだ三日月が,隣に座るよう手招きした。星が瞬く夜空のように金糸が丁寧に織り込まれた着物をお召しの彼は,ただただ美しい。どのじじいも美麗極まりない出で立ちだ。人である我が身が何とちっぽけなことか。

「おお・・・なにか光ってないか?」

白磁色の着物に身を包んだ髭切が目を丸くした。光っているのはお前だろう!膝丸といい,“光源氏兄弟"は,女の目を潰すつもりなのだろうか。すると,隣からふわりと抱きすくめられた。

「こりゃ驚いた。きみ,本当に良い女だ。穴に嵌めて俺の白をぶちまけたいぜ。」

金が混じる白い着物姿の鶴丸である。発言内容が気になるが,兎に角美しい。金色の大きな瞳でまじまじ見られる。私はじじい達に褒めそやされる度に気分が落ち込んだ。彼らの時代の美女とは,マロ眉下ぶくれ女のはず。鶯春画事件が頭を過ぎる。

「俺の握り飯を食わせてやりたいぐらい良い女だ。」

春画と同じ名を持つ刀が捻きれた表現で褒めてきた。鶯色の着物を着る彼は,美麗な御曹司の気品が漂っている。私の本丸は癖の強い刀が多いが,この鶯丸も相当な癖の強さではないかと密かに警戒していた。

「今度,その着物で長谷部と茶屋へ行ってくれるかい?君をここに呼ぶために,彼に時間を融通して貰ったんだ。そういや,昨晩彼の部屋に行ったんだけどいなかったな。」
「いいよ。あ,長谷部は,私と・・・」
「兄者っ!!早く主に小遣いをっ!!!」

膝丸が慌てて私の話を遮る。体調を崩した長谷部の霊力補給のため傍にいただけなのに。こんのすけのおかげかぐっすり眠って目覚めると,上半身裸の長谷部の腕の中にいた。着替えさせる途中で寝落ちしたのだろう。つくづく主として不甲斐ない。

「茶屋で満足とは長谷部は赤子だな。俺達の時代じゃ,すぐに仕込んじまうのに。草食系って言うんだろ?馬みたいな男ばかりで驚きだぜ。」
「良い女とは茶でも飲みたいところだが。ああ,連れ込み茶屋にしけ込めば一石二鳥だな。」
「存外,ああいうのが一番たちが悪かったりするものよ。主,気を付けねばならぬぞ?飼犬に手を噛まれた上,俺に斬られては堪らんだろう?」

鶴丸・鶯丸・三日月で突然始まった猥談。私は,連れ込み茶屋という超NGワードに顔を顰めた。じじい太刀は,猥談に花を咲かせながら酒を飲んでいる。茶会ではなかったのか。膝丸が,主の御前だぞ!と吠えた。

「生娘の主に男を覚えさせるのが僕の役目だろう?猥談も立派な教育だよ。武家面してるけど,お前が胃が痛いと仮病を使って主に腹を撫でて貰っているのを知らないとでも思ったかい?やり方が姑息だよ,仮病丸。」
「ききききむ・・俺は膝丸だ!それと,仮病など使って,いない・・・」
「主,一流の教育を施してあげるからね?源氏の重宝の僕自ら,君の上下の口に咥え込ませるよ。はい,小遣い。」

ずっしりと重い巾着を手渡されたが,それどころではない。私は驚愕した。髭切が生娘をとうに卒業した私をまだ生娘だと思ってることに。長谷部でさえ思っていないだろう。しかも,咥え込ませる気満々とは。猥談といい,教育熱心さがおかしな方向に向かっている。三日月が扇で顔を隠し笑いを堪えているのを見て,腹わたが煮えくり返った。

「もう俺達の時代の常識は通用せんぞ。今はな,たっぷり女体を愛でてやるという手順を踏まんと,胎に入れる資格が与えられんのだ。」
「ありゃ。随分と面倒臭い時代になったものだね。三日月は物知りだなあ。」
「まぐわいが,茶を飲むほど簡単なものでなくなったということか!教えてまわりたいな。」

私を膝の上の乗せて下腹を撫で回しながら,受け売り100%の台詞を得意げに吐く三日月。その台詞は私のものですと言えるはずもなく,黙って酒に口をつける。すると,鶴丸が驚く話をしようと言い出した。

「俺が驚いたのは顕現した時だ。俺を鍛刀した時,きみと長谷部,鼻眼鏡を掛けてやっただろう?あと,光坊が踊っていたんだ。こりゃ行くしかないって思ったぜ。」

鶴丸目的で鍛刀を行う際,私は確率を上げるため調査を行った。その結果,鶴丸国永とはかなりの驚き好きであるということを突き止めた。そこで,私達は鼻眼鏡を掛け鍛刀を行ったのだ。念には念を入れ,燭台切にポールダンスをやらせた。艶めかしいダンスを録画したDVDは,私の部屋に大事に保管されている。

「僕は,どろっぷした時かな。源氏の重宝なんだから,醜女の本丸なんか相応しくないだろう?様子を窺っていると,長谷部が懐から主の写真を取り出して号泣したんだ。『お美しさで目が潰れそうだ』って。写真を盗み見して,こりゃ行くしかないって思ったよ。」
「兄者の言う通りだ!兄者の迅速な判断で,俺もどろっぷしたのだ!」

マジか。初めて聞く話に唖然とした。源氏兄弟を一気に拾えた理由にも。長谷部が私の写真を持ち歩いていることにも。

「俺もだ。三日月が高級茶葉を手にして,『うちに来たらこれが飲めるぞ』と触れて回っていたのだ。これは行くしかないと思った。大包平にも教えてやりたいよ。余所の俺は悲惨な状況だ。醜女の主は茶の良し悪しもわからぬとか。俺は自慢した。うちの主は,良い女だし良い茶の煎れ方を心得ているとな。」
「余所の鶯丸達から文が届くのって・・・」
「恋文ぐらい許してやってくれ。股は濡らしても開くなよ?」

私が警戒した通り,我が本丸の鶯丸は相当癖が強い。彼は最近,しきりに大包平を探しに行こうと誘ってくる。そもそも探せるのか,探したところで見つかるのか。私は回答を保留したままでいる。あの文が恋文だったとは。

「俺は,こんな女子がいたら驚くというのはあるぞ。天下五剣で最も美しい俺に組み敷かれながら,意地でも声を出すまいと血が出るまで唇を噛むとか。気を遣る寸前になって漸く,奥を突いてと強請るとか・・なあ?」

三日月は背後から私の顔を覗き込んできた。口元を優雅に扇で隠しながら,意味ありげに視線を送ってくる。正真正銘の鉄クズである。

「三日月,そりゃ驚きだ!俺相手にそんな女がいたら,その場で子種を仕込むぞ!」
「ふむ。源氏の重宝にふさわしい女子だね。見つけたら隠しちゃおう!三日月って本当に趣味が良いね,勉強になるよ。」
「兄者!俺も協力するぞ!」
「いやー良い女だな。どっちが上か教えてやろう。俺が主導権を握っていることを,体に,茶渋が染みつくが如く。」

結局,ここにいるどの平安刀も手順を踏む気は更々ないということがよくわかった。見た目が耽美系色男だけに悪質極まりない。

「主,ちょっと良いかな?今剣君がくっきー作ってるんだけど,"ぴーぽくん”の形を確認して欲しいって。」
「警部,ピーポくん型のクッキー作ってるの!?悪いけど,ちょっと席外す!」

燭台切に呼ばれ,じじいの茶会を中座する。ああ助かった。暫く廊下を歩いていると,突然,空き部屋に引っ張り込まれた。

「着物良く似合ってるよ。今度,僕も贈るから着て貰えるかな?」
「え?どうしたの,急に。」

燭台切の顔を見上げる。暗い部屋の中,彼の金色が禍々しく光っていた。黒い革で覆われた手が頬に触れ,親指で唇をするりと撫でられる。

「脱がせるなら僕が贈ったものでないと格好つかないからね。」
「しょ,くだいきり・・・?」
「惚けたって無駄だよ?僕はね,馬鹿な女が大嫌いなんだ。君がそうじゃないってことはよーく知ってる。」

弧を描く薄い唇が,赤子に言い聞かせるように言葉を紡ぎ出す。甘い毒を含んだそれが耳に入った瞬間,体が痺れて動けなくなった。

「僕に贈られた物を着て,僕に脱がされて。その後は・・死にたくなるほど気持ち良くしてあげる。」

行こうか。と襖を開けて手を握られる。日の光に照らされた燭台切の瞳は,いつもの穏やかな金色だった。

18 嘘つきの箱庭A



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