「主っ!完成致しました。お納めください!」
「えっ!?これって・・・」

げっそりやつれた顔の長谷部からなまえの首に掛けられた物。それは,極お守りを数珠つなぎにした首飾り。徹夜で作ったらしい。審神者に効果があるとは思えないが,忠臣が幾晩徹夜して作ったかに思いを馳せると,なまえの目頭は熱くなった。実は,なまえも長谷部の為に徹夜して作った物がある。今にも泣きそうな忠臣の手に握らせた。

「こ,これは・・!何とお美しい!!主に瓜二つではありませんか!!」
「へへ,そう?1週間徹夜しちゃった。枕元に置いてね。眠れるようになると思う。」
「主,一刻もお早いご帰還をお待ちしております。貴方と離れるかと思うと,もう折れそうですよっ!」
「そんな事言わないでよ・・。帰ってきたら,言う事聞いてあげるから!ね!?」

主の思い遣りが,身に沁みます。と唇を震わせながら長谷部は泣いた。ドスンと音を立てて桜が落ちてくる。彼らのやり取りを見ていた加州は,横にいた燭台切に声を掛ける。

「主達,何やってるの?あの首飾り,めちゃくちゃダサいんだけど。ていうか,主の人形作りの練度高すぎない?」
「この件が決まってから,長谷部君,主がいないと不眠で折れるかもしれないって大騒ぎしてさ。極お守りと人形の中にはね,彼が育てたらべんだーのぽぷりが入ってるんだ。安眠効果がある薬草。」
「なに?主達,安眠のために毎日徹夜するなんて本末転倒なことしてたの?」
「馬鹿だよね,彼ら。長谷部君って本当に格好悪いよ。折れると言えば,主がベタベタに甘やかすと知っててやってるんだから。あーあ。さっさと折れれば良いのに。」

長い腕を組んで小首を傾ける燭台切。なまえには決して見せない残忍な瞳を長谷部に向けている。加州はギョッとした。彼も大概猫かぶりだが,平安刀や燭台切の暗黒面は狂気を孕んでいるのだ。

「加州君も共感できないってことは,まともってことだよ。社畜に共感できるのは社畜だけ。見てみな,転送装置の横。」

超毒舌の燭台切は,転送措置の横を指差した。そこには,なまえ達のやり取りを見て号泣し,油揚げで涙を拭くこんのすけの姿があった。長谷部だけずるい!と,加州はヤジを飛ばす。

「すまんなぁ。俺も主から人形を貰っていたのだ。」
「はあ!?何で三日月が・・・」

加州は,三日月が大事そうに抱える人形を見て言葉を失った。余りにも禍々しい物がそこにあったのだ。

「直接渡すのが恥ずかしかったのであろう。俺の部屋の柱に五寸釘で打ち付けてあった。情熱的な文も付いていたぞ。やぁ嬉しいな。」
「その文には,何て,」
「『天誅』だ。」

三日月が貰ったと言うのは,額部分に生々しい五寸釘の穴が開いた呪いの藁人形だった。加州の背筋はぞっとした。曲がりなりにも神である彼に天罰を下そうとしている主にも。そして,それをうっとりとした表情で喜んでいる彼にも。何故,桜を散らせることができるのか。彼は一体何をしでかしたのか。呪いを掛けられた張本人は,魅惑的な笑顔を浮かべてなまえの耳元で囁いた。

「早く帰ってきてくれ,なまえ。ここまで情熱をぶつけられたら,じじいはもう我慢できんぞ。なぁ,今から閨に行かぬか?・・・あなや。気が逸ってたっぷり愛でる余裕がない。頼む,胎に入れる資格をくれ。」
「私が怒ってる理由わかってる!?本当っ最低!もう一回呪ってやろうか!?」
「鶯丸には気をつけろ。あやつは曲者だ。間違いなぞ起こした日には,なまえがこの人形と同じになってしまう。俺としては是非とも避けたい。」
「ひっ!!!」

鶯丸は,なまえに対して常々,大包平を探しに行こうと誘っていた。なまえの本丸に彼はいないのだ。彼が手に入るとされていた頃,まだ鶯丸がいなかった。他の任務で忙殺されていた事もあって,なまえは大包平の入手の機会を逸してしまったのだ。今は入手できないと鶯丸に再三説明したが,鶯丸は"君なら大丈夫だ。”の一点張りで譲らない。
ある日,政府から突然,審神者と大包平と同じ刀派の男士とで探索せよとの許可が下りた。一定の条件を満たした本丸には,ご褒美として欲しい刀の探索許可が下りることがあるらしい。鶯丸がこんのすけの助力を得て,なまえには内緒で政府へ申請を行っていたのだ。そして,今,なまえと鶯丸は泊まりがけで探索に向かう。

「はい,お弁当。君のナカに僕が作ったモノが入らない日が来るなんて。本当に悲しいよ。悲しすぎて僕,折れちゃうかもしれない。嫌だなぁ,格好悪いよ。」
「燭台切までどうしたの!?ああ!本当に心配だわ・・。帰ってきたら何でも言うこと聞くから,留守番お願い!長谷部があの調子だから燭台切が頼りなの!」
「へえ・・何でも?だったら頑張るよ。どんな風にお豆を頂いちゃおうかな・・・」

言質を取ったとばかりに満足気に目を細めた燭台切は,豪華なお重を手渡した。醸し出される圧倒的夜感。なまえはたじろいだ。すると,三日月も大きな巾着を渡す。

「おお,忘れていた。主,これを持っていけ。」
「何こ・・・」
「女子は,環境が変わると急に月の物が来ることがあるらしい。先週終わったはずだが用心の為だ。昼用と夜用を入れた。いつも使っているすりむたいぷの羽根付き。しょーつもあるぞ。」
「なっ!!どうして!そんな個人的なこと知ってるのよ!?」

無駄に高い向上心を発揮させて,環境の変化と月の物との関係についてご教示する三日月。今までやり取りをぼうっと見ていた鶯丸が,初めて口を開いた。

「どうしてって皆知っているさ。顕現する時,三日月が立ち会うだろう?主の月の物が大体いつ来るかについて,その時に申し送りがあるのだ。何だ,知らなかったのか?」
「は?嘘でしょ・・一体,何の為に・・・」
「何の為って,月の物が来ている間にまぐあいはできんだろう?合理的な夜這いを掛けるためだと俺は思っていたのだが。まあ,細かいことは気にするな。」

気にしないわけにいかないだろう。超プライベートな事柄が本丸全体にダダ漏れなのだ。じじいは何が目的で個人情報をばら蒔いていたのか。その時,なまえの頭にある物が浮かんだ。

「厨に貼ってある燭台切のカレンダーの,赤い☆印ってまさか・・」
「うん,そういうこと。皆がわかるようにね。毎月,月の物が無事に来る度に祝いの宴会をやるんだよ。知らなかったの?」

燭台切は,恥ずかしがる様子もなく言ってのけた。唖然としていたなまえだが,ある疑問に突き当たった瞬間,背筋がぞっとする。

「・・ねぇ。誰が確認してるの?私に,月の物が来たって・・」
「俺に決まってるだろう?でもなあ,言わずとも皆気付くわけだ。俺達は刀。血の香りには敏感だからな。はっはっは。」

三日月がさも当然とばかりに宣う。何を笑っているのだ,このじじいは。なまえの脳内では,生理中の出来事が駆け巡る。男士達は皆,異常に優しくしてくれていた。畳み掛けるように長谷部が声を掛ける。

「喜ばしいことなのですよ?貴方が立派な女人だという証なのですから。俺がいつもお出ししているさぷりめんとをお持ち下さい。」
「そう言えば,これって何・・・?」
「葉酸です。腹の中でややこが健康に育つために必要だそうですから。ちなみに,俺は亜鉛を飲んでいます。精力と子種が強くなるそうですから。」

子作り頑張りましょうね。と,なまえ人形を胸に抱き,頬を赤らめてはにかむ長谷部。息を呑むほど美しく艶のある顔。だが,刀という金属がミネラルを摂っているなど全く笑えない。

「子作りって・・長谷部!?どうしちゃったの!?本体にひびでも入ってるんじゃない!?」
「主。茶をたっぷり飲んでいるから,俺の精力は底無しだ。今宵,ご覧にいれよう。ん?俺のせくしーな腰に足を絡めるのを想像したら,股が疼いて仕方ない?はは,俺もぶち込みたくて仕方ないぞ。よし,もうイクか。」
「鶯丸!?何か色々おかしいんですけど!?おい三日月!戻ったら地獄を見せてやるから,首洗って待ってろ!!」
「何と情熱的な・・・。首と言わず全身清めた上,閨では全力を尽くす所存だ。この天下五剣。夜這いを掛けてくれる主に,恥をかかせる真似などできぬわ。」
「貴様はもう折れろよ!鉄クズ!!」

トンデモ発言をする忠臣に顔面蒼白になった直後,平常運転の三日月にブチ切れるなまえ。トンデモ発言をする鶯丸に転送装置のもとへずるずると引きずられた。

「遠征にイってくる」


「ねえ長谷部!その人形,ちょっと見せてよ!」
「こらっ!貴様,主の玉体の写しに何てことを!!」

長谷部だけが人形を貰ったことにまだ腹を立てていた加州は,人形を取り上げた。確かめなければならないことがあるのだ。装束姿のなまえ人形の身ぐるみを一気に剥がした。装束を剥ぎ取られたなまえ人形のあられもない姿が露になる。加州は赤い目を大きく見開いた。隣の長谷部も顔を真っ赤に染めている。

「赤の丁ばっくに,ラインストーン!!あるじっ!!やっぱり俺って愛されてる〜!!!」

加州は,大量の桜を散らせて歓喜の声を上げたのだった。

茶と大包平への道は1日にしてならず@



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