特急三日月宗近ネタ・聚楽第ネタ・監査官視点


とある本丸。監査官である俺は,ある作戦への参加を促し,評定を行うためにやってきた。それとは別に,審神者と刀剣男士の評定も行わなければならない。政府による事前の申し送りは,“心してかかれ”だった。猟奇的な男士揃いらしいが,超優秀な監査官であるこの俺に掛かれば赤子の手を捻るようなもの。相手に不足なし。俺は玄関へと足を進めた。

「いらっしゃい。どちら様?」
「・・・監査官だ」
「かん・さかん?三日月なら中にいるよ。今日から任務があるんだけど,ゆっくりしてってよ。」

出迎えに来たのは加州清光だった。この本丸は何故か初期刀を入手することが出来ず,初鍛刀の三日月宗近が初期刀の役割を担っていたはず。なるほど?審神者に会う前にまずに三日月に顔を見せろというわけか。警備は万全と言ったところかな。

「早いけどもうすぐ夕餉にするから,あんたも食べていきなよ。はんばーぐだよ。はい,お茶どうぞ。」

友好的かつ礼儀正しい加州清光に食堂へ案内された。出された緑茶を飲むーーー美味い。掃除が行き届いた食堂には男士が大勢集まっている。どいつもこいつも見知らぬ顔(顔は出していない)の俺が監査官だと名乗っても,ふーん。と言うだけで警戒心の欠片もない。

「いらっしゃい。」

審神者の登場だ。どこか浮き世離れした色香漂う笑みを浮かべた女。へえ?噂には聞いていたが見目麗しいじゃないか。三日月宗近の背中に足を突き刺した様な奇天烈な履き物が気になるが。ん?審神者に会う前に初期刀に会うのではなかったのかな。女が俺の目の前に座ったところで三日月宗近がやってきた。女の隣に座ると,自分の手を差し出して拭かせ始める。

「燭台切プロ,このケチャップの“YES”って文字は・・・」
「人の男女は閨の誘いを口に出さずに文字にするんだって。知らなかったの?まあ,僕はいつだって君を抱くから関係ないんだけどね。」

ははっ,流石は長船派の祖。女は動揺しているように見えるが,男を誘い込む手管かもしれない。審神者の立場と美貌を利用して男士を貪っていないか調査する必要があるそうだ。

「主は俺とはんばーぐを交換だ。じじいが食べさせてやろう。」
「やめてよ。僕,三日月さんに興味ないんだけど。」
「俺とて素粒子ほどの興味もない。ほれ主,あーんだ。」

三日月がドスの効いた声を発した瞬間,彼の周りの空気が凍りつく。嫌がる女の顎を掴んで肉の塊を口に詰め込んだ。どうもこの本丸には不穏な気配がするな。こんな調子で作戦に参加出来るのだろうか。

「ところで,頼みを聞いてくれるか?」
「ついに折れる覚悟が出来たってわけ?今すぐ折れろ!アバヨ,三日月宗近!!」
「・・・あなや。おい,今の聞いたか?」
「聞いたよ。びっくりだね。」

何て女だ。相棒と呼ぶべき初期刀相手に無礼な態度。三日月が目を見開いているぞ。もしや,この女。男士を肉奴隷にするのに飽き足らず,あの履き物の様に踏みつけて馬車馬みたく働かせているのか。記録によると,この女はとんでもない社畜のはず。政府に虚偽の報告をしているのかもしれない。慎重に調査する必要がありそうだな。俺の隣に座っている髭切が,苦虫を噛み潰した様な顔をしている。怒って当然・・

「最高おぶ最高。もう我慢出来ないや。今夜,咥え込ませるって決めたよ。歌を詠まなきゃいけないから僕は任務ぱす。」
「献上された刀の俺が折れろなんて言われた日には・・・おっと!股がトンチキになってきた!任務はぱすだ。」
「鶴丸,わかるぞ。茶を飲んでる場合じゃないな。閨で俺の言う事を聞かせたくて仕方ない。俺もぱすだ。」

平安刀が一斉に任務を放棄すると宣言した。反乱と見なして良いのかな。しかも女を抱く算段までしている。なるほど,女の方が肉奴隷ってわけか。ちらりと女を見遣ると,また肉の塊を口に詰め込まれていた。後でその肉の様に食べられてしまうのだね,可哀相に。

「主は男心を掴むのが上手い。心がときめくなあ。絶対に折れてなるものかと力が湧いてくる。生存が限界突破したぞ。畑当番も何もかもぱすだ,いえーい。」
「ちょっと三日月!このDVDは何!?」
「特急三日月宗近だ。近侍曲も良いのだが,たまには趣向を変えてだな。良い曲だろう?」

折れろと言われて力が湧くとは,こいつの頭は一体どうなっているのだ。しかも,近侍曲の改変まで企んでいるとは。この三日月宗近は,全本丸で最も危険な男士と記録されているが想像以上だな。猟奇的すぎる三日月の発言を完全無視するという異次元の胆力を見せた女。だが,会社帰りと思しき女が車窓を眺めて涙を浮かべる映像が流れた瞬間,ぐっと目頭を押さえた。頓珍漢なやさぐれた夜を思い出してしまったのかな。肉奴隷にされているのだから無理もない。

「泣くな泣くな。俺とじゃかるたに行くか?それとも閨」
「っ!!おい腐れ刀,とっとと折れろよ!!」
「また折れろ頂きました。いえーい。」

くそっ・・三日月にまで食い物にされていたのか。初期刀として審神者を守ってやらないでどうする!空気を凍てつかせた事など嘘の様に桜を爆発させながら,今度は自分に食わせろと女に強請っている。今夜は皆に食べられてしまうのだね,可哀相に。

「監査官の君。政府は贔屓を許すのかい?僕達にも折れろって言うよう主に注意してよ。」
「えっ!?髭切,監査官って・・・!?!?」

ぽとり。三日月の口に放り込むために箸で摘んだ肉が皿の上に転がった。紅い唇をぱくぱく動かしながら俺の顔を見る女。俺を誰だかわからずに一緒に食事をしていたとは。そんな調子だから肉奴隷にされてしまうんだよ。箸を置いた俺は,ご馳走様と手を合わせてから咳払いを一つした。

「・・・放棄された世界,歴史改変された聚楽第への経路を一時的に開く・・」


「すみません。三日月のご友人だとばかり・・・」
「俺に猟奇的な友人を持つ趣味はない。」
「主,ごめん!俺が,かん・さかんって名前だと勘違いしたばかりに。ていうか,ほうじ茶ぷりん美味しいねー!」
「いやいや,私が確認しなかったのがいけないんだから。あっ美味しい!やっぱり燭台切はプロだね〜」

俺は三日月の友人と思われていたようだ。驚いた事に,高速槍や苦無も遊びに来るらしい。歴史修正主義者と裏で繋がっているのかもしれない。三日月の身辺を洗った方が良さそうだ。初期刀が反乱を企んでいるかもしれないというのに,女は呑気に食後の甘味を食べている。間の抜けたところが肉奴隷になった原因だと思うよ。確かに,この甘味は美味いけどね。

「あの・・そのペン,書きづらくありませんか?良かったらこれを使ってみて下さい。」

超優秀な監察官である俺は,細切れ時間も無駄にはしない。甘味の時間を利用して審神者や男士の評定を行っているのだ。審神者の欄に“肉奴隷の疑いあり”と記入したその時,女から意外な申出があった。差し出された文具を使ってみるーーー早く書けるぞ。

「お前が使っているのは政府の支給品だろう?そんな安物を使って結果が出せると思えないな。ちなみに俺は三色ぼーるぺん派だ。赤・黒・青ではなく,赤・黒・紫だ。この紫は,俺の瞳の様で美しいと主がお褒め下さった色だ!だからこの紫以外は絶対使わない!!」
「ぺんは,24時間働くジャパニーズびじねすまんの刀ばい!」
「私達,新商品が出る度に,いろはにほへとを何秒で書けるか計ってるんです!今のところ,そのペンが最速で。良かったらお持ち帰り下さい!」

文具が入った箱を俺にくれたのでありがたく頂戴する。評定に手心は一切加えないけどね。文具やら精力剤やら,長谷部や博多と嬉々として語り合う女。骨の髄まで社畜のようだ。俺は自分で書いた肉奴隷の文字を指でなぞる。

「・・・楽しめる事があったのだな。」
「・・・はい?」
「随分と苛酷な生活を強いられている様に見えたものでね。もっと自分の体を大事にしないと。嫌なら嫌とはっきり言うべきだ。減るものではなしって,やさぐれていては駄目だよ。」

長谷部と博多がぽかんとしているがそれで良い。肉奴隷にされているなんて忠臣に知られたくないだろう。女も負けず劣らずぽかんとした顔をしているが,流石に伝わっているはずだ。そろそろ現地に向かわなければならない。俺は食堂を後にした。


「主は男心を掴むのが上手くてなあ。良い女だろう?」
「・・・本作戦には関係のないことだ。」

出立前に本丸の様子をつぶさに記録していたところ,三日月が話しかけてきた。身辺を洗っていないため確定は出来ないが,こいつの評定は不可で良いだろう。審神者を肉奴隷にし,高速槍や苦無といった敵との癒着。叩けば埃しか出なさそうだ。

「こ,これを!大包平探索の時に使っていた物なのですが,無事に帰還出来たので人にも効果があるかなって。・・どうかご無事で。うちの刀をよろしくお願いします。」

女が息を切らせてやって来た。数珠繋ぎになったお守りを俺の首に掛けて頭を下げる。愉快そうに瞳を弓形に細めた三日月が,俺にそっと耳打ちをした。

「言った通りだろう?でも駄目だ。あれは俺のものでな。」
「・・・現地で待つ」

現地へ転送される直前,不安気に瞳を揺らす女と目が合う。女に貰った文具を握る手に自然と力が籠もった。

20 賽は投げられた@



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